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1章
第3.5話 入学試験(後編)
「失礼します」
学力試験、実地試験が終わった後、我は学舎にある一室に呼び出された。
聖クランソニア学院の学院長が、我に会いたいらしい。
これは異例なことであることは、案内してくれた教官が教えてくれた。
部屋に通されると、そこにはいたのは優しげな瞳をした老婆だった。
独特の雰囲気がある。
距離を離しているのに、何か抱かれているような包容力を感じる。
彼女はアリアル・ゼル・デレジアと名乗った。
【大聖母】と呼ばれているそうだ。
聖女の中の聖女という意味らしい。
なるほど。我が入学した暁には、是非とも回復魔術を教授してもらいたいものだ。
「初めまして、ルヴルさん。どうぞそこに腰掛けて、楽にしてちょうだい」
「失礼します」
我は言われるまま牛革のソファに座った。
ターザムの教えの通り、足を閉じ、背筋をすっと伸ばす。
すると、何故かアリアルは微笑んだ。
何か粗相があったかと聞き返そうとしたが、先にアリアルが口を開いてしまった。
「とても凄い回復魔術を使うと聞きました。現役の聖女も驚くほどに……」
「いえ。私はまだまだ未熟者です」
「謙遜をなさらなくていいのよ」
「謙遜ではありません。私が未熟であることは、私がよく知っていますので」
「そう。では、何故聖クランソニア学院を受験なさったのかしら?」
「私の目標は、1つです。回復魔術を極めること」
「極める? 話を聞く限り、あなたの回復魔術は、かなりのものだと伺っているのだけれど」
「いえ。まだまだです。聖女の方にご指導いただくために、私は聖クランソニア学院を選びました。時に、大聖母様。私に回復魔術の神髄を1つご教授いただけないでしょうか?」
「回復魔術の神髄ねぇ……。そんなものはないわ」
「え?」
「そうねぇ……。強いて上げるとするならば、勉学に励み、友人と呼べる人間と出会って、そしてその友人を癒すということじゃないかしら。回復魔術というのはね。人の身体を癒やす事ができても、人の心を癒やす事は難しいの」
「大聖母様でもですか?」
「ええ……。もちろん。だから、あなたには心を癒やす回復魔術を極めてほしい。そのためには多くの人間の心に触れるのが、1番よ」
人の心を癒やすために、人の心に触れるか。
なんだか含蓄がありそうな言葉だが、魔王の我にはよくわからぬ。
人間の身体を捌いて、その心とやらを引き抜き、回復させれば良いのだろうか。
「ルヴルさん……。ここは戦場ではないわ。学校という教育機関なの。勉学はもちろんだけど、ここで出会った人はきっとあなたの人生の財産となるわ。学友というのは、学校の中でしか絆を結べない。だから、あなたも聖クランソニア学院でしか体験できないことをなさい。そうすれば、あなたが何のために回復魔術を極めたいのか。わかるはずだわ」
そう言って、短い面談は終わった。
我が回復魔術を極める理由はただ1つだ。
強くなること……。
すべての術理を収めてきた中で、唯一極めていない回復魔術を極めること。
それが回復魔術を極める理由だ。
アリアルには我すら無自覚な理由が見えているというのだろうか。
最後の適性試験はもう始まっていた。
皆が講堂の中に入って、魔導具に手をかざしている。
鑑定系の魔術が付与されているようだ。
手をかざすと、A~Fまでのランクが浮き上がる。
Aは最高ランク。Fは最低ランクだ。
すでに他の受験生は終わっているらしい。
後は遅れてやってきた我だけだ。
「ルヴルさんが、最後だ」
「間違いなくA判定だろう」
「Aじゃなかったら、魔導具の故障だな」
「というか、もう学校で勉強する必要ないんじゃないの?」
皆が我の判定について期待を膨らませていた。
どうぞ、とばかりに教官が触れるように促す。
我は丸い水晶体の魔導具に触った。
これで試験が終わりだ。
おそらくトップ合格は間違いないだろう。
マリルは喜んでくれるだろうか。
ターザムはきっと苦虫を噛み潰したような顔をするであろうな。
元々聖女の学校に行かせることには、反対であったのだし。
学院に入ったら、何をしよう。
当然、勉学に打ち込み、修行も続ける。
そう言えば、大聖母殿が言っていたな。
友達と出会え、と……。
なるほど。友達を作るのも悪くないか。
魔王時代、我を友人と認めたのは、ロロ1人だけだった。
ならば、今世においてはもっとたくさん作るのも良いだろう。
いっそ学院全員の聖女と仲良くなるのも悪くないかもな。
そして各々の心に触れ、我の回復魔術を以て癒やすのだ。
水晶体に触れながら、我は不敵な笑みを浮かべた。
その時であった……。
ジャアク……。ジャアク……。ジャアク……。ジャアク……。ジャアク……。
水晶体は赤黒く染まり、警鐘のように「ジャアク」という言葉が連呼された。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
本日は2話投稿する予定です。
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