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番外編
村川家のオムライス1
*
9月も終わりを迎えたある日のこと、
朝香のスマホに母裕美からメッセージが届いた。
「えっ?! 嘘っ!!」
いつものように亮輔と2人で夕食を食べ終え、コーヒーを淹れる準備をしようと立ち上がった時に届いたそのメッセージは朝香の目をこれでもかと見開かせている。
「どうしたの?あーちゃん」
食器をシンクへ運ぶ亮輔に呼び止めたおかげで朝香は硬直から抜け出すと
「私のお母さん、今夜テレビに出演するみたい。『純喫茶の美味しいオムライス』ってテーマで! 明日放送のバラエティ番組に!!」
と言ってメッセージアプリのトーク画面を彼に向ける。
「ええええええ??!!! それ、超人気番組!!!!」
そこに記されているバラエティ番組名を見た亮輔は朝香以上の大声を出して
「今から録画予約しておかないと! っていうか、お姉さんにも教えておかなくちゃ!! コーヒーが紹介されたりお店の様子も流れたりするのかな? 健人さんにも伝えた方がいいかな? あと、初恵さんとか源さんとか……あとはあとは」
予想以上にテンションが上がっている。
「そんな、ご近所さんにまで言い広めなくてもいいよぅ。見逃し配信だってやってるんだし慌てて知らせなくても」
亮輔の慌てっぷりを見ていたら逆に冷静な考えになって彼を宥め始めたのだが
(うーん……地元では結構名の知れた人気店ではあるけど、まさか全国放送で紹介されてお母さんのテレビ出演もあるだなんて)
とはいえ内心嬉しくてたまらないし
「あーちゃん!明日ご飯食べながら一緒に観ようね!」
「うん♡ 一緒に観ようねっ!」
ウキウキしながらテレビ視聴の約束をする亮輔とのニヤニヤが止まらない。
「そういえばテレビって収録だよね? どのくらい前に収録されたのか知らないけど、山口からわざわざこっち来たのならなんで収録日にあーちゃんと会おうとしなかったんだろう」
「えっ?」
亮輔のふとした疑問に朝香は「そう言われてみれば」と不思議に思う。
(あの番組、テーマによっては収録日が放送日の半年以上前ってケースもあるみたいだからなぁ……お蔵入りする可能性もあるから放送が確定するまで内緒にしてたのかな?
それでもわざわざこっちまで来たんだもん……お母さんの事だから「娘の顔が見たい」って気持ちになりそうな気がするんだけど)
*
「えー? ギリギリまで言わないのって、逆に裕美さんっぽくない? 義郎さん一人でこっち来るなら、私や朝香ちゃんの様子をテレビ収録終わってすぐに見に来そうだけど」
翌朝、『雨上がり珈琲店』の勤務中に亮輔が挙げた疑問点をそのまま夕紀に伝えてみると、彼女はは苦笑いしながらそう返答する。
「確かにお父さんはヤバいくらい子煩悩だから私の顔を見に会いに来たがるでしょうけどぉ。っていうか、お母さんそもそも『雨上がり珈琲店』が開店して以来一度も来店してないじゃないですか! お父さんは店の内装を手伝いにちょこちょこ来てたけど、店が完成して営業が軌道に乗った今こそ夕紀さんの仕事っぷりを確認しに来てくれたっていいでしょう? だって私や夕紀さんの事を常々心配してるようなメッセージは頻繁に送ってくるんですよ?」
「そりゃあ朝香ちゃんの親だし私にとっては師匠だもの! 娘や弟子の心配はある程度するだろうけどさぁ。
でも裕美さんはどっちかというと静観するタイプじゃない? 朝香ちゃんも20歳だし『あまり心配し過ぎて干渉してもいけない』って思ってるのかも」
「………確かに」
夕紀の冷静な発言を聞いていたら「なるほど」と納得してしまう。
「それに、番組側が収録した事について家族に伝え過ぎないようにとか言ってるのかもよ? あの番組、放送のタイミングを見計らって収録の何ヶ月後ーとか半年後ーとか平気でやるじゃん」
「それもそうですよね……」
「心配し過ぎるのも親心だし静観しておくのも親心なのよ……まっ、私はそういうのはまだよく分からないけどさっ!」
「おやごころ……」
夕紀が急に「親の気持ちはまだよく分からない」と自虐してきたので朝香は思わず口籠もってしまう。けれども夕紀のその言葉は「取り繕った飾りの言葉」とは思えず、心の中にスッと入っていった。
家庭環境に苦労してきた夕紀だからこそ、その言葉はある意味重みを増すし尚更両親を大事にしようという気持ちにもなる。
「今夜は私も早めに切り上げて初恵さんと一緒にリアルタイムでテレビ観るよ。素敵な喫茶店が全国放送で紹介されるとこ、私も目に焼き付けておかなきゃだしっ♪」
「……そうですね」
兎にも角にも自分の親が全国放送のバラエティ番組に出演するだなんて一生にあるかないかの大イベントだ。
朝香も亮輔と一緒に放送観て、母の姿をしっかりと目に焼き付けようと決めた。
9月も終わりを迎えたある日のこと、
朝香のスマホに母裕美からメッセージが届いた。
「えっ?! 嘘っ!!」
いつものように亮輔と2人で夕食を食べ終え、コーヒーを淹れる準備をしようと立ち上がった時に届いたそのメッセージは朝香の目をこれでもかと見開かせている。
「どうしたの?あーちゃん」
食器をシンクへ運ぶ亮輔に呼び止めたおかげで朝香は硬直から抜け出すと
「私のお母さん、今夜テレビに出演するみたい。『純喫茶の美味しいオムライス』ってテーマで! 明日放送のバラエティ番組に!!」
と言ってメッセージアプリのトーク画面を彼に向ける。
「ええええええ??!!! それ、超人気番組!!!!」
そこに記されているバラエティ番組名を見た亮輔は朝香以上の大声を出して
「今から録画予約しておかないと! っていうか、お姉さんにも教えておかなくちゃ!! コーヒーが紹介されたりお店の様子も流れたりするのかな? 健人さんにも伝えた方がいいかな? あと、初恵さんとか源さんとか……あとはあとは」
予想以上にテンションが上がっている。
「そんな、ご近所さんにまで言い広めなくてもいいよぅ。見逃し配信だってやってるんだし慌てて知らせなくても」
亮輔の慌てっぷりを見ていたら逆に冷静な考えになって彼を宥め始めたのだが
(うーん……地元では結構名の知れた人気店ではあるけど、まさか全国放送で紹介されてお母さんのテレビ出演もあるだなんて)
とはいえ内心嬉しくてたまらないし
「あーちゃん!明日ご飯食べながら一緒に観ようね!」
「うん♡ 一緒に観ようねっ!」
ウキウキしながらテレビ視聴の約束をする亮輔とのニヤニヤが止まらない。
「そういえばテレビって収録だよね? どのくらい前に収録されたのか知らないけど、山口からわざわざこっち来たのならなんで収録日にあーちゃんと会おうとしなかったんだろう」
「えっ?」
亮輔のふとした疑問に朝香は「そう言われてみれば」と不思議に思う。
(あの番組、テーマによっては収録日が放送日の半年以上前ってケースもあるみたいだからなぁ……お蔵入りする可能性もあるから放送が確定するまで内緒にしてたのかな?
それでもわざわざこっちまで来たんだもん……お母さんの事だから「娘の顔が見たい」って気持ちになりそうな気がするんだけど)
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「えー? ギリギリまで言わないのって、逆に裕美さんっぽくない? 義郎さん一人でこっち来るなら、私や朝香ちゃんの様子をテレビ収録終わってすぐに見に来そうだけど」
翌朝、『雨上がり珈琲店』の勤務中に亮輔が挙げた疑問点をそのまま夕紀に伝えてみると、彼女はは苦笑いしながらそう返答する。
「確かにお父さんはヤバいくらい子煩悩だから私の顔を見に会いに来たがるでしょうけどぉ。っていうか、お母さんそもそも『雨上がり珈琲店』が開店して以来一度も来店してないじゃないですか! お父さんは店の内装を手伝いにちょこちょこ来てたけど、店が完成して営業が軌道に乗った今こそ夕紀さんの仕事っぷりを確認しに来てくれたっていいでしょう? だって私や夕紀さんの事を常々心配してるようなメッセージは頻繁に送ってくるんですよ?」
「そりゃあ朝香ちゃんの親だし私にとっては師匠だもの! 娘や弟子の心配はある程度するだろうけどさぁ。
でも裕美さんはどっちかというと静観するタイプじゃない? 朝香ちゃんも20歳だし『あまり心配し過ぎて干渉してもいけない』って思ってるのかも」
「………確かに」
夕紀の冷静な発言を聞いていたら「なるほど」と納得してしまう。
「それに、番組側が収録した事について家族に伝え過ぎないようにとか言ってるのかもよ? あの番組、放送のタイミングを見計らって収録の何ヶ月後ーとか半年後ーとか平気でやるじゃん」
「それもそうですよね……」
「心配し過ぎるのも親心だし静観しておくのも親心なのよ……まっ、私はそういうのはまだよく分からないけどさっ!」
「おやごころ……」
夕紀が急に「親の気持ちはまだよく分からない」と自虐してきたので朝香は思わず口籠もってしまう。けれども夕紀のその言葉は「取り繕った飾りの言葉」とは思えず、心の中にスッと入っていった。
家庭環境に苦労してきた夕紀だからこそ、その言葉はある意味重みを増すし尚更両親を大事にしようという気持ちにもなる。
「今夜は私も早めに切り上げて初恵さんと一緒にリアルタイムでテレビ観るよ。素敵な喫茶店が全国放送で紹介されるとこ、私も目に焼き付けておかなきゃだしっ♪」
「……そうですね」
兎にも角にも自分の親が全国放送のバラエティ番組に出演するだなんて一生にあるかないかの大イベントだ。
朝香も亮輔と一緒に放送観て、母の姿をしっかりと目に焼き付けようと決めた。
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