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1章

第4.5話 クラスメイトを助ける(後編)

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「ん? なんだ、貴様? 見たところ、お前もこいつと同じ聖女候補生のようだが。それに……ふふ。同じFクラスか。同病相憐れむといったところか」

「別にそういうわけではないですよ。登校したら、あなたたちが揉めていて、そこに同級生がいたというだけです」

「で? どうするのだ? この無礼な下級生を助けるのか? はん! オレは何も悪いことをしていないぞ。上級生が下級生をしつけているだけだ」

「しつけですか……。ハートリーさんが何をしたんですか?」

「どうして、わたしの名前?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、ハートリーだった。
 眼鏡の奥の目を大きく広げて、驚いている。
 我とガルデンの視線を受けると、ハートリーは「ど、どうぞ」と消えゆく蝋燭の炎のようなかすれた声を上げて、我らに会話を促した。

「この女がオレに当たってきたのだ」

「ホント? ハートリーさん」

「え?」

 我に尋ねられて、ハートリーは一瞬恐怖に引きつる。
 その後、おもむろに首を動かした。

 どうやら間違ってはいないらしい。

「おかげでオレの手は、薄汚い平民に触れて穢れてしまった。今から、その制裁をこやつに科すところだ」

「先ほどは、しつけと言っていたではありませんか」

 我は肩を竦め、微苦笑を浮かべる。
 全く貴族というヤツらは、どうしてこう頭が悪いヤツらばかりなのだろうか。

 マナガストから我がいなくなり、すでに世界は1000年が経過していた。
 だが、依然として種族間のわだかまりは残っている。
 それはそうだろう。
 人類同士の間でも、貴族だの平民だのと罵り合っているのだからな。

 人類は身分社会だ。
 生まれながらにして権力の強さが決まる。
 我からすれば、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。

 聖クランソニア学院において同じだ。
 上級生云々など関係なく、爵位の上下こそ、絶対的な基準になるらしい。
 この学院は、ルヴィアム教が運営母体とし、ルヴィアム教は貴族の寄付によって成り立っている。
 自ずと貴族に対して、基準が甘くなるのだろう。

「その銀髪……。端整な顔立ち……。お前、もしかして噂に聞くルヴル・キル・アレンティリだな。そうか。貴様があのジャアクか」

 ぴくっと、我はこめかみを動かした。
 それを見て、ガルデンは大口を開けて笑う。

「あはははは……。やはりか。それで? かの有名なジャアク様が何をしようというのだ。もしかして、同級生を助けようと? ほう……。その邪な心根とは対照的ではないか」

「なるほど」

「ん?」

 我は思わず手を叩いた。

 なるほど。
 考えもしなかった。
 そうか。ここでハートリーを助けてやれば、我に感謝し、友になってくれるかもしれぬ。
 我に関する黒いヽヽ噂も晴れるかもしれぬしな。

 ガルデン、すまぬ。
 どうやら貴様は貴族でも頭がいい方らしい。
 故に、我の名誉を回復させるため、礎となってくれ。

「ええ……。そうです。ハートリーさんを助けにきました」

「ジャ――――る、ルブルさん……。わたしなんかのために」

 ハートリーの目に涙が浮かぶ。

 人間が哀願する表情はいくつも見てきた。
 だが、今は気持ちのいい気分だ。
 友のために戦う。
 なるほど。ロロはこういう気分を味わいたくて、勇者をやっていたのかもしれぬ。

「くははははは! 良いだろう。オレがジャアクをここで成敗してやる」

 ガルデンは背中に背負っていた武器の封印を解く。
 現れたのは、拳甲セスタスだ。
 それもただの拳甲ではない。
 外見は鉄に覆われ、拳骨から肘まで守るように作られている。
 さらに特定の魔術が施されていた。

「確か……。武器の封印解除は、授業以外御法度だったはずですが……」

「オレは特別だ。学科長に許可をもらい、自分の意志でいつでも封印を解くことができるのだ」

 ガルデンはニヤリと笑う。

「そうですか。まあ、私は構いませんが、後で咎められてしりませんよ」

「構わんよ。その前に、お前に証言する口があればの話だがな」

 ガルデンは我に飛びかかろうと構える。
 だが、その前に我は手を出して、暴れ牛のように戦闘態勢になったガルデンを止めた。

「ガルデン先輩、その前に先ほどハートリーさんと接触し、怪我をされたと」

「怪我? 些細なことだ。ちょっと触れただけにすぎぬ」

「いえ。後で何か言われるのもいやなので、回復させていただきます」

「回復……?」

「ええ……。そうです」


 回復して差し上げましょう。


 我は回復魔術を放つ。
 白い閃光がガルデンを撃ち抜いた。

「な、なんだ、この力は? 普通の回復魔術ではない。力が……力が溢れるるるるるるるるるううううううううう!!!!」

 ガルデンは絶叫する。
 白い光の中から現れた上級生は、気力体力、そしてその表情ともに充実していた。

「素晴らしい。この力、素晴らしいぞ! この力があれば、今すぐにでも学院のトップになることができる。学院の【八剣エイバー】のヤツらなど敵ではないわ!!」

 ギィンとガルデンの瞳が光る。
 真っ直ぐ我の方に向けられていた。
 まるで獣が獲物を追い詰めるようにユラユラと揺れる。

「何を考えているかは知らぬが感謝しよう、ルヴル……。いや、ジャアク。なるほど。貴様はどうやら、人を力で堕落させる悪魔らしい。ならば、聖騎士候補生としてオレはその力を持って、払わねばならん」


 死ね、ジャアク!!


 ガルデンは飛びかかってくる。
 良い動きだ。
 まあ、悪くはない。
 だが――――。

「弱い……」

「へ?」



 ゴッッッッッッッ!!



 勝負は一瞬であった。
 襲ってきたガルデンに向かって、我は拳を伸ばす。
 それは吸い込まれるようにして、ガルデンの頬に突き刺さった。
 交差打法は見事に決まる。
 その拳の軌道は、さらに地面へと続いた。

 ガルデンの顔面が学院の煉瓦道に突き刺さる。
 そのままガルデンは失神した。

「はあ……。もう終わりですか」

 我は深い深いため息を吐く。

弱いみじゅく……。みじゅくすぎる……」

 だが、未熟なのは我も一緒だ。
 我はこの者の弱さを治すことができなかった。

 もっと精進せねばなるまい。

 この学舎で……。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

本日はここまでになります。

※もうちょっと無双ものっぽい、タイトルにしたいと思っているので、
 近々タイトル修正させていただきます。
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