聖女であることを隠しているのに、なぜ溺愛されてるの私?

延野 正行

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第二章

第13話

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 能力試験が終わり、いよいよ実技試験を残すのみだ。

 すっかり注目を浴びるようになってしまった私は、宿泊先の女将さんに握ってもらったライスボールを口に入れていた。

 一口サイズのライスボールには、野菜やハムで作った飾りが付いていて、これがまた可愛い。ついつい和んでしまう。ピリピリした試験会場にあって、一服の清涼剤だ。
 さらに、中には「頑張れ」と小さな手紙が入っていた。

 おかげでメンタルが回復したけど、能力試験では「やってしまった」感が半端がない。

 前世の時もそうだったけど、ああいう人間を見ると、どうしても一言いいたくなる。
 まあ、その性格が災いして、結果的に政敵を作って、その人たちに毒を盛られたり、火あぶりにされたんだけど……。
 大いに反省しなければならないのは、大柄の男よりも私の方のようだ。

「うっ!」

 まずい。ぼんやりと食べていたら、ライスボールが喉に詰まってしまった。
 み、水……。誰か、水をちょうだい。

「はい。どうぞ」

 唐突に目の前に水筒が現れる。
 随分と古風な竹でできた水筒だった。
 私は迷わず飛びつくと、栓を抜いて水を含む。

「ぷはぁっ! 生き返った!!」

 思わず冷えたワインを飲んだ後みたいな台詞になってしまった。
 本当に急死に一生だったのだから仕方がない。あと、ちょっと遅かったらこのためだけに、秘蔵の回復魔法を使うところだった。

「ありがとう。助かったわ」

 顔を上げると、例の美男子が「よかった」と笑顔を浮かべていた。

(わわ……。なんかまた恥ずかしいところを見られた気がする)

 私は自然と緩んでいた身だしなみを整える。

「あなたには助けられてばかりね。そういえば、自己紹介がまだだったわ、私は――」

「ミレニア・ル・アスカルドさんでしょ?」

「え? どうして、私の名前――――」

 もしかして、私ってもう超有名人になっていたりする?

 待って。私の夢は普通の魔術師なのよ。まだ魔術師にすら認定されていないのに、目立ってるってどういうことよ。

「筆記試験の時、僕も同じ教室にいたんだよ」

「え? そうなの?」

 全然気付かなかった。
 ずっとヴェルちゃんを見ていたから仕方ないかもしれないけど。

「こんな人気のないところでお弁当?」

「お弁当というより、おやつね。次、実技だから。力を付けなくちゃ。あなたこそ、何をやってるの? えっと……」

「ルクレス……。友達はルースって呼ぶから、そっちに合わせてもらえると嬉しい。僕も目立つのは苦手でね。人気の無いところで休もうとしたら、ミレニアがいたってわけさ」

「なるほど」

 ルースって黙ってても目立つからね。
 私と別の意味で、人の視線が苦手なのかも。

「さっきのは凄かったよ」

「さっきって……。ああ。魔力測定のこと? う、うん……。でも、他の受験生をさらに動揺させちゃって。後で謝らないと」

「そうだね」

 あっさり認めた。しかも、満面の笑顔で。
 ルース、そこは励ますところじゃない?

「でも、あの大柄の受験生に突っかかっていた受験生は、うまく魔力を制御できていたよ。多分、君が仇を取ってくれたからじゃないかな」

「そうなの」

 ルースの言うことが正しいなら、それはそれで嬉しい。
 ちょっとでも頑張ってる人にエールのようなものを送れたなら、元聖女冥利に尽きる。
 聖女って本来は、人のよりどころになることが役目だからね。

 そういう意味では、前世の私は色々なところに首を突っ込みすぎて、お節介がすぎたかもしれない。

「そろそろ実技試験の時間だ。会場へ行く?」

「一緒に行ってもいいの?」

「もちろん」

 ルースはそのまま絵画にしたら、金貨何千枚と値段が付きそうな笑顔を浮かべる。
 私に手を差し出して、立たせてくれた。

(ルースはとてもいい人みたいだ)

 学校に入ることになったら、友達になってほしいなあ。
 ルースが良ければだけど。

 私たちは一緒に実技試験が行われる講堂へと向かう。
 その道すがら、何やら受験生が壁の前に集まっていた。

「何事?」

「ああ……。早速能力試験の結果が貼り出されてるんだよ。筆記とは違って、能力試験の結果はすぐにわかるからね。ほら、君の名前もあるよ」

 ルースは指差す。
 見ると、確かに私の名前があった。
 しかも、全体1位の成績だ。

「よし!!」

 思わずガッツポーズを取る。

 これで筆記試験の0点は、うまく挽回して、プラスマイナスゼロとなった。
 次の実技試験でそこそこの成績を収めれば、平均点獲得だ。
 これで普通のヽヽヽ魔術師に1歩前進できた。


 ――――っと、その時の私はひどく楽観的な気分になっていた。



 ◆◇◆◇◆  教官たち  ◆◇◆◇◆



「間違いない。ミレニア・ル・アスカルドは、何らかの工作員だ」

 ゼクレアの声はがらんとした教官待機室に響き渡る。
 お馴染みの師団長たちが揃い、黙ってゼクレアの報告を聞いていた彼らは思い思いに口を開いた。

「まだ早計ではないかな、ゼクレア」

「アランの言う通りです。その推測は現時点で状況を混乱させるだけかと」

 魔術師第二師団長アランの提言に、第五師団長ボーラは同意した。

「けどよ、アラン、ボーラ。水晶測定器が振り切れる寸前だったんだろ? スパイじゃないかもしれないが、受験生というにはあまりオーバースペックだ」

「スパイだとしても、随分行動が派手すぎますよ。……いずれにしろ、彼女の目的をじっくり調べ、見極めることが先決です」

「今のところ、大人しく試験を受けているだけに見えますがね……」

 ボーラは眼鏡を吊り上げると、さらに言葉を続けた。

「問題は仮に彼女がイレギュラーだとしても、手がすぐ届く場所に今、受験生ひよっこたちがいることです。これは人質も取られているのも同然でしょう。問題があるというなら、まず受験生を避難させる必要があるかと思いますが」

「ですが、実際のところあれほどの魔力量の持ち主から、穏便に受験生を避難させる方法があるでしょうか? 刺激すれば、我々の意図を知れば暴走しかねません」

 アランは顎に手を押さえて、反論した。

「だな……。派手に立ち回れば、他の受験生の動揺を誘う。再試験なんてことになったら、入試を運営する委員会からお小言だけじゃすまなくなるぞ」

「俺がやる」

 ゼクレアの三白眼が光る。

「俺に考えがある」
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