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【追加エピソード④】私が20歳になった(side夏実)
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しおりを挟む結局湊人を休ませる暇を作れないまま、目的地周辺に辿り着いた。
「わあ凄い!! 見晴らしめちゃくちゃいいなぁ!!」
車を降りてすぐに広がる絶景に喜ぶ湊人の表情を見て私の心も和んで
「うん……今日と明日はね、湊人にマスク無しで居られる場所で思いきり空気を吸って欲しいって思ったんだ」
湊人の腕に抱きつきながら、私は今日からの一泊旅の種明かしをする。
「えっ?」
「湊人が20歳の時、お姉ちゃんと直くんと4人で遊びに行ったでしょ? あの時の出来事、湊人はほとんど覚えてないって言ってたから……。
だから私が20歳になったら、湊人の思い出に残るようなドライブをしたり良い空気をいっぱい吸って心地良くなってほしいなって思ったの」
「夏実……」
私の言葉に湊人の瞳は潤む。
「まぁ、初っ端から私の運転が危なっかしくてある意味忘れられないドライブになっちゃったんだけどねー!」
私の言葉である程度ジーンときたり感動してほしいなとは思いつつも、大好きな湊人から涙がこぼれてしまうのはちょっと嫌な私はそこで軽くおちゃらけてみたんだけど
「フッ」
32歳の湊人はとっても大人で、私の思いを全部優しく受け止めてくれ……
「嬉しいよ夏実。夏実はとっても偉くて可愛い妻だな」
大好きな低音ボイスや温かな掌で私を褒めてくれた。
「うふふー♡」
多分湊人はさっきの私の言葉は全てを理解してくれたんだと思う。
12年前、私達3きょうだいが免許取りたてな湊人をテーマパークまで無理矢理車を運転させちゃって真夏で激混みの最中気分が悪くなって何時間も座り込んでしまった……あの日の恩返しを私がしようとしているという事を。
「ありがとう夏実」
見晴らしが良い空間で抱き合う私達をクールダウンさせようとばかりに、涼やかな風がブワッと私達を包み込んだ。
「うん♡」
「高台だからちょっと寒いな」
「うん……もう、旅館の方へ向かっちゃおうっか♪」
避暑地の夏風は私達にサービスし過ぎちゃったみたいで、「もう温泉に入って温まってしまおうか」という気分にさせてしまう。
「旅館までまた夏実が運転するのか?」
「勿論っ♪ 今日は湊人にハンドルを握らせないんだからー♪」
私が半年以上前から計画して吟味した事もあって、旅館のお部屋からの眺めも温泉もお食事も何もかもが完璧で、全部ぜーんぶ湊人に喜んでもらえた。
「ちょっと酔っ払ったかな……」
長い廊下を2人で歩く中、湊人は酔いで顔を赤らめていてそれがとっても可愛らしく見える。
「うふふ♡ 私もちょっと酔っ払ったかも♡」
「嘘つけ、夏実は俺よりもアルコール耐性めちゃくちゃ強い癖に」
「えへ~酔っ払ってないの、すぐにバレちゃった♪」
12歳歳上の30代男性を可愛いと感じ愛で愛で出来る20歳なんて、この世にきっと私しかいないんじゃないかって思っている。
「いいなぁ夏実は酒に強くて」
湊人は今も唇をタコみたいに尖らせて、私の方がビールをクイクイ飲んでしまった事に拗ねている。
「湊人よりもアルコール耐性強そうって分かったのは4日前だよ? 実際ウォッカとかテキーラとかストレートでグイグイ飲んだ訳じゃないから本当にめちゃくちゃ強いのかどうかまでは分からないし」
……そんな夫が宇宙一可愛いって思ってしまい、腕に抱きつき愛おしく頬擦りをしたら
「いくらなんでも20歳になって4~5日でアルコール度数40度超えそうなものなんか飲ませらんないっての! そういうのは酒にだいぶ慣れてからっ」
なーんか湊人の中の色んな琴線に触れたみたいで、何故か私の勉強云々で叱ってきた「昔の湊人の表情」に戻ってしまった。
「分かってるよぅ湊人ぉ。言い方怖いなぁ~」
(怒らせたわけじゃないんだけどなぁ~……なんか叱られちゃったぁ)
今度は私の唇がタコになる。
プリプリ怒る湊人の腕にタコの私が抱きついたままの状態で2人部屋に戻ったら……
「夏実が強い酒を飲めるようになる頃には、もっと俺も酒に慣れておくから」
湊人は突然「大人の男性の色気」を出してきて私のタコの唇を優しく食んだ。
「っ♡」
そのギャップに私は陥落しちゃって、全身を夫の両腕に預ける。
「昨日まで湊人はお仕事忙しくて体もクタクタなんだから私よりビールが進まなかったのは仕方ないよ」ってちゃんと言うつもりだったのに、畳にそのまま押し倒され熱い抱擁やキスを受けていたらぜーんぶ吹っ飛んでしまって……
「ふあぁぁん♡♡♡」
湊人の疲れを癒そう
湊人の20歳の時の恩返しをしよう
そう計画していた全てが、男性的な力でぜんぶぜーんぶ湊人主導に塗り替えられてしまって……。
応援ありがとうございます!
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