縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

第4.5話 ギルドマスターとゴミ屋敷(後編)

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「この称号は、ギルドで1番強い人に贈られるものです。前ギルドマスターを倒したリックさんには、それ相応の実力があると判断しました」

「えっと……。ギルドマスターになったら、何かいいことがあるのか?」

 俺が尋ねると、ネレムさんは詳しく教えてくれた。

 1つにクエスト――依頼の優先権を得ることができること。
 他の冒険者とバッティングした場合、ギルドマスターが優先権を持つことだ。
 2つめにレイド戦においての報酬が、他の冒険者より2割増しにもらうことができること。
 他にも、ギルド指定の店であれば、武器防具あるいは道具屋であれば、割引を受けられるらしい。

 だが、俺が――いや、俺とルーナが諸手を挙げて、喜んだのは、ギルドの社宅に住むことが出来るってことだ。

「い、家!?」

「はい。たいして大きくはありませんが」

「タダで住めるの?」

「そうです。ただしギルドマスターでいられるうちは――ですけどね」

 すげぇ!

 まだ一銭も稼いでないのに、家を手に入れてしまった。

「ルーナ、良かったな! 俺たち、家に住めるぞ」

「リックお兄ちゃんと一緒のおうち!」

 わーいわーいと、尻尾を振って喜ぶ。
 俺も一緒に万歳、万歳と手を挙げた。

 だが、その歓喜はつかの間だった。

 早速、俺とルーナはネレムさんに案内され、社宅へ向かう。
 しかし、言ってみるとそこは、ゴミ屋敷になっていた。

 外見は普通。だけど、中はひどいものだ。
 床には酒瓶や食べ物のカス、手入れがされていない武具や道具が散乱している。
 足の踏み場もないとはこのことである。

「なんじゃこりゃ……」

「リックお兄ちゃん、ここ臭い……」

「す、すみません。どうやら、前のギルドマスターの荷物がまだ残ってたようです」

「こりゃ住めないぞ」

「ギルドが責任を持って、綺麗にします。今日は、お宿にお泊まり下さい」

「いや、でも俺たちお金が――」

「もちろん、ギルドが支払わせていただきます」

「い、いいのか?」

 支払うのは、俺の方だと思っていた。
 正当防衛の結果とはいえ、ギルドの壁に穴を開けてしまったしな。

「ギルドは優秀な人材を欲しています。これは、先行投資と思っていただければ」

 ネレムさんはニコリと笑う。
 完璧な営業スマイルだ。
 思わず引き込まれる。

 先行投資か……。
 つまりはビジネスってことだな。
 おそらく優秀な人材を流出しないようにするための、ギルドマスター制度なのだろう。

 ネレムさん、結構美人だけど、意外と食えない人かもな。

 ぐぉぉおぉおぉおぉおぉおぉお!
 きゅるるるるるるるるるるるる!

 奇妙な音が同時に鳴り響く。
 俺とルーナの腹の音である。
 そういえば、食事の金を稼ぐためにギルドに来たんだった。
 まさかメシの前に、家を手に入れてしまうとはな。

 ネレムさんはクスリと笑う。

「お腹が空いているんですか?」

「え? ま、まあ……」

「わかりました。宿に行く前に、食事をしましょう」

「重ね重ねいうが、俺たちにはお金が……」

「大丈夫ですよ。ギルドが支払わせていただきます」

「至れり尽くせりだな。それも、もしかしてギルドの戦略?」

「はい。だから頑張ってくださいね、私もギルドも期待してますから」

 ネレムさんは、軽くウィンクした。
 とてもチャーミングだ。
 俺の心臓がドキリと拍動を打つ。

「リックお兄ちゃん、なんで顔が赤いの?」

 ルーナは首を傾げる。

 さ、さあ……。なんでだろうなあ。
 お腹が空いているからだろうか。

 まあ、それはともかく、俺はやっとご飯にありつくのだった。
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