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08. 男の浪漫
しおりを挟む結局、部屋を空っぽにするまでに丸二日かかった。
玉座の間でもそうだったらしいが――既にベルゼが修復済み――、大理石の床が溶けたり傷だらけになっていた。
玉座の間にある簡易式のテーブルで、紅茶を飲みながらベルゼと向かい合う。
ベルゼも座るように促したが、彼が座る事はなかった。
「とりあえず、あのシャワールームのガラスを壁に変えるとして、もう一つ、提案があるんだ」
「はい? 何でしょうか?」
「それはだな……」
首を傾げるベルゼに、勿体ぶるように言葉を切る。
ちなみに俺の頭の中ではドラムロールが鳴っている。
「――秘密の部屋を作りたいんだ」
秘密の部屋、もしくは秘密基地とも言う。
これこそ男の浪漫!
だだっ広い寝室を見た時から考えてはいたが、片付いた部屋を見て考えは固まった。
寝室だけで俺の家全体くらいの広さがあるんだぜ?
寝るだけの部屋なのに、こんなに広さいらないと思う。
「秘密の部屋、でございますか?」
「ああ! 俺の考えはだな――」
寝室のスペースを削り、寝室と魔王部屋の両方から隠しドアで入れる小部屋を作る。
むしろ、寝室無くして一部屋の中に全部収めてもいいくらいだが、無くしたら無くしたで色々と言われそうだから削る方針で。
「――どう、かな?」
「物理的には可能と思われますが……隠しドアとは?」
「そうだなぁ……ベタに本棚みたいな」
「わかりました。では、信用できる者に言って作らせましょう」
「ああ。だが知らせるのは最小限で頼む。なんてったって秘密の部屋だからな!」
俺のテンションが上がっているのが分かったのか、ベルゼは口許を緩めると「かしこまりました」と礼をしてみせた。
ベルゼに頼んでいたら、ちゃんとコッソリやってくれるだろうから安心だ。
ふと、いつの間にかベルゼを心から信頼している事に気付いて自嘲する。
悪魔なんて無縁な生活をしていて、しかも未だに悪魔がどんなものかはよく知らないのにだ。
ベルゼがこんなにいい子だから悪いんだ! ……なーんて。
座っていたら全て身の回りの事をやってもらえる、実家で生活していた事を思い出した。
って事はベルゼは俺のおかんか。
あまり急かしてもキツいだろうから「ゆっくりでいいぞ」と伝える。
新しく部屋を作る訳だから、暫く時間はかかるだろうが、今から完全が楽しみだ。
◇◇◇◇
その日の夜、誰かの気配を感じて目が覚めた。
目を開け、部屋の中を見回すが特に変わった所は見当たらない。
もう一度寝直そうと瞳を閉じて……飛び起きた。
「おいおいマジかよ……」
部屋の中心にぽつんと置かれていたキングサイズのベッド。
それが今は壁に沿うようにして置かれていた。明らかに寝室が狭くなっている。
急いで隣の部屋に行き、それを見た俺は思わず呟いていた。
いやいやベルゼ、本気出しすぎだろ!!
見慣れないアンティーク調の巨大な本棚。それが壁に沿って置いてあった。
注文通りなら、これがドアになっていると思うんだが……
「どうやって開けるんだ?」
天井まで届いているそれを、引いたり横に押してみたりするが、動く気配はない。
ひとしきり試してみて無理だと分かった俺は、後ろ髪を引かれる思いでベッドへと戻るのだった。
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