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35. 空気が違う
しおりを挟む新しいアスタロトの部屋はかなりの急ピッチで作られたらしく、古い部屋の掃除が終わる頃には既に出来上がっていた。
俺の秘密の部屋を作ってくれた、フルーレティってのが頑張ってくれたらしい。
まだお礼言ってないから言いたいんだけど、まだ会ったことがない。
ベルゼが伝えてくれたらしいが、こういうのはやっぱり自分で言いたい。
「そうそう、そこはこうして――おっ、その調子!」
新しい部屋に移り、ベルゼが席を外している間にアスタロトに掃除の仕方をレクチャーする。
力任せに擦ろうとしていたのを止めれて良かった。傷だらけになって、そこにまた菌や汚れが入り込むようになってしまう。
俺がトイレ掃除に活用していた重曹やクエン酸がこの世界にはないらしく、例の洗剤をかなーり薄めて使ってるんだが、失敗したら溶けると思うと胃が痛くなるな。
「……はぁ~…………」
「あ? どしたんスか?」
「ん……いや、重曹とクエン酸っていう便利なのが人間界にはあるんだよ。なんでここにはないのかなぁ、って」
無意識に溜息が出ていたみたいで、アスタロトが手を止めて俺を見た。
「へぇー、今度下行ったとき、持って来ましょっか?」
「えっ、本当か!? 頼む! 重曹とクエン酸、白い粉だ!!」
「白い粉ね、りょーかい」
思いがけない申し出に、俺のテンションも上がる。
これで俺の部屋の掃除も楽になる。
ベルゼが戻って来て再開した後も無意識に鼻歌を歌っていたらしく、怪しまれてしまった。
◇◇◇◇
「よし、これで……終わりだぁ!!」
綺麗に拭きあげたテーブルを三人で運び込む。
手から重さがなくなると同時に喜びの声が漏れた。
アスタロトの部屋を片付け始めて一週間。
伝えていた期限ギリギリにはなったが、ついにこの日がやってきた。
綺麗に整頓された家具達。所々、髑髏やら蜘蛛の巣モチーフの飾りやらが見当たるが、それもいいアクセントになっている。
ホテル並とはいかないし、そもそも目指してもない。
アスタロトのため、彼だけの住みよい家だ。
もしかしたらマーガレットが一緒に住むかもしれないが、その時はまたその時で調整したらいい。
おかしいと思うかもしれないが、悪魔の家だというのに神聖な空気が漂う部屋を、俺たちは込み上げてくる達成感を感じながらぐるりと見回した。
「これが……俺の家…………」
瞳を潤ませ、そう呟くアスタロト。
約三百年ぶりの綺麗な家に感無量といった様子だ。
「これからは使用人が部屋を片付けるようになると思うが、お前の物を捨てることが出来るのはお前しかいないんだ。もう分かったと思うが、溜め込めば溜め込むだけ後がキツくなる。明日の自分に楽させるために、今日頑張るんだ」
「サタン様……」
「……おう。俺、頑張るよ」
深く頷いたアスタロトに、ベルゼも柔らかい表情を向ける。
アスタロトは頑張った。
次は俺がこいつのために一肌脱ぐ番だ。
開け放たれた窓から、澄んだ気持ちのいい風が家の中を流れていった。
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