【完結】彼女が18になった

チャフ

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【追加エピソード③】美味しい桃の食し方(side静華)

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「……これで私の『初体験エピソード』はおしまい」

 昔話の「めでたしめでたし」みたいな口調で話を急に終わらせたものだから、なつこちゃんはまん丸の目を大きく開かせて

「嘘でしょ!? そこで終わり??」

 と素っ頓狂な声をあげた。

「終わりだよ。あとは私の部屋でお互い初めての経験をしましたーっていうだけの話だもの」
「そうだけど……っていうか、そこからが重要なのに!」

 私にとってこの話は、なつこちゃんに女子高生らしく「そこで終わるんかーい!」とふざけて突っ込んで欲しいが為にしたものだった。だからこれ以上男女のなにそれまで生々しく語っても仕方がないと思っている。

「なつこちゃんは幸せで心地の良い初体験が出来たんでしょ? それだったら余計に私の話なんてこれ以上出来ないよ。所詮は童貞と処女の初体験なんだからあれやこれやと失敗するし、痛くて泣くし血が出てパニック起こすし、もう滅茶苦茶だもの」

 私の「失敗」や「血」のくだりで同じ女であるなつこちゃんも口を開けて「おお……」と声を漏らす。

「そっか……私の時は湊人が配慮してくれたからその辺ほとんど感じずに済んでいたけど」
「何もかも初めてなら、配慮も何もあったもんじゃないよね」
「なるほど」

 なつこちゃんに笑顔になって貰いたかったはずなのに、結果複雑な表情にさせてしまったので私は可愛い友達の頭を優しく撫でてあげた。

「昔の話だから。っていうか、みなとっちだってそういう経験を経てきたからなつこちゃんに幸せな初体験をさせてあげられたんだし、みなとっちとしても私としてもそれで良かったんじゃないかな。
 元カノの立場だけど、なつこちゃんがみなとっちと幸せそうにしているの見てたら胸がほんわかしてくるからね」
「うーん……それだったら静華さんにとってのファーストキスは桃の味だけど、初エッチは痛くて辛い思い出しかないって事になっちゃう」

 それでもなつこちゃんは当時の私を心配してくれている。みなとっちのパートナーがなつこちゃんで本当に良かったと思うし、今はそれがとにかく嬉しい。

「確かに痛かったけど、2回目からは普通に出来たから本当に気にしてないんだよ。それに初エッチの後、みなとっちは私に親切にしてくれたから辛い思い出にはなってないんだよ」
「親切?」

 そんな優しいなつこちゃんに、思い出をまた一つ明かすことにした。

「エッチが終わって後始末を色々と済ませていたら、外は既に真っ暗な夜になっていた。みなとっちは律儀にも彼女に返事の来ない『お別れメール』を送って、私も今夜くらいは1人エッチ無しで眠れるかなぁってくらいクタクタになってたからベッドに横になったの」
「普通なら、そこで湊人は『帰る』ってなるよね? でも湊人はすぐ帰らなかった……そうなんでしょ?」
「なつこちゃん察しが良いね。みなとっちはすぐに帰らなかったの。初体験とはいえ『失敗したり私に痛い思いをさせたのは自分の責任だから』って、私が眠りにつくまで頭を撫でてくれたんだ。ちょうど、私がなつこちゃんにしてるみたいな感じで」

 尚も可愛い頭を優しく撫でながら彼の親切エピソードを話すと、可愛らしい頰があの時の桃のような赤みをさす。

 その反応に、私は当時の事を再現するように優しく語りかける。

「なつこちゃん、頭気持ち良い?」
「うん……気持ちいい」
「撫でられるの、好き?」

 当時の私は「そんなことされたの生まれて初めてだから分からない」と答えたけれど、目の前の可愛い桃ちゃんは幸せそうな表情をして

「好き♡」

 と返答した。

「そっか……だよね。私もその時『気持ちいい』って、心が癒されて心地良く眠ることが出来た。だから私もその日から、男の人に頭を撫でられるのが好きになったんだよ。
 結局卒業するまで、みなとっち本人に『頭撫でられるのが好き』だなんて恥ずかしくて言えなかったけれど、エッチの後に必ずしてくれるようになって嬉しかった。
 いつも眉間に皺を寄せて険しい表情をしながら私に接するみなとっちだったけど、いつか桃を食べる時みたいな表情になって私と愛を深めてくれるんじゃないかという期待を寄せたまま、一年以上の時が過ぎていった。
 不機嫌顔なのは、みなとっち自身も変えようがなくて悩んでいたのも知ってる。だから本当は卒業式の日に『笑ってくれないしエッチも心あらずな感じだし、正直愛されてる実感が無い』なんていう酷い言葉をみなとっちにぶつけたくなかったんだよね。本心を言うなら、私もみなとっちの不機嫌顔を受け入れて彼以上に愛してあげたいって思っていたんだ」

 私のその言葉に合わせるように、なつこちゃんと目が合った。

「じゃあ、なんで湊人を振っちゃったの?」

 なつこちゃんの素直な問いに、私は目を閉じてこう話す。

「高3の冬休みだから、ちょうど今くらいの時期だったかなぁ。なつこちゃんの地元駅で、みなとっちが幼い女の子と手を繋いで歩いているのを見かけたから」

 目を開けなくても、私のその言い方で察してくれたんだろうと思う。
 「え」と言う小さな声のリアクションで、私的にはもう充分だった。

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