聖女であることを隠しているのに、なぜ溺愛されてるの私?

延野 正行

文字の大きさ
31 / 74
第三章

第26話(前編)

しおりを挟む
 お父様、お母様、お元気でしょうか?
 あなたの大事なミレニアは、いつも元気です。

 先日お伝えした通り、魔術師師団に飛び級で入団することになりました。
 なので、昨日お手紙でいただいた通り、学費の振り込みは必要ありません。

 さて入団して2日目。
 特にまだ軍人らしいことはしていません。
 毎日、ヴェルとルースと一緒に講堂で魔術師師団の規律や法律の勉強。あるいは敬礼や行進の時の動きの確認などを教わっています。

 本来、魔術学校で覚えることらしいのですが、私たちは学校に行ってないので。補講? ……みたいなものなのかしら。

 今のところ、3人だけで勉強していますが、明日同じく入団する新人団員と初顔合わせの予定です。しかも魔術師師団の官舎近くにある厩舎に行って、自分にあった使い魔と契約もできるとか。可愛い使い魔だったらいいなあ。楽しみです。

 温かくなってきましたが、お身体には気を付けて。
 あまりグシアス兄さんの好き勝手にさせたらダメだよ。

 あなたたちの愛娘より


 追記  お給金が出たら何かプレゼントを贈るね。


 ◆◇◆◇◆


「うわ~」

 私は思わず声を上げた。
 泊まってる官舎から歩いて10分ほど。
 ルースとヴェルと一緒に、大きな厩舎が並ぶ場所へと私はやってきた。

 魔術師師団の団員には、新人・ベテラン問わず、使い魔が与えられる。
 使い魔は戦力として、また魔術師自身の身を守る盾として期待されるが、一番の役割は伝令を伝えるためである。

 使い魔といわれる生物のほとんどが、精霊と言われている存在だ。
 彼らは私たちの世界とは別の世界に住んでいる。そのため、私たちの世界における時間的な制約を受けないと考えられている。

 つまり、こちらの世界での精霊同士の物理的な距離や時間はほぼゼロに等しく、精霊を通しての同時刻遠距離での通話が可能になるのだ。
 これは私の前世でも同じシステムだ。
 私にも愛する使い魔がいて、よく助けてもらった。

「厩舎にいる使い魔ならば、どれを選んでもいい。だが、使い魔は非常に気位が高い。自分を使役する器ではないと判断すれば、容赦なくお前たちを打ち据えるから、契約する時は覚悟を持って挑むように。軽々に契約しようと思うな」

 偉そうに言ったのは、ゼクレア教――――じゃなかった、ゼクレア師団長だ。
 初めて会った時、教官だったからつい癖で呼んでしまいそうになる。
 今さらだけど、まさか初めて出会った教官が、自分の師団長になるとは思わなかった。

 私としては、アラン師団長の方が良かったわ。
 あっちの方が優しく丁寧に教えてくれそうだし。

「ミレニア、師団長じょうしがわざわざ説明してやってるのに、よそ見するとは良い度胸だな」

 ゴゴゴゴ……、と空気を震わせながら、ゼクレア師団長は私の背後に立つ。

 し、しまったぁ。

「し、失礼しました。教官――――じゃなかった、ゼクレア師団長」

 私は慌てて敬礼する。
 ゼクレア師団長は少しだけ怒りのゲージを下げたが、私の前から立ち去ることはない。
 口から湯気を吐きながら、ブラウンの三白眼で私を睨んでいる。
 師団長が蛇なら、もう私は蛙に徹するしかなかった。

「ふん。どうせ他の師団長の方が良かったなんて思ってたんだろう」

 何故、バレたの。この人、人の心でも読める魔術を保有しているのだろうか。
 何それ? 今すぐ私に教えて欲しいんだけど。

「そ、そんなことはありません。ゼクレア師団長で本当に良かったなと思って、げほんげほん!」

 ダメだ! 喋り慣れていない言葉を言ったら咳が……。

「全くお前はもういい。とっとと自分にふさわしい使い魔を見つけてこい」

 ゼクレア師団長は背中を押す。
 相変わらず女性の扱いがなってない。そう言えば、ゼクレア師団長って恋人とか彼女とかいるのかしら。顔はまあいいし、スタイルも悪くない。性格は難ありだけど。

 でも、真面目な性格だから、意外と家庭とかに入ると、家事とか育児とか手伝ってくれるタイプっぽそう。
 やばい。ほ乳瓶持ってるゼクレア師団長を想像したら、意外と様になってるんだけど。

 私はしばらく厩舎を歩いて回る。
 時々、使い魔とふれあいながら、楽しんでいると急に歓声が聞こえた。

『おおおおおおおおお!!』

 騒いでる野次馬の向こうで炎が立ち上るのが見えた。
 気になって近寄ってみると、ヴェルが立っている。
 さらに炎を纏った鳥が、ヴェルのか弱い腕を宿り木のようにして止まっていた。

「ヴェル! ちょっと! 大丈夫? 熱くないのに?」

 炎の鳥に腕を貸したヴェルは何食わぬ顔で、私の方を見た。

「熱いわけないでしょ。この子はあたしの契約精霊なんだから」

「え? もう契約したの?」

 私が驚く横で、ヴェルは嬉しそうに笑いながら、炎の鳥とじゃれ合っていた。
 ちょ、ちょっと羨ましいかも。

「ヘブンズバードだ。精霊の中でもかなり上位に位置する精霊だぞ」
「まさか、同じ年代の中にいるなんて」
「あの子……。飛び級組だってよ」
「くそ! あいつらと才能が違うのかよ」

 ヴェルとヘブンズバードがじゃれついているのを見て、周囲はざわついていた。
 私も精霊と契約したことがあるから知っているけど、精霊との契約に才能は関係ない。
 言葉で説明するのは難しいのだけど、一目見た時の感じの良さが重要だったりする。
 私の時代では、精霊を見て一目惚れするのが一番相性のいい精霊の探し方だ、なんて言ってた。

 それにヘブンズバードは上位の精霊だけど、使役する精霊の強さはそのまま格の強さと比例するかと思ったら、大間違いだ。

 持ち主が如何に精霊の力を引き出すか。
 さらにお互いの信頼関係なんかも関わってくる。
 精霊との結び付きが強ければ強いほど、精霊は強くなれるのだ。

 でも、さすがヴェルねぇ。
 まさかヘブンズバードを引き当てるなんて。
 火の魔術とも相性バッチしだし。ここからもっと強くなるかもね。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...