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第四章
第49話
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一陣の風が私の赤毛を揺らす。
否――風ではない。
それは声だった。国を守りたいと、一心に願う者たちの雄叫びだ。
一斉に呪唱し、魔術を放ち、厄災竜の巨躯に叩きつける。
総帥や師団長という肩書きも関係ない。
1人1人が勇者や聖女となって、目の前の巨竜に立ち向かっていく。
崇高とも言える姿に、私の心臓は高鳴り、思わず武者震いするかのように身体が震えたのがわかった。
「そう。これよ……」
厄災竜に立ち向かっていく魔術師たちを見ながら、私は確信する。
「私が見たかったのは、こういう光景なのよ」
世界でたった1人の英雄や聖女が、巨悪に立ち向かうのでなく、その世界に住む1人1人が英雄や聖女となって戦う姿……。
これこそ私が見たかった形。
これが世界を救うという正しい姿なんだわ。
英雄や聖女は確かに希有な存在だった。
けれど、いつもある病に冒されていた。
それは〝孤独〟だ。
自分しかいない孤独。
自分以外にいない孤独。
世界の命運というものを一身に背負わされる孤独。
確かに世界は私たちを特別に見てくれた。
ただ、それは単純に世界を平和にしなければならないという贄として送り込まれたからだ。
結局、私は世界を救い、生き延びた結果、その人々によって消し去られてしまった。
人々を守り、世界を守る人はいる。
でも、英雄や聖女を守ってくれる人は誰もいなかった。
それは私たちが世界の上位の存在であったのだから仕方ないかもしれない。
だからこそ、今この光景こそ私にとってベストなのだ
英雄や聖女がいない世界。
1人1人が英雄であり、聖女である世界。
ああ。なんて素晴らしい世界なんだろう。
互いを慈しみ、守り、悪に対して敢然と立ち向かい、そして誰も吊し上げられない世界。
そして、私は単なるひよっこ魔術師師団員。
まさにパーフェクト!
「これが私が望んだ結末なのよ!!」
『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
興奮する私の横で、厄災竜は大口を開けて、雄叫びを上げた。
周りには、5000を超える魔術師たちが取り囲んでいる。
断続的に攻撃魔術が放たれ、補助魔術の光が迸り、防御魔術を展開して、厄災竜の炎を防いでた。
その中で躍動していたのは、4人の師団長だ。
アラン師団長、ボーラ師団長、ロブ師団長。
そして1番ボロボロでありながら、大車輪の活躍を見せていたのがゼクレア師団長だ。
厄災竜を前にしても、あの三白眼の鋭さは変わらない。
むしろ戦いを楽しむように攻撃し、あるいは土属性魔術の大きな特徴である防御魔術で国王がいる王宮と仲間たちを守っていた。
その中にアーベルさんがいるのも大きいのだろう。
必死に戦っているのに、ゼクレア師団長は時々楽しそうに笑っていた。
「焔陣の車イシュラよ。汝轢き裂く死の道に、陽炎を穿て!!」
【焔架大車輪】!!
「北海にて時間を止める蛇よ……。我、そなたの約定を従うものなり。我が前に立ちふさがりし愚かな者に、凍れる息吹の洗礼……」
【雹凍蛇戈】!!
「神館に棲む雷精よ。我の声を聞け。契約の導きの下、悪逆のなるものに怒りの鉄槌を!」
【雷戟】
ヴェル、ルース、そしてマレーラ――私の同期も必死になって戦っていた。
その戦果は馬鹿にできない。3つの魔術を同時に叩きつけると、確実に厄災竜を怯ませていた。
スーキーやミルロ、カーサも負けてはいない。
ピクシーを得たカーサは、その力を使って、厄災竜の攻撃を防ぐという功績を挙げていた。
すごい! みんな、活躍してる。
このまま一気に叩き込めば、英雄や聖女の力なしで世界を救ってしまうかもしれない。
「……ん? あれ?」
そこで私は気付いた。
なら、今私がすべきことはなんだろうか?
【提案①】 みんなに混じって、厄災竜をタコ殴りにする。
「いや、それはダメね。うっかり力を解放して、厄災竜を消滅させてしまったら、結局同じことだし」
私は自分が魔術師として才能あることを忘れてはいない。
元々転生できる人間って神が直接選んだ素材だから、基礎能力が異常に高いのよ。
加えて、神様からうっかりもらってしまったチート能力のおかげで、こっちはたいていの魔術を使用できる。
自分でいうのもなんだけど、鬼に金棒状態なのだ。
【提案②】 戦ってる振りをする。
「うーん。無難なんだけど、頑張ってる人の横で適当に魔術を使ってるのってどうなんだろう……」
【提案③】 応援する。
「うん。聖女っぽくはあるけど、後でゼクレア師団長に『戦わないなら引っ込んでろ』とか怒られそう気がする」
普通に邪魔なだけだしね。
【提案④】 もしかして私、いらない子では?
な、なんかそんな気がしてきたわ。
そう言えば『勇者』とか『聖女』って、世界を救わないなら何をすればいいんだろ。
私の場合、真っ当な生活だったわけでそれは正しいとは思ってるのよ。
でも、こう勝ち確が見えてる戦場で一体何ができるかしら。
【提案⑤】 戦後のことについて考えてはどうだろうか?
戦いの真っ最中で、私ができることはない。
やれないことはないけど、やりたくない。
なら、戦いの後のことを考えればいい。
戦後の復興とかお金のこととか王宮が考えるとして、負傷者の手当とかどうかしら。
私、聖女だし。……あ。しまった。今、魔石の魔力を切らしてるんだったわ。
聖女の力が使えない。私、自分の回復魔法とかに頼りっきりだったから、包帯とか巻いたことないし、薬の知識とかも基本的なことしか知らないのよね。
残念だけど、傷を癒やすのはできる人にやらせよう。
そう言えば、この世界にも『聖女』っているのよね。
魔術師として優れているのが『聖女』って噂で、いることはゼクレア師団長に聞いたけど、今何をしているのかしら。
じゃあ、厄災竜の被害にあった人の心を癒やすのはどうかしら。
例えば、歌とかどう! いい考えね。……あ、でも、前世で勇者に止められたっけ。ライザ姉さんの前でも1度歌ったけど、何も言わず倒れてしまったことはあったわ。
……やっぱり他のことにしよう。
他にみんなを元気にする方法……。
そうだ。ご飯を作って上げるのはどうだろう。
炊き出しとか。いいじゃない! 今、こんなみんなが本気になって戦ってるんだから、きっと終わったらお腹が空くと思うのよ。
前世でも旅をしていたから、料理には自信あるわよ。
勇者なんておいしさのあまり失神するぐらいだったんだから。
そうしましょう。今、目の前に大きな食材もあることだしね。
長い葛藤の末、私は厄災竜を睨んだ。
食材とは、目の前の巨竜のことだ。
前世でも竜はよく食べられていた。力の象徴として冒険者や兵士にも大人気の食材だ。
ドラゴンの肉は脂が乗っていて、とてもおいしいことでも有名である。
特に大きな竜ほど、おいしいと言われている。
これだけ大きければ、さぞかし絶品竜料理ができるだろう。
「よし! 覚悟しなさい!! 厄災竜!!」
私は宣戦布告する。
あなたをおいしく調理して上げるわ!!
ビシッと指差す。
フッ! 決まった、と思った瞬間だった。
『コラアアアアアアアアア!! 我を食うとは何事だぁぁぁあああああ!!』
突如、厄災竜は激昂するのだった。
否――風ではない。
それは声だった。国を守りたいと、一心に願う者たちの雄叫びだ。
一斉に呪唱し、魔術を放ち、厄災竜の巨躯に叩きつける。
総帥や師団長という肩書きも関係ない。
1人1人が勇者や聖女となって、目の前の巨竜に立ち向かっていく。
崇高とも言える姿に、私の心臓は高鳴り、思わず武者震いするかのように身体が震えたのがわかった。
「そう。これよ……」
厄災竜に立ち向かっていく魔術師たちを見ながら、私は確信する。
「私が見たかったのは、こういう光景なのよ」
世界でたった1人の英雄や聖女が、巨悪に立ち向かうのでなく、その世界に住む1人1人が英雄や聖女となって戦う姿……。
これこそ私が見たかった形。
これが世界を救うという正しい姿なんだわ。
英雄や聖女は確かに希有な存在だった。
けれど、いつもある病に冒されていた。
それは〝孤独〟だ。
自分しかいない孤独。
自分以外にいない孤独。
世界の命運というものを一身に背負わされる孤独。
確かに世界は私たちを特別に見てくれた。
ただ、それは単純に世界を平和にしなければならないという贄として送り込まれたからだ。
結局、私は世界を救い、生き延びた結果、その人々によって消し去られてしまった。
人々を守り、世界を守る人はいる。
でも、英雄や聖女を守ってくれる人は誰もいなかった。
それは私たちが世界の上位の存在であったのだから仕方ないかもしれない。
だからこそ、今この光景こそ私にとってベストなのだ
英雄や聖女がいない世界。
1人1人が英雄であり、聖女である世界。
ああ。なんて素晴らしい世界なんだろう。
互いを慈しみ、守り、悪に対して敢然と立ち向かい、そして誰も吊し上げられない世界。
そして、私は単なるひよっこ魔術師師団員。
まさにパーフェクト!
「これが私が望んだ結末なのよ!!」
『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
興奮する私の横で、厄災竜は大口を開けて、雄叫びを上げた。
周りには、5000を超える魔術師たちが取り囲んでいる。
断続的に攻撃魔術が放たれ、補助魔術の光が迸り、防御魔術を展開して、厄災竜の炎を防いでた。
その中で躍動していたのは、4人の師団長だ。
アラン師団長、ボーラ師団長、ロブ師団長。
そして1番ボロボロでありながら、大車輪の活躍を見せていたのがゼクレア師団長だ。
厄災竜を前にしても、あの三白眼の鋭さは変わらない。
むしろ戦いを楽しむように攻撃し、あるいは土属性魔術の大きな特徴である防御魔術で国王がいる王宮と仲間たちを守っていた。
その中にアーベルさんがいるのも大きいのだろう。
必死に戦っているのに、ゼクレア師団長は時々楽しそうに笑っていた。
「焔陣の車イシュラよ。汝轢き裂く死の道に、陽炎を穿て!!」
【焔架大車輪】!!
「北海にて時間を止める蛇よ……。我、そなたの約定を従うものなり。我が前に立ちふさがりし愚かな者に、凍れる息吹の洗礼……」
【雹凍蛇戈】!!
「神館に棲む雷精よ。我の声を聞け。契約の導きの下、悪逆のなるものに怒りの鉄槌を!」
【雷戟】
ヴェル、ルース、そしてマレーラ――私の同期も必死になって戦っていた。
その戦果は馬鹿にできない。3つの魔術を同時に叩きつけると、確実に厄災竜を怯ませていた。
スーキーやミルロ、カーサも負けてはいない。
ピクシーを得たカーサは、その力を使って、厄災竜の攻撃を防ぐという功績を挙げていた。
すごい! みんな、活躍してる。
このまま一気に叩き込めば、英雄や聖女の力なしで世界を救ってしまうかもしれない。
「……ん? あれ?」
そこで私は気付いた。
なら、今私がすべきことはなんだろうか?
【提案①】 みんなに混じって、厄災竜をタコ殴りにする。
「いや、それはダメね。うっかり力を解放して、厄災竜を消滅させてしまったら、結局同じことだし」
私は自分が魔術師として才能あることを忘れてはいない。
元々転生できる人間って神が直接選んだ素材だから、基礎能力が異常に高いのよ。
加えて、神様からうっかりもらってしまったチート能力のおかげで、こっちはたいていの魔術を使用できる。
自分でいうのもなんだけど、鬼に金棒状態なのだ。
【提案②】 戦ってる振りをする。
「うーん。無難なんだけど、頑張ってる人の横で適当に魔術を使ってるのってどうなんだろう……」
【提案③】 応援する。
「うん。聖女っぽくはあるけど、後でゼクレア師団長に『戦わないなら引っ込んでろ』とか怒られそう気がする」
普通に邪魔なだけだしね。
【提案④】 もしかして私、いらない子では?
な、なんかそんな気がしてきたわ。
そう言えば『勇者』とか『聖女』って、世界を救わないなら何をすればいいんだろ。
私の場合、真っ当な生活だったわけでそれは正しいとは思ってるのよ。
でも、こう勝ち確が見えてる戦場で一体何ができるかしら。
【提案⑤】 戦後のことについて考えてはどうだろうか?
戦いの真っ最中で、私ができることはない。
やれないことはないけど、やりたくない。
なら、戦いの後のことを考えればいい。
戦後の復興とかお金のこととか王宮が考えるとして、負傷者の手当とかどうかしら。
私、聖女だし。……あ。しまった。今、魔石の魔力を切らしてるんだったわ。
聖女の力が使えない。私、自分の回復魔法とかに頼りっきりだったから、包帯とか巻いたことないし、薬の知識とかも基本的なことしか知らないのよね。
残念だけど、傷を癒やすのはできる人にやらせよう。
そう言えば、この世界にも『聖女』っているのよね。
魔術師として優れているのが『聖女』って噂で、いることはゼクレア師団長に聞いたけど、今何をしているのかしら。
じゃあ、厄災竜の被害にあった人の心を癒やすのはどうかしら。
例えば、歌とかどう! いい考えね。……あ、でも、前世で勇者に止められたっけ。ライザ姉さんの前でも1度歌ったけど、何も言わず倒れてしまったことはあったわ。
……やっぱり他のことにしよう。
他にみんなを元気にする方法……。
そうだ。ご飯を作って上げるのはどうだろう。
炊き出しとか。いいじゃない! 今、こんなみんなが本気になって戦ってるんだから、きっと終わったらお腹が空くと思うのよ。
前世でも旅をしていたから、料理には自信あるわよ。
勇者なんておいしさのあまり失神するぐらいだったんだから。
そうしましょう。今、目の前に大きな食材もあることだしね。
長い葛藤の末、私は厄災竜を睨んだ。
食材とは、目の前の巨竜のことだ。
前世でも竜はよく食べられていた。力の象徴として冒険者や兵士にも大人気の食材だ。
ドラゴンの肉は脂が乗っていて、とてもおいしいことでも有名である。
特に大きな竜ほど、おいしいと言われている。
これだけ大きければ、さぞかし絶品竜料理ができるだろう。
「よし! 覚悟しなさい!! 厄災竜!!」
私は宣戦布告する。
あなたをおいしく調理して上げるわ!!
ビシッと指差す。
フッ! 決まった、と思った瞬間だった。
『コラアアアアアアアアア!! 我を食うとは何事だぁぁぁあああああ!!』
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