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2人で眺める永遠への光
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「ありがとうございます」
俺も晴美さんの優しさが伝わったから、深々と頭を下げる。
俺の頭上で晴美さんはまたうんうんと頷く小さな息衝きをし……
「娘をよろしくお願いしますね」
と、母親らしい言葉を俺にかけてきた。
「……っ」
途端に俺の涙腺が弛む。
俺は今まで晴美さんに叱られた事が多くて、その頻度は実の母親であるお袋以上に多かったように感じる。
その度に俺が文句一つ言わず、不平や不満を漏らす事無く晴美さんの言う通りに従っていたのは、彼氏彼女の関係になる前から夏実の事を密かに想っていたからだし、同時に俺自身晴美さんの事を育ての母であるという意識を持っていたことに他ならない。
頭を下げ続けている今も、晴美さんは無言でうんうん頷いていて目尻に光るものをきっと浮かべているのだろうと想像すると……俺は頭をそのままの位置に留めながら
「晴美さんは夏実のお母さんであると共に、俺自身晴美さんの息子だと思っていますから……いつも本当にありがとうございます」
と、正直に自分の気持ちを伝えた。
晴美さんの息子だと思っている……そんな発言をしたのは、生まれて初めてだと自分でも思う。
それもあってか、自分の気持ちに正直になって口から出た言葉でありながら次第にその発言が恥ずかしくなってきてしまった。
「もう……帰ります」
目線を一枚板のダイニングテーブルに向けたまま立ち上がり、お袋が風呂から上がる前にこの家から出ていかなければならないという意識が向いて、それ以後は親父の顔も和明さんも晴美さんの顔も見れないまま……居間を出て廊下を通り、下を向いたまま玄関で靴を履く。
「お邪魔しましたっ!」
この家に入ったばかりの時はそんな意識全くなかったのに、俺は実家を他人の家であるかのような言葉を玄関で言い、外に出た。
「あー……」
親父とお袋がいつも手入れをしている庭の通路を通り過ぎ、門扉を閉めて……街灯に照らされた和風家屋を、いろんな気持ちが入り混じる情けない声を出しながらマジマジと見つめる。
それから今度は、その隣に建てられているオレンジ屋根のごく一般的な洋風家屋を生け垣越しから覗き、部屋の照明が二階の部屋だけ明るくなっているのを確認してから、駐車していた自分の車の鍵を開けた。
そこから俺はどんな気持ちで自宅まで運転しただろうか。
頭の中がグチャグチャになり過ぎて、運転している最中もその整理がついてなかったように思える。
最終的に、自分の頭が「夏実に喜んでもらえる一泊旅行にしよう」と、前向きな気持ちになれたのは……0時前の時刻で。
それは夏実の甘い残り香のするベッドや羽毛布団の臭いを嗅ぎながら就寝に着く直前の時刻でもあった。
俺も晴美さんの優しさが伝わったから、深々と頭を下げる。
俺の頭上で晴美さんはまたうんうんと頷く小さな息衝きをし……
「娘をよろしくお願いしますね」
と、母親らしい言葉を俺にかけてきた。
「……っ」
途端に俺の涙腺が弛む。
俺は今まで晴美さんに叱られた事が多くて、その頻度は実の母親であるお袋以上に多かったように感じる。
その度に俺が文句一つ言わず、不平や不満を漏らす事無く晴美さんの言う通りに従っていたのは、彼氏彼女の関係になる前から夏実の事を密かに想っていたからだし、同時に俺自身晴美さんの事を育ての母であるという意識を持っていたことに他ならない。
頭を下げ続けている今も、晴美さんは無言でうんうん頷いていて目尻に光るものをきっと浮かべているのだろうと想像すると……俺は頭をそのままの位置に留めながら
「晴美さんは夏実のお母さんであると共に、俺自身晴美さんの息子だと思っていますから……いつも本当にありがとうございます」
と、正直に自分の気持ちを伝えた。
晴美さんの息子だと思っている……そんな発言をしたのは、生まれて初めてだと自分でも思う。
それもあってか、自分の気持ちに正直になって口から出た言葉でありながら次第にその発言が恥ずかしくなってきてしまった。
「もう……帰ります」
目線を一枚板のダイニングテーブルに向けたまま立ち上がり、お袋が風呂から上がる前にこの家から出ていかなければならないという意識が向いて、それ以後は親父の顔も和明さんも晴美さんの顔も見れないまま……居間を出て廊下を通り、下を向いたまま玄関で靴を履く。
「お邪魔しましたっ!」
この家に入ったばかりの時はそんな意識全くなかったのに、俺は実家を他人の家であるかのような言葉を玄関で言い、外に出た。
「あー……」
親父とお袋がいつも手入れをしている庭の通路を通り過ぎ、門扉を閉めて……街灯に照らされた和風家屋を、いろんな気持ちが入り混じる情けない声を出しながらマジマジと見つめる。
それから今度は、その隣に建てられているオレンジ屋根のごく一般的な洋風家屋を生け垣越しから覗き、部屋の照明が二階の部屋だけ明るくなっているのを確認してから、駐車していた自分の車の鍵を開けた。
そこから俺はどんな気持ちで自宅まで運転しただろうか。
頭の中がグチャグチャになり過ぎて、運転している最中もその整理がついてなかったように思える。
最終的に、自分の頭が「夏実に喜んでもらえる一泊旅行にしよう」と、前向きな気持ちになれたのは……0時前の時刻で。
それは夏実の甘い残り香のするベッドや羽毛布団の臭いを嗅ぎながら就寝に着く直前の時刻でもあった。
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