大精霊に愛されて

鬼灯

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サーシャは目を覚ましていた。
叔父は優しいが、容赦ない人だ。今頃、侯爵家は叔父が継いでくれているだろう。唯一の心残りに溜息をつく。
父は自分が侯爵家当主だと、叫ぶだろうが、実際はなんの権限もない。
執事のイフリートが、恙なくことを運ぶだろう。サーシャがいなくなれば、叔父夫婦に全てを任せると、手紙を託している。
叔父のアッシュと叔母のマーガレットは、母をこよなく愛していた。
だが母のミーシャは父カムラを愛していた訳ではなかった。祖父の選んだ男だから結婚したに過ぎない。常々、母ミシェルは義務で結婚したと、言っていた。
だが、母はわたくしを愛してくれていた。
叔父夫婦にも、そう言ってくれていた。その為、叔父夫婦は優しくしてくれていた。



「わたくしは、冷たいのかしら…………」



呟くサーシャに、答える声があった。



「こんなことはない」


びくりと震え、視線を向ける。其処にはイザヤが立っていた。


「イザヤ様……」


カツリとサーシャの傍まで歩いてくる。



「そなたの父は、誠実さに欠ける」


ぎしりと、ベッドの端に座るとイザヤは言う。イザヤはサーシャの髪を梳く。
その優しい仕草に、サーシャは頬を染める。



「わたくしは父に愛して欲しかった」



それが全てを語っている。



「吾では、駄目か」



「え…………」



「吾はサーシャを愛している。其れでは駄目か」



「…………イザヤ様」



戸惑うように俯いたサーシャに、苦笑し、イザヤはサーシャを抱きしめる。



「嫌か」



「…………いいえ、い、嫌では、ありません」



顔を真っ赤にして、サーシャが答える。
そんなサーシャに満足げな顔をし、イザヤはサーシャを抱きしめていた手を頭に乗せる。優しく髪を梳きながら、サーシャを見つめる。
その視線を受け、サーシャは悟る。



「侯爵家は叔父夫婦が継いだのですね」



「ああ、そうだ。そなたの父は野に放たれた」



歌うように、言葉が続く。



「そなたの姉のタナ-シャは、そなた同様階段から落ち、療養中だ。だが、一生歩くことは出来ぬし、顔に怪我を負ったゆえ、結婚も出来まい」



と。




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