I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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1st season 第一章

019 帰還

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洞窟の外に出た途端、停止していた感情プロセスが再開したのか、ユリアへの思いが吹き荒れ始める。
それでもユリアの幻が白昼夢を見せ続ける事は無くなった。
考えるべき事が激増したのが救いになった。

例えばアイテムボックスの扱い、隠すのか、売りにするのか?
容量無制限の時間停止機能付き、運送業でひと財産築くことも夢では無い・・・が、無力な現状でそんな能力が軍に知れれば、軟禁されてネコ耳ロボット奴隷待遇の完成である。

いや、まてよ?
この社会レベルの軍にの概念はあるのだろうか?
まだそんな概念が生まれて居なければ、国家権力に付け狙われる事態には至らない。

あとは内政チート、岸田としての専門知識があればリスク無くのし上がれるのでは?・・・不覚、この世界にはネットが無い。PCも無い。専門知識は役に立たない。

いや、何よりも基本指針を決めよう。
折角異世界に産まれたんだ、周回遅れとはいえ、まだ遅くは無い。

カインとしての俺が目指すもの・・・
大金持ち?ケモミミ?英雄?奴隷ハーレム?世界征服?

ダメだ・・・やっぱりユリアと暮らしたい。

ちきしょう!ちきしょうっ!ちきしょうっ!ちきしょうっ!

うん、大丈夫。
惨めで、卑しくて、プライドのカケラも感じられないけど、怒りよりも渇望の方が圧倒的に大きい。

男達と乱交してたからなんだ!
岸田は風俗嬢にも本気で惚れた男だぞ?
しかも今回はユリアも俺を愛してくれてる・・・はず。
誰がなんと言おうとあのめすは俺のだ!

戻ったら迎えに行こう。
話し合いなんか要らない。
トラブルがあっても全部無視だ!
強引にでも連れ帰ってユリアを抱く。
一週間は部屋にこもって、他の男の匂いがしなくなるまでザーメン注ぎ続けてやる!

全身に力がみなぎる。
空腹でフラフラするが知ったことか!
エルダーサの北門はもう目と鼻の先だ!

~~~~~

時は少し遡る。
金鶏亭の二階。
カインによって叩きつけるように閉じられたドア。
絶望の色を浮かべたユリアは呆然と立ち尽くす。

浅はかだった。
ユリアが戸惑いを見せれば、カインは決してその先へ進もうとはせず、そしてその事で責める事も無かった。
欲望を知ってしまった今ならわかる、それをこらえる事が、どれ程に苦しいものなのか。

一年。
シシラル村の頃を含めればもっと長い間、ユリアはカインをしいたげ続けていたのだ。

それなのに・・・他の男達に体を許し、あまつさえ求め、複数の男と交わるその姿を、快楽にふけるその様をカインに見られてしまった。

どれ程傷ついた事だろう。

絶対に許して貰えないだろう。
シシラル村のカイン。
愛しいカイン。

項垂うなだれると、太ももをつたう男の精液、カインに見られてしまったその白濁液が目に入る。

スタスタと部屋を横切ったユリアは、片隅の荷物袋からナイフを取り出し、無表情のまま自らの体に突き立てる。

最初に太もも、次に下腹部、鮮血がビチャビチャとね散らかるのも無視して、目についたザーメンの痕を声もあげずに突き刺してゆく。

ヒールが使えるメルがその場に居なければ、間違いなく絶命していただろう。

数日の間、ユリアは自傷を繰り返した。
ヒールで癒やし、キュアー状態異常回復でなだめ、スリープで休ませる。
まみれの身体を拭うこともせず、レイカが着せなければ布をまといすらしない、完全に狂人と化していたユリアが突然身なりを整え始めた。

丁寧に髪を洗い、いそいそと服を着る。
尋ねれば「カイン装備を買いに行く」のだと言う。
頑なに一人で出かけようとするユリアを宥めすかし、なんとかメイとレイカだけが同行を認められたが、「カインに見られた困るから」と言って、絶対に男の同行は認めなかった。

~~~~~

銀の剣亭に着いたユリアは、機嫌よく階段をかけあがった。

「カイン、迎えに来たよ!」

勢い良く開かれたその部屋には、何一つ残っていなかった。

「カイ~ンっ! カイン~っ! カイン~っ!」

大声で狂ったようにカインの名を叫ぶユリア、宿の主人が「2日前に出ていった」と告げると、ユリアは返事もせずに宿の外に駆け出す。
カインの姿を探して、あてどなく街の中を走り回るユリア。
追いかけるメイとレイカも何を言えばユリアをなだめられるのかもうわからなかった。

ユリアの手の中には革袋が握りしめられている。
あの日手にした追加報酬。
カインの装備を買い直し、少し贅沢なデートをするとした大切な金貨だ。

いくら駆けずり回っても見つからないカイン。
当然である、その時カインはに辿り着いたところだ。

はたと立ち止まったユリアの目に光がともり、冒険者ギルドへと歩みを向ける。
ギルドの扉をあけ、まっすぐにカウンターに向かい、スタッフに革袋を差し出す。

「シシラル・ヴィレッジのパーティー口座に入金して下さいっ!」

カインとユリアにとって、金貨20枚と言えば命をかけるほどの大金だ。
そんな大金が口座に増えていれば絶対に気付く、そうすれば自分を迎えに来てくれると、なんの根拠も無くユリアは思い込んだ。

「え~と、ですね・・・シシラル・ヴィレッジは二日前にカインさんが解散の手続きをされています・・・そして口座の残金は全額ユリアさんの口座に・・・」

パーティーが解散した。
どういう事?
カインとユリアでシシラル・ヴィレッジだったはずだ。
銀の剣亭の部屋が無くなり、シシラル・ヴィレッジも無くなった。
カインとユリアを繋ぐものは、もはや何一つ残っていなかった。

「あ"あ”あ"あ”あ"、カイン~っ!カイン~っ!カイン~っ!カイン~っ!カイン~っ!」

メイがスリープをかけて連れ出すまで、ユリアは人目もはばからず泣き叫び続けた。

~~~~~

メイ達がユリアを連れ帰ると、カインの行方を探すためにザック達が街に出た。
そして得られた情報は、カインが二日前に、試練の洞窟に死にに向かったという事実だった。

ザック達は話し合った。
カインの死はすぐにユリアの知るところとなるだろう。
そうすればユリアは間違いなく後を追う。
それを防ぐにはユリアをエルダーサの街から引き離すしか無い。

ザック達は決断した。

確かにザック達はカインの命を助けている、あの状況であればユリアの命も助けたと言っていいだろう。
だからと言って今回のカインの死で貸し借り無しだなどと思えない。
カインの死の責任は間違いなく自分たちにある。
このままユリアまで死なせられない。

ザック達はユリアを騙すと決めた。

二日前にカインが街を出たと嘘をつき、今から追いかけようとそそのかした。
その日、エルダーサの街から要塞フォートレスが姿を消し、そして二度と戻ることは無かった。
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