【完結】彼女が18になった

2人で眺める永遠への光

14

　結局はゴンドラが一周回る前に唇を離してお互いスヌードもかぶりあったんだが、その場から降りて冬の冷気に頰が冷やされても夏実の左手を握る手だけは冷やされたくない。と、そう思って……

「手が冷えるからポケットの中、入れておこうか」
「うん♡」

　自分の服の中で高ぶる欲情の熱を保ちながら、園内の散策を始めた。



「綺麗だな……」
「うん、すっごく綺麗……」

　ネットの情報よりも実物のイルミネーションはとても煌びやかで美しく、さっきからずっと「綺麗」の感想ばかり口から出てきていた。

「素敵な場所に連れてきてくれてありがとう湊人♡」
「ごめんな、『10年前の王子』の日を未だに思い出せなくて」

　イルミネーションライトの光に照らされた彼女の可愛い顔を見つめながら、俺は久しぶりに「綺麗」以外の言葉を発した。

「えっ？」

　目を見開き驚く彼女とは真逆に、俺は瞼を閉じる。

「10年前なら、俺は夏実に絶賛片想い中の時期だ。そして『夏実への想いは嘘だ偽りだあり得ない』と自ら押し殺して他の同年代の人と疑似恋愛をしていた罪深い時期でもある。
　8歳の夏実がこんな俺を『王子様だ』と思い好きになってくれたというあの日を……本当なら俺は覚えていなきゃいけないし、出来れば記憶に生涯残しておきたかった」
「湊人……」
「夏実を初めて助手席に乗せた事はぼんやりと思い出せるようになったんだけど、どうしてもそこからは思い出せない。夏実に申し訳なく思うし、これは俺の罪だと思う事にしたんだ。
　大好きな夏実を裏切って自分の想いにも向き合わなかった罪だと……」

　夏実を裏切って自らの想いに向き合わなかった罪……本来なら夏実が俺に対し恋に落ちた瞬間を目の当たりにする事が出来ていた筈なのに未だ記憶を手繰り寄せられないのその罪は、果てしなく重いものであると俺は感じていた。

「そんな……あの時の湊人は青ざめてて身体がフラフラしてたから。だから忘れてても仕方ないよ」

　優しい夏実は俺をそう宥めてくれたが、俺はゆっくりと左右に首を振る。

「このイルミネーションを夏実に観せてあげたいって思ったのは、その罪滅ぼしも含んでいるんだ。
　……もう、夏実を肩車してあげる事は出来ないしまたあのテーマパークで人混みに塗れるのは難しいけれど、せめて遠くの……別の場所にはなるけど、俺がマスク無しで、ほんの少しでも、『あの時の夏実の王子』に似せる事が出来たら良いなって……」

　夏実に勝てずにいる罪深き俺は、そんな浅はかな気持ちをこのデートに込めたのだと正直に告白した。
　部長昇進やプロポーズの他にこの事もこの日の内にしてしまいたかったのだ。

「もうっ……真面目で正直なんだから湊人はっ！ あのパレードの夜を湊人が覚えてない事、私は何とも思ってないし、別に今ここでそれを謝らなくて良いのにぃ」

　夏実は俺のポケットに入っている手をモゾモゾ動かして、手繋ぎ中の俺の指をスリスリ撫でる。

「でもそんな真面目で正直な湊人も大好き♡ 今の言葉で尚更、『今夜の事は一生忘れない』って宣言になっちゃってるし♡」

　本当に夏実は賢くて可愛い子だ。
　まだ俺が宣言してない内容まで読み取ってくれた。

「勿論だよ。今夜の事は絶対に忘れない。
　ずっとずーっと俺の記憶に残しておくし、生涯夏実を愛するよ」
　
　先に読み取られてしまったので、改めてそう宣言したのが少々照れ臭かったが

「ありがとう♡ やっぱり湊人は私の最高の王子様だ♡」

　煌びやかで色とりどりの光に包まれた夏実は最高に可愛く、可憐で……

「それなら夏実は俺にとって最強のお姫様だよ」

　今頭に思い浮かべた言葉をそのまま彼女に向かって発し、スヌードもマスクも無い素の顔を自ら晒す。

「最強のお姫様ってなんか変っ！ 最高にしてよぅ」
「最高でもあるんだよ。なんたって最強に可愛いんだから♪」
「なんかズルい言葉ぁ。ワザと『可愛い』を付けて誤魔化した感じするぅ～」
「そんな事ないって♪ ほら、イルミネーションのトンネルがあるから一緒に通ろう♪」
「通るけどぉ～！ 湊人と一緒にトンネル通りたいけどぉ、でも『最強』が引っかかるなぁっ」
「ほらほら夏実っ！ めちゃくちゃ綺麗♪ すっげー綺麗で眩しいくらい！」

　しばらく夏実は「最強のお姫様」に不満を持って唇を尖らせていたが、やっぱり煌びやかな長いトンネルの魅力に屈せざるを得なかったらしく、その後は共に笑顔でイルミネーションエリアを楽しく散策する事が出来た。