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本編
上原亮輔の兄9
*
「ごめん、なさい……」
あれから2人は倒れるように眠り込み、起きたら昼過ぎで、向日葵さんは朝香以上に赤面して居た堪れない様子でいた。
「ううん」
「本当にごめん。あーちゃん」
今は夕方。
コインランドリーで洗濯物を回している時間を利用し、ファミレスで食事をしている最中である。
「本当に大丈夫だから……」
「ごめん」「大丈夫」を互いに繰り返しているだけなのだから怪しまれる事はないのだが、「ごめん」朝の擬似セックスへの謝罪だと理解している朝香にとってはその繰り返しが恥ずかしい。
「でも……あんなこと、いきなりしたのは良くないかなって」
「でも、嫌じゃなかったし。むしろ良かったっていうか」
「本当に?」
「うん……嘘じゃないよ」
何度このやり取りを繰り返しても、向日葵さんは不安を抱えているようだ。
「でも俺……明らかに暴走してたから。あの時俊哉くんとあーちゃんが2人きりになってて何を喋ってるのか分かんないってなったらめちゃくちゃモヤモヤして。
俊哉くんは昔から勉強出来てたし尊敬してるくらいすごい兄だと思ってるんだ。俺の事もずっと気にかけてくれてて」
「うん」
「俺にとっては最高の兄だから。勝てるところなんて一つもないって感じてるから。だからあーちゃんが俺じゃなくて俊哉くんの方を好きになっちゃったらどうしようって不安になって……焦って。それであーちゃんにあんな事して、俺から離れてほしくないって思っちゃって」
彼の話に朝香はコクリと頷いた。
(私と夕紀さんは本当の姉妹じゃないけど、夕紀さんは美人さんだし焙煎に物凄いこだわりを持っているし、お店を開く前だって今だって並々ならない努力をし続けていて魅力的な女性だと感じているから)
夕紀に彼氏は居ない。年齢差はあるが、夕紀の身長は170㎝で高身長の向日葵さんと並んだら似合いのカップルだと感じられるだろう。
(私には夕紀さんみたいな魅力ないもん)
夕紀と彼の兄とで置き換えてみると、向日葵さんが抱える不安を理解出来るし、あのような行動に至るのも意味は通っている。
「私は、離れないよ。向日葵さんに嫌われない限りは、ずっとずっと寄り添いたいって思うから」
交通量が多い道沿いにあるファミレスなので、雨飛沫の音がガラス窓越しからでもしっかりと聞こえる。
そんな中、朝香は彼をまっすぐに見据えながらこう答えた。
「私が好きなのは向日葵さん……ううん、上原亮輔さんだよ。お兄さんでも、誰でもない」
朝香は彼ほど熱烈な恋をした経験はないのだが、忘れられない背中がある。
中学3年の終わり、県立高校入試を控えた時期に朝香が目にしたのは、頭に痛々しい包帯を巻いた少年の背中であった。
自分とさほど変わらないくらいの、背の低い少年。
少年の望みを、朝香の隣にいた夕紀は激しく拒み……その場で帰らせた。
少年のそばには、短髪黒髪の男性が寄り添っており……朝香達に一礼をして少年と共に帰っていく。
父に羽交締めにされながらも少年に向かって泣き叫ぶ夕紀の姿は、今日の雨の音やタイヤの摩擦音に似ていた。
(私はあの時何も出来なかった……あの子に寄り添いたくても、私1人じゃ動けなかった)
向日葵さんに初恋時のトラウマがあるように、彼に比べたら些細なものではあるが朝香にもしこりのような後悔があった。
(あの時決めたじゃない、もうあんな悔いは残したくないって……)
今の向日葵さんの表情と、あの時の少年の寂しげな背中とが重なる。
「私は、上原亮輔さんが大好きだよ。あなたにならどんなことをされてもいいって思う。
あなたはきっと私の心を壊すような真似はしないと思っているし、あなたの行動全てに意味があると信じているから」
「だから大丈夫」と……朝香はそう繰り返しては、彼の手を握ったのだった。
「ごめん、なさい……」
あれから2人は倒れるように眠り込み、起きたら昼過ぎで、向日葵さんは朝香以上に赤面して居た堪れない様子でいた。
「ううん」
「本当にごめん。あーちゃん」
今は夕方。
コインランドリーで洗濯物を回している時間を利用し、ファミレスで食事をしている最中である。
「本当に大丈夫だから……」
「ごめん」「大丈夫」を互いに繰り返しているだけなのだから怪しまれる事はないのだが、「ごめん」朝の擬似セックスへの謝罪だと理解している朝香にとってはその繰り返しが恥ずかしい。
「でも……あんなこと、いきなりしたのは良くないかなって」
「でも、嫌じゃなかったし。むしろ良かったっていうか」
「本当に?」
「うん……嘘じゃないよ」
何度このやり取りを繰り返しても、向日葵さんは不安を抱えているようだ。
「でも俺……明らかに暴走してたから。あの時俊哉くんとあーちゃんが2人きりになってて何を喋ってるのか分かんないってなったらめちゃくちゃモヤモヤして。
俊哉くんは昔から勉強出来てたし尊敬してるくらいすごい兄だと思ってるんだ。俺の事もずっと気にかけてくれてて」
「うん」
「俺にとっては最高の兄だから。勝てるところなんて一つもないって感じてるから。だからあーちゃんが俺じゃなくて俊哉くんの方を好きになっちゃったらどうしようって不安になって……焦って。それであーちゃんにあんな事して、俺から離れてほしくないって思っちゃって」
彼の話に朝香はコクリと頷いた。
(私と夕紀さんは本当の姉妹じゃないけど、夕紀さんは美人さんだし焙煎に物凄いこだわりを持っているし、お店を開く前だって今だって並々ならない努力をし続けていて魅力的な女性だと感じているから)
夕紀に彼氏は居ない。年齢差はあるが、夕紀の身長は170㎝で高身長の向日葵さんと並んだら似合いのカップルだと感じられるだろう。
(私には夕紀さんみたいな魅力ないもん)
夕紀と彼の兄とで置き換えてみると、向日葵さんが抱える不安を理解出来るし、あのような行動に至るのも意味は通っている。
「私は、離れないよ。向日葵さんに嫌われない限りは、ずっとずっと寄り添いたいって思うから」
交通量が多い道沿いにあるファミレスなので、雨飛沫の音がガラス窓越しからでもしっかりと聞こえる。
そんな中、朝香は彼をまっすぐに見据えながらこう答えた。
「私が好きなのは向日葵さん……ううん、上原亮輔さんだよ。お兄さんでも、誰でもない」
朝香は彼ほど熱烈な恋をした経験はないのだが、忘れられない背中がある。
中学3年の終わり、県立高校入試を控えた時期に朝香が目にしたのは、頭に痛々しい包帯を巻いた少年の背中であった。
自分とさほど変わらないくらいの、背の低い少年。
少年の望みを、朝香の隣にいた夕紀は激しく拒み……その場で帰らせた。
少年のそばには、短髪黒髪の男性が寄り添っており……朝香達に一礼をして少年と共に帰っていく。
父に羽交締めにされながらも少年に向かって泣き叫ぶ夕紀の姿は、今日の雨の音やタイヤの摩擦音に似ていた。
(私はあの時何も出来なかった……あの子に寄り添いたくても、私1人じゃ動けなかった)
向日葵さんに初恋時のトラウマがあるように、彼に比べたら些細なものではあるが朝香にもしこりのような後悔があった。
(あの時決めたじゃない、もうあんな悔いは残したくないって……)
今の向日葵さんの表情と、あの時の少年の寂しげな背中とが重なる。
「私は、上原亮輔さんが大好きだよ。あなたにならどんなことをされてもいいって思う。
あなたはきっと私の心を壊すような真似はしないと思っているし、あなたの行動全てに意味があると信じているから」
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