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1章
第4話 クラスメイトを助ける(前編)
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「な、なんと禍々しい」
側にいた教官は震え上がる。
天を衝くような黒い光。
そして奇怪に響く『ジャアク』という言葉。
講堂は黒き光に溺れ、受験生はおろか教官たちも闇に包んだ。
その中心にいたのは、我だ。
どうやら、この魔導具……。
対象の魔力の強さを探るようにできていて、その実――宿業を探るもののようだ。
宿業とは、いわば魂の経験値。
人類も、魔族の魂も常に輪廻を繰り返している。
生き死にを繰り返すうちに、肉体は滅び、記憶は消滅するものの、魂は磨き上げられ、来世において魔力の総量として反映される。
魔力とは即ち魂の経験値――つまり、宿業だ。
この魔導具は、対象の年齢を探り、その宿業の質によってランク分けしていたというわけである。
人間も面白い魔導具を作ったものだ。
しかも、よもや我の宿業を見抜くとは。
褒めてつかわそう。
我は魔導具から手を離した。
黒い光は収束し、警鐘のように鳴り響いていた『ジャアク』と言う言葉は消える。
講堂はすっかり静まり返っていた。
ん? なんだ、この空気は?
先ほどまでの熱狂的な雰囲気は消えている。
我に向けられた憧憬の眼差しは同じく失せ、代わりに恐怖がこびりついていた。
◆◇◆◇◆
こうして入学試験を終わった。
10日後、合否が発表され、我は聖女候補科のFクラスに入学することになった。
合格はしたが、最低のFクラスである。
なかなか厳しい結果だ。
だが、我を査定したのは、一流の聖女たちである。
その彼女たちが下した結果が、Fクラスだ。
結果は真摯に受け止めなければならぬ。
後日、教えられるが、我の合格に懐疑的な者がほとんどだったらしい。
だが大聖母アリアルの提言により、Fクラスの入学が認められたそうだ。
もし、あの時アリアルに出会わなければ、我は聖女としてのスタートラインにすら立てなかっただろう。
しかし、どんな形であれ、聖女の学舎に入学することができた。
3年間、教官殿たちの授業をよく聞き、研鑽すればきっと我は回復魔術を極めることができる。
我は、そう信じる。
そのためには、【大聖母】アリアルの訓告通り、友人を作ろう。
我は意気揚々と聖クランソニア学院の制服に袖を通し、学校生活を始めた。
友達を作るために、道行く生徒全員に片っ端から声をかける。
だが、駄目だった。
おかしい……。
社交性には自信がある方だ。
ターザムの矯正のおかげで、笑顔も完璧なはずである。
なのに、生徒たちは我の顔を見るなり、「ひっ……! ジャアク!!」という言葉を残して逃げていく。
どうやら、あの入学試験の一件で生徒たちから、恐怖の対象として見られるようになったらしい。
何故かそれは、すでに全校生徒に知られているようだった。
悪事は千里を走ると聞くが、これには元魔王である我も驚きだ。
しかし、我は諦めたくない。
回復魔術を極める道に、友など必要ないかもしれない。
だが、折角勇者ロロと同じ人間となったのだ。
ロロのように友を率い、語り、一緒の目的をなすことに、我は少し憧れを感じていた。
それに聖クランソニア学院にいる聖女は、我と志が近しいはず。
できれば、友ともに回復魔術を極めてみたい。
「どこを見ていたのだ、貴様!!」
「す、すみません!!」
怒声に続き、悲鳴が我の耳を痛打した。
我を含め周囲の視線が声の元へと注がれる。
そこにいたのは、我と同じ聖女候補生と、武器を帯びた学生だった。
後者はおそらく聖騎士候補生であろう。
聖クランソニア学院には大きく分けて、3つの課程がある。
すなわち我が所属する聖女候補課。
聖女の男バージョンともいうべき、神官候補課。
そして、最後に聖騎士候補課である。
それぞれ制服の色でわかるようになっていて、聖女候補生は緑、神官候補生は青、聖騎士候補生は銀という具合だ。それぞれに3年の教育課程があり、初年度を第一候補生、二年目を第二候補生、さらに第三候補生と続く。
「あれ……第三候補生のガルデン先輩だぞ」
「マジかよ、ギトロギス伯爵閣下の子息じゃないか」
「剣の腕も相当らしい。学科長が頭を下げて、入学をお願いしたとか」
「事実、成績はトップ」
「未来の聖剣持ちかよ……」
生徒たちの噂があちこちから聞こえてくる。
なるほど。上級生に、伯爵閣下の子息か。
ふむ。若い割には、なかなかの体格だ。
剣の腕というのも、眉唾ではないだろう。
聖剣持ちというのは、聖騎士の位において、最高位を表す。
この学校を出て、聖騎士としての実績を積み重ねていくと、この世に八振りある聖剣の所有が認められるらしい。
聖剣か……。
昔、人類が我を殺すために躍起になって、製作していた兵器だな。
ロロとは違う勇者が我に向かって振り下ろしてきた事があったが、大したことはなかった。
最終的には魔力を吸い上げ、包丁に加工して、侍女に与えると、大層喜んでいた。
「よく切れる」とな。
「すみません。慌てていて……。わたし、よく言われるんです。母親に『前を見て歩きなさい』って」
「貴様の話なぞ、聞いておらん!」
「キャッ!!」
ガルデンは聖女候補生を足蹴にする。
鋭い蹴りは聖女候補生の脇腹を貫き、吹き飛ばした。
激しく地面に叩きつけられたが、意識は残したらしい。
聖女候補生は、ケホケホと激しく咳をする。
よく見ると、知った顔だな。
あれは我と同じFクラスのものではないか。
確かハートリー・クロースという平民出の聖女候補生だと思うが……。
家が貧乏だから、寮には入らず、いつも王都の隅っこにある商家から通っていることが、事前調査で知っている。
同じクラスなのだ。
友人になるかもしれない聖女候補生のことは、すでに鑑定魔術で把握している。
「ちょ! ひどくない」
「あんなことしなくても……」
「ば、バカ! 聞かれるぞ」
ガルデンは「黙れ」とばかりに周囲を一瞥する。
その気迫もなかなかものだ。
その睨みが利いたか、周囲にいた生徒は蜘蛛の子を散らすように、その場から立ち去った。
我を除いてな。
※ 後編へ続く
側にいた教官は震え上がる。
天を衝くような黒い光。
そして奇怪に響く『ジャアク』という言葉。
講堂は黒き光に溺れ、受験生はおろか教官たちも闇に包んだ。
その中心にいたのは、我だ。
どうやら、この魔導具……。
対象の魔力の強さを探るようにできていて、その実――宿業を探るもののようだ。
宿業とは、いわば魂の経験値。
人類も、魔族の魂も常に輪廻を繰り返している。
生き死にを繰り返すうちに、肉体は滅び、記憶は消滅するものの、魂は磨き上げられ、来世において魔力の総量として反映される。
魔力とは即ち魂の経験値――つまり、宿業だ。
この魔導具は、対象の年齢を探り、その宿業の質によってランク分けしていたというわけである。
人間も面白い魔導具を作ったものだ。
しかも、よもや我の宿業を見抜くとは。
褒めてつかわそう。
我は魔導具から手を離した。
黒い光は収束し、警鐘のように鳴り響いていた『ジャアク』と言う言葉は消える。
講堂はすっかり静まり返っていた。
ん? なんだ、この空気は?
先ほどまでの熱狂的な雰囲気は消えている。
我に向けられた憧憬の眼差しは同じく失せ、代わりに恐怖がこびりついていた。
◆◇◆◇◆
こうして入学試験を終わった。
10日後、合否が発表され、我は聖女候補科のFクラスに入学することになった。
合格はしたが、最低のFクラスである。
なかなか厳しい結果だ。
だが、我を査定したのは、一流の聖女たちである。
その彼女たちが下した結果が、Fクラスだ。
結果は真摯に受け止めなければならぬ。
後日、教えられるが、我の合格に懐疑的な者がほとんどだったらしい。
だが大聖母アリアルの提言により、Fクラスの入学が認められたそうだ。
もし、あの時アリアルに出会わなければ、我は聖女としてのスタートラインにすら立てなかっただろう。
しかし、どんな形であれ、聖女の学舎に入学することができた。
3年間、教官殿たちの授業をよく聞き、研鑽すればきっと我は回復魔術を極めることができる。
我は、そう信じる。
そのためには、【大聖母】アリアルの訓告通り、友人を作ろう。
我は意気揚々と聖クランソニア学院の制服に袖を通し、学校生活を始めた。
友達を作るために、道行く生徒全員に片っ端から声をかける。
だが、駄目だった。
おかしい……。
社交性には自信がある方だ。
ターザムの矯正のおかげで、笑顔も完璧なはずである。
なのに、生徒たちは我の顔を見るなり、「ひっ……! ジャアク!!」という言葉を残して逃げていく。
どうやら、あの入学試験の一件で生徒たちから、恐怖の対象として見られるようになったらしい。
何故かそれは、すでに全校生徒に知られているようだった。
悪事は千里を走ると聞くが、これには元魔王である我も驚きだ。
しかし、我は諦めたくない。
回復魔術を極める道に、友など必要ないかもしれない。
だが、折角勇者ロロと同じ人間となったのだ。
ロロのように友を率い、語り、一緒の目的をなすことに、我は少し憧れを感じていた。
それに聖クランソニア学院にいる聖女は、我と志が近しいはず。
できれば、友ともに回復魔術を極めてみたい。
「どこを見ていたのだ、貴様!!」
「す、すみません!!」
怒声に続き、悲鳴が我の耳を痛打した。
我を含め周囲の視線が声の元へと注がれる。
そこにいたのは、我と同じ聖女候補生と、武器を帯びた学生だった。
後者はおそらく聖騎士候補生であろう。
聖クランソニア学院には大きく分けて、3つの課程がある。
すなわち我が所属する聖女候補課。
聖女の男バージョンともいうべき、神官候補課。
そして、最後に聖騎士候補課である。
それぞれ制服の色でわかるようになっていて、聖女候補生は緑、神官候補生は青、聖騎士候補生は銀という具合だ。それぞれに3年の教育課程があり、初年度を第一候補生、二年目を第二候補生、さらに第三候補生と続く。
「あれ……第三候補生のガルデン先輩だぞ」
「マジかよ、ギトロギス伯爵閣下の子息じゃないか」
「剣の腕も相当らしい。学科長が頭を下げて、入学をお願いしたとか」
「事実、成績はトップ」
「未来の聖剣持ちかよ……」
生徒たちの噂があちこちから聞こえてくる。
なるほど。上級生に、伯爵閣下の子息か。
ふむ。若い割には、なかなかの体格だ。
剣の腕というのも、眉唾ではないだろう。
聖剣持ちというのは、聖騎士の位において、最高位を表す。
この学校を出て、聖騎士としての実績を積み重ねていくと、この世に八振りある聖剣の所有が認められるらしい。
聖剣か……。
昔、人類が我を殺すために躍起になって、製作していた兵器だな。
ロロとは違う勇者が我に向かって振り下ろしてきた事があったが、大したことはなかった。
最終的には魔力を吸い上げ、包丁に加工して、侍女に与えると、大層喜んでいた。
「よく切れる」とな。
「すみません。慌てていて……。わたし、よく言われるんです。母親に『前を見て歩きなさい』って」
「貴様の話なぞ、聞いておらん!」
「キャッ!!」
ガルデンは聖女候補生を足蹴にする。
鋭い蹴りは聖女候補生の脇腹を貫き、吹き飛ばした。
激しく地面に叩きつけられたが、意識は残したらしい。
聖女候補生は、ケホケホと激しく咳をする。
よく見ると、知った顔だな。
あれは我と同じFクラスのものではないか。
確かハートリー・クロースという平民出の聖女候補生だと思うが……。
家が貧乏だから、寮には入らず、いつも王都の隅っこにある商家から通っていることが、事前調査で知っている。
同じクラスなのだ。
友人になるかもしれない聖女候補生のことは、すでに鑑定魔術で把握している。
「ちょ! ひどくない」
「あんなことしなくても……」
「ば、バカ! 聞かれるぞ」
ガルデンは「黙れ」とばかりに周囲を一瞥する。
その気迫もなかなかものだ。
その睨みが利いたか、周囲にいた生徒は蜘蛛の子を散らすように、その場から立ち去った。
我を除いてな。
※ 後編へ続く
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