I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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2nd season 第二章

126 恐妻家

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この戦場で何が起きるのか?
私はろくに教えられていない。

軍議から追い出されたわけでは無い。
飛び交う言葉の意味が、その本質が理解できなかったのだ。

当然だろう?
一万二千の敵兵の真っ只中に、たった一人で飛び込む。
そんな事が前提の戦術など、理解できるわけがない。

にも関わらず猊下の妻たちは、いさめるどころか『遁走兵は殺すべきか?』などと、勝ったあとの相談までし始める始末。
理解する努力を放棄した私は、決して怠慢では無かったと思う。



外城壁ここからではとても、戦場の詳細は伺えない。
それでも、小さな人影が宙を舞い、家ほどもある岩の雨を降らせているのがわかる。
恐らくはあれが猊下・・・なるほど、ロックハウスとはそういう事か。

あの雨の下がどうなっているのか?・・・見るまでも無い、凄惨な地獄があるに決まっている。
今ならば理解できる。
猊下の、奥様たちの軍議が、決して素人の妄言などで無かったことが。

城壁のそこかしこから歓声が挙がる。
如何ににホルジス様の肝入りとて、こうして目にするまでは半信半疑・・・いや、皆、違う結末を想像していただろう。
それがどうだ?これが興奮せずに居られるか?
私とて、年甲斐もなく拳を握りしめているでは無いか!



シリア様以外の姿が見えない?
黒岩の中がざわめき立っている?
猊下が崩れ落ちた?・・・ように見えたが・・・?
駆け込んで状況を問いただしたいが、我々は城門を出ることを固く禁じられた。

神よ!あの青年に力を!
民から!私から!ようやく与えられた、忠誠に値するあるじを奪わないでくだされ!



~~~~~



「をいをい?どうなってんだぁ?居ねぇじゃねぇか?」

カインのむくろが横たわるはずの岩柱、その上に立った男がつぶやく。

バシュッ バシュッ バシュッ バシュッ

死角から放たれた零式、男はあっさりとかわしてみせる。

「をいをい?元気あんじゃん~、どういう仕掛けよぉ?」
「あー、結構つよいひと?」
「つよかねぇよ。ただまぁ、まだ死んだこたぁねぇな?」

自信に満ちた男の口元がニヤリと歪む。

「おらぁ弓兵っ!何ボーッとしてんだぁ!?」
「チッ!」

ヒュンッ ヒュンッ ヒュンヒュンヒュンヒュンッ

降り注ぐ矢の雨を掻い潜り、宙を舞うカイン。
着地の瞬間を狙って、バスターソードが叩きつけられる。

「ふんっ!」

ガイイイイインッ!

(強いっ!ヴァルダークよりもっ!)

バシュッ バシュッ バシュッ バシュッ

ほぼゼロ距離からの零式が空を切る。
再び振り上げられるバスターソード!
ヴァルダークの拳にさえ歯が立たなかった。
これを捌けるわけがない。

ブゥンッ ザンッ!

「をいをい?マジでどうなってんだ?」

転移で距離を取りつつ再び死角から零式を放つ!

バシュッ バシュッ バシュッ バシュッ

「なんで避けれんの?」
「あー、ノリだな?おめぇもアレだ。あと十年戦ってりゃできるようになんじゃねぇか?まっ、今日で死んじまうけどよ?」

を背負った男がやけに大きく見える。

(うん、無理。つーか絶対勝てねぇっ!)

「ときに、今の職場にご不満などございませんか?」
「???・・・ぶゎはははははははっ!・・・おめぇ、おもしれぇな?だがそうもいかねぇ、今回の雇い主はおっかねんだわ・・・わりいな?」

再び男の口元が歪む。

ドンッ!

なんの前触れも無く、男の胸に大穴が開いた。
シリアが放ったAMRの超長距離狙撃だ!

「な”っ!?」

「それは残念。でもウチの嫁も怖いんですよ?逆らったが最期、ホラ、死んじゃったでしょ?」

「・・・っめぇ・・・コレ・・・やったの嫁さんか?」

「ええ」

「ふっ・・・悪くねぇ終わり方だ・・・宜しく伝えてくれや・・・ゴフッ」

ゆっくりと、男が岩柱から落ちてゆく。
その視界の隅で、短槍ほどもあるAMRのボルトが、一束の弓兵を串刺し・・・いや・・・破裂させた。



現行のAMRアンチマテリアルライフルは『改』を経て既に『MkⅡ』マーク2、資金力に物を言わせて作った、錬金術素材てんこ盛りのオーパーツ。
とてつもない反動を、地面に突き刺した野太いバイポッド二脚と、高レベルの人外膂力でねじ伏せ無ければ運用出来ない。

超長距離で安定した軌道を維持するために、ボルト重量は通常の矢の30倍。

K[J]=(1/2)mv^2(運動エネルギー = 1/2×質量×速度の2乗)

二乗される『速度』ばかりが注目されがちだが、質量が30倍になればインパクトの破壊力も三十倍。
甲冑を抜く弓矢の三十倍だ。

当然ながら、LVが40近くあっても、そのは素手では引けない。
ギアをハンドルで回し、60秒かけてやっと引き切る。

にもかかわらず、弓兵達の破裂間隔は10秒ほど。
なぜか?
答えは簡単だ。

射手はシリアだけだが、MKⅡは8本、は七人居る。
バイポッドで設置された装填済みのAMR。
シリアはその間をゴロゴロと転がり、ターゲットをサイトに収めたらトリガーを引くのだ。

「おっし、おれも参加しとくか」

バシュッ バシュッ バシュッ バシュッ

弓兵と言わず歩兵と言わず、40mの上空から手当たり次第打ち下ろす。

再び形勢は逆転した。
眼の前の男を倒せたとして何も変わらない。
射手の姿すら確認できぬ、遥か彼方から飛来する確実な死。
鎧も盾も貫いて、四肢がバラバラに弾け飛ぶ。
そんな状況でまともに戦えるはずがない。

1対5000の構図に見えてその実、カインには航空支援がついているようなものだ。
とはいえ5000は数である。
初期の零式100本に加え、IB運用前提のレールカバーを実装しない簡易版273本、打ち尽くしても400に満たない。

「おっ、半分切ったな」

ブゥンッ

シリア達のもとにカインが出現する。

ドサドサドサドサッ

「アリスっ!頼むぞっ!」
「任せてっ、お兄ちゃんっ!」

多少レベルが上ったとて、MkⅡのリロードはまだ腕力的に厳しい。
アリスの担当は零式オンリー。
だが『継続集中(大)』を持つ、アリスの反復作業は鬼速い。
無表情になったアリスが、機械仕掛けのようにボルトつがえてゆく。
平成の世なら、児童就労違反でお縄になること間違いなしだ。

バシュッ バシュッ バシュッ バシュッ

「ねぇ、ボス、死んじゃったね~?」
「そっすねー。どうしますー?」
「うーん、とりあえず、逃げよっか」
「うーす。遠く行きましょ、めっちゃ遠く。帝国の暗部とかめちゃくちゃ怖いし」

程なくして、ミズーラ軍は遁走を開始した。


~~~~~


「はぁぁぁぁ、つっかれたぁ~」

遁走とんそうする兵は何処までも深追いし、可能な限り殲滅した。
そして今はその帰り。
今夜も使があるので、人肉でドロドロになった岩石ブロックを回収してはトボトボと歩く。

「沢山つくっといてよかったっしょ?AMR?」
「ああ。終わってみれば、シリアのAMRが一番反則だったな?」

たとえどんなに強かろうと、に着弾する、Mkのボルトは察知出来ない。
2km先の殺気を察知するなんて、漫画でもなきゃ無理な話だ。

「にしても・・・逃げてるの殺るのは、やっぱ気がひけるわね?」
「だが逃がせば、途中の村が襲われる・・・とか言いながら、女の人を殺るのはやっぱきっついわ」

城門まで戻ると、割れんばかりの大歓声。
なんだろう・・・あんまテンション上がんない。
笑顔で手を振る眼の前の民衆・・・もう、俺、普通に殺せると思う。

「猊下、前教皇のユザールはいかが致しましょう。身柄の方は、おさえてありますが?」
「あー・・・、うん。形だけ事情聴取して、適当に釈放」
「お赦しになるのですかっ?」

「あのデブ、拷問でもしなきゃ認めないでしょ?んで証拠も無い。なのに処刑すれば・・・そうだな・・・ヤザンを邪魔だと思う者が居たとしよう、そうすると神殿に文章が届く事になる『現教皇を廃して教務長を教皇にせよっ!』ってね?」
「・・・万の軍に単騎で飛び込むお方とは思えぬ聡明さですな・・・感服いたしました」

「あっ、そういえばシリア、あの鬼強いおっさんが、シリアにだってよ?」
「・・・よろしく言われても・・・」
「まっ、そういう人種なんだろ」

ひとまず綱渡りは終わった。
あとは胸糞悪い石橋を渡るだけだ。
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