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12. もやもや
しおりを挟むエミリーちゃんは退院次第、うちの教会傘下の施設に入ることが決まった。
母親の姿は最後まで見れなかったけど、父親に話をしたときの心底ほっとした表情を見るとなんだか無性に悲しくなった。
連絡を受けて駆け付けたサポート課の人に運ばれたエミリーちゃんがそれを聞くのはいつになるんだろう。
これでよかったんだ、と何度自分に言い聞かせても気分は晴れない。
詠唱の最後、彼が必死に伝えた「エミリーを、助けて」という言葉。あのときアリアナ先輩に促されなかったら、わたしはちゃんと祓えただろうか。
……というか、何から助けて欲しいのか言われなかったから勝手に彼女の家族からだと思ってるけど、これで合ってるよね?
「――――ということがあってね」
「ふぅん、そうだったんだ」
同じ悪魔が祓われたというのに、シリルくんは大して気にした風もなく頷いた。
実地試験があると言って出かけたわたしが落ち込んで帰ってきたものだから、何か失敗したんじゃないかと心配してくれていたらしい。
祓魔の話をシリルくんに話すのは躊躇われたけど、なんとか元気を出させようとあたふたするシリルくんを見ていると、不思議と気持ちが軽くなった気がして……「実は、」と口を開いたわたしをシリルくんは最後まで何も言わずに聞いてくれた。
「試験は合格したんでしょ?」
「うん、そうなんだけど」
「ならいいじゃん。カティは独り立ち、そのエミリーって子は虐待から解放された。これ以上に何が必要?」
教会に戻った際に、クリストファーさんから合格だと告げられた。まだ悪魔に非情になりきれないところとか、いくつか注意は受けたけど、わたしは晴れて一人前のエクソシストになることとなった。だけど……
こてんと首を傾げたシリルくんの澄んだ瞳が、わたしの煮え切らない表情を映した。
シリルくんが言ったことが正しいことだと、頭では分かっている。だけどいくら自分を納得させようと思っても、自分が祓われている最中だというのに必死に彼女のことを懇願した彼の表情が目の奥に焼き付いて離れなかった。
「……他に何か出来ることがあったんじゃないかな」
シリルくんと過ごすようになって、悪魔にも人間みたいに色々な感情があることを知ってしまった。
何が目的で彼女に憑依して、これからどうしたいのか。暴れて手が付けられないような悪魔はともかく、今回の彼はシリルくんみたいに話せば分かる相手のような気がした。
だからこそ余計、何も出来なかったことにもどかしさを感じていた。
「他にって? カティはエクソシストだよ。悪魔から人間を救うのが仕事じゃないの?」
……ごもっとも。
悪魔からの正論にぐうの音も出ない。
口を尖らせてふてくされるわたしに、シリルくんがやれやれとでも言いたげに息を吐く。
「……まぁ、でもひとつ言うとすれば、その山羊を調べてみたら?」
「山羊?」
思ってもみなかった切り口に首を傾げる。
たしか、エミリーちゃんが殺したのはその山羊一匹だけ。そこに何か意図があったということなのか。
「ま、この話は終わりにして早くご飯食べよう? 今日は合格のお祝いだからね、僕が作るよ」
「えっ、ほんとに!?」
「うん、ステーキ。食後にはケーキもあるよ」
「もしかして、手作りの……?」
「さぁ?」
シリルくんは誤魔化しているけどその頬は赤くなっていて、わたしのために頑張ってくれたんだと思うとなんだかほっこりする。
もし合格していなかったらどうするつもりだったのかと聞いたら、「カティが不合格なはずがないじゃん」って照れながら褒めてくれた。可愛い。
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