「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

文字の大きさ
9 / 71
1章

第4.5話 クラスメイトを助ける(後編)

「ん? なんだ、貴様? 見たところ、お前もこいつと同じ聖女候補生のようだが。それに……ふふ。同じFクラスか。同病相憐れむといったところか」

「別にそういうわけではないですよ。登校したら、あなたたちが揉めていて、そこに同級生がいたというだけです」

「で? どうするのだ? この無礼な下級生を助けるのか? はん! オレは何も悪いことをしていないぞ。上級生が下級生をしつけているだけだ」

「しつけですか……。ハートリーさんが何をしたんですか?」

「どうして、わたしの名前?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、ハートリーだった。
 眼鏡の奥の目を大きく広げて、驚いている。
 我とガルデンの視線を受けると、ハートリーは「ど、どうぞ」と消えゆく蝋燭の炎のようなかすれた声を上げて、我らに会話を促した。

「この女がオレに当たってきたのだ」

「ホント? ハートリーさん」

「え?」

 我に尋ねられて、ハートリーは一瞬恐怖に引きつる。
 その後、おもむろに首を動かした。

 どうやら間違ってはいないらしい。

「おかげでオレの手は、薄汚い平民に触れて穢れてしまった。今から、その制裁をこやつに科すところだ」

「先ほどは、しつけと言っていたではありませんか」

 我は肩を竦め、微苦笑を浮かべる。
 全く貴族というヤツらは、どうしてこう頭が悪いヤツらばかりなのだろうか。

 マナガストから我がいなくなり、すでに世界は1000年が経過していた。
 だが、依然として種族間のわだかまりは残っている。
 それはそうだろう。
 人類同士の間でも、貴族だの平民だのと罵り合っているのだからな。

 人類は身分社会だ。
 生まれながらにして権力の強さが決まる。
 我からすれば、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。

 聖クランソニア学院において同じだ。
 上級生云々など関係なく、爵位の上下こそ、絶対的な基準になるらしい。
 この学院は、ルヴィアム教が運営母体とし、ルヴィアム教は貴族の寄付によって成り立っている。
 自ずと貴族に対して、基準が甘くなるのだろう。

「その銀髪……。端整な顔立ち……。お前、もしかして噂に聞くルヴル・キル・アレンティリだな。そうか。貴様があのジャアクか」

 ぴくっと、我はこめかみを動かした。
 それを見て、ガルデンは大口を開けて笑う。

「あはははは……。やはりか。それで? かの有名なジャアク様が何をしようというのだ。もしかして、同級生を助けようと? ほう……。その邪な心根とは対照的ではないか」

「なるほど」

「ん?」

 我は思わず手を叩いた。

 なるほど。
 考えもしなかった。
 そうか。ここでハートリーを助けてやれば、我に感謝し、友になってくれるかもしれぬ。
 我に関する黒いヽヽ噂も晴れるかもしれぬしな。

 ガルデン、すまぬ。
 どうやら貴様は貴族でも頭がいい方らしい。
 故に、我の名誉を回復させるため、礎となってくれ。

「ええ……。そうです。ハートリーさんを助けにきました」

「ジャ――――る、ルブルさん……。わたしなんかのために」

 ハートリーの目に涙が浮かぶ。

 人間が哀願する表情はいくつも見てきた。
 だが、今は気持ちのいい気分だ。
 友のために戦う。
 なるほど。ロロはこういう気分を味わいたくて、勇者をやっていたのかもしれぬ。

「くははははは! 良いだろう。オレがジャアクをここで成敗してやる」

 ガルデンは背中に背負っていた武器の封印を解く。
 現れたのは、拳甲セスタスだ。
 それもただの拳甲ではない。
 外見は鉄に覆われ、拳骨から肘まで守るように作られている。
 さらに特定の魔術が施されていた。

「確か……。武器の封印解除は、授業以外御法度だったはずですが……」

「オレは特別だ。学科長に許可をもらい、自分の意志でいつでも封印を解くことができるのだ」

 ガルデンはニヤリと笑う。

「そうですか。まあ、私は構いませんが、後で咎められてしりませんよ」

「構わんよ。その前に、お前に証言する口があればの話だがな」

 ガルデンは我に飛びかかろうと構える。
 だが、その前に我は手を出して、暴れ牛のように戦闘態勢になったガルデンを止めた。

「ガルデン先輩、その前に先ほどハートリーさんと接触し、怪我をされたと」

「怪我? 些細なことだ。ちょっと触れただけにすぎぬ」

「いえ。後で何か言われるのもいやなので、回復させていただきます」

「回復……?」

「ええ……。そうです」


 回復して差し上げましょう。


 我は回復魔術を放つ。
 白い閃光がガルデンを撃ち抜いた。

「な、なんだ、この力は? 普通の回復魔術ではない。力が……力が溢れるるるるるるるるるううううううううう!!!!」

 ガルデンは絶叫する。
 白い光の中から現れた上級生は、気力体力、そしてその表情ともに充実していた。

「素晴らしい。この力、素晴らしいぞ! この力があれば、今すぐにでも学院のトップになることができる。学院の【八剣エイバー】のヤツらなど敵ではないわ!!」

 ギィンとガルデンの瞳が光る。
 真っ直ぐ我の方に向けられていた。
 まるで獣が獲物を追い詰めるようにユラユラと揺れる。

「何を考えているかは知らぬが感謝しよう、ルヴル……。いや、ジャアク。なるほど。貴様はどうやら、人を力で堕落させる悪魔らしい。ならば、聖騎士候補生としてオレはその力を持って、払わねばならん」


 死ね、ジャアク!!


 ガルデンは飛びかかってくる。
 良い動きだ。
 まあ、悪くはない。
 だが――――。

「弱い……」

「へ?」



 ゴッッッッッッッ!!



 勝負は一瞬であった。
 襲ってきたガルデンに向かって、我は拳を伸ばす。
 それは吸い込まれるようにして、ガルデンの頬に突き刺さった。
 交差打法は見事に決まる。
 その拳の軌道は、さらに地面へと続いた。

 ガルデンの顔面が学院の煉瓦道に突き刺さる。
 そのままガルデンは失神した。

「はあ……。もう終わりですか」

 我は深い深いため息を吐く。

弱いみじゅく……。みじゅくすぎる……」

 だが、未熟なのは我も一緒だ。
 我はこの者の弱さを治すことができなかった。

 もっと精進せねばなるまい。

 この学舎で……。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

本日はここまでになります。

※もうちょっと無双ものっぽい、タイトルにしたいと思っているので、
 近々タイトル修正させていただきます。
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!