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1章

第14話 クラス対抗模擬戦

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「ルヴルの姐さん、今日のクラス対抗演習よろしくお願いします」

 ネレムは我に頭を下げた。

 そう。今日は全クラス対抗の演習戦がある。
 クラスごとの聖女、神官、聖騎士が一丸となって、他クラスと合同試合するというものらしい。
 言わば、模擬戦というヤツだ。

 模擬戦といっても、戦であることに代わりはない。
 我も楽しみだ。
 久しぶりに戦争ができるのだからな。
 戦がなく、平和な世の中というのも悪くないが、我には少々退屈すぎる。
 たまには、こういう刺激も必要だ。

 とはいえだ。
 我は聖女ゆえ、後方待機である。
 傷付いた聖騎士や神官を癒やす係だ。

 模擬戦は聖騎士の10vs10の戦いを基本とし、10人の聖騎士を倒すか、隊長を倒した場合、その時点で勝利が決まる。
 戦っている間、聖女は聖騎士を補助・回復、一方神官の方は聖女の魔術を邪魔し、補助や回復を阻害する役目を担う。
 教会から外敵を討ち払うための伝統的なフォーメーションだという。

 トーナメント方式になっており、試合の合間のメンバーチェンジはOK。
 ただし試合開始後のメンバーチェンジはできないことになっている。

 色々説明はしたが、要はチームワークだ。

「ふふん……」

「ルヴルの姐さん、楽しそうですね」

 我は上機嫌だった。
 これまで我はクラスの中で孤立していた。
 何度もいうが、孤高に生き、道を極めるのも悪くはない。
 現に我はそうして生きてきた。

 だが、時に手を取り合って、生きることにも我は憧れる。
 ロロたちのように……。
 もう我は孤高の大魔王ルヴルヴィムではない。
 私にはハートリーがいて、ネレムもいる。
 もう1人の戦いではないのだ。

「みんなと戦えるのが楽しみなんです」

 我はニコリと微笑んだ。

 すると、何故かネレムはこの世の終わりだ、という顔を浮かべる。

「この人、もしかして世界を終わらせるつもりか」

「ネレムさん、何を言っているんですか?」

「いえいえいえいえいえ! 何でもありません」

「そうですか。お互い頑張りましょうね?」

 ネレムはEクラスの聖女候補生だ。
 残念ながら我の敵となる。
 共に戦いたかったが、ルールと言われては仕方がない。

 我はせめて互いの健闘を祈るため、ネレムに対し手を差し出す。

「が、頑張りましょう……」

 ネレムは何故か1度ごくりと喉を鳴らす。
 怖ず怖ずと我の手を取った。
 先ほどからリアクションが大げさなのだが、何を思い悩んでいるのだろうか。


 ◆◇◆◇◆


 クラス別の対抗戦に、さぞ皆意気込んでおるのだろう。
 我はそう考え、Fクラスの控え室の扉を開けた。
 だが、立ちこめていたのは暗い雰囲気だ。
 聖騎士は戦う前から下を向き、神官や同級生の聖女たちもいすでに意気消沈している。

「どうしたんですか、みなさん?」

 我が尋ねる。
 入ってきた我の姿を見るなり、皆がギョッと驚いた。
 「ジャアクだ」とお決まりの陰口が始まる。
 集まっているのは、聖女だけではなく、Fクラスの聖騎士や神官もいる。
 中には我の姿を、初めて見た者も少なからずおり、動揺していた。

 おかげで一向に我の質問の答えが返ってこない。

「ハーちゃん、どうしたの?」

「それは……」

 ハートリーはポツリポツリと話し始めた。
 Fクラスのほとんどが平民、あるいは貧乏貴族の息子・令嬢たちだ。
 対してE以上のクラスは、だいたい由緒正しい貴族たちである。

 その差は生まれた頃から付いていた。
 彼らは幼い頃から英才教育を施される。
 さらに家から装備を持ち出し、そのどれもが一級品だ。

 一方、Fクラスは官給品のお下がりばかり。
 メンテナンスはしているが、くたびれたものばかりだった。

 これでは勝てるわけがない。
 そもそも、このクラス対抗別演習戦で、Fクラスが勝ったことは1度もないという。

「なるほど。そんなことですか……」

「そ、そんなことって……。ルーちゃん?」

「確かにこれでは勝てるわけがありませんね」

「その通りだ」
「せめてジャアクが、聖騎士だったらなあ」
「おい。よせよ。聞こえるぞ」
「やっぱり無理なんだよ。オレ達には」

 皆の雰囲気は一層暗く沈んでいく。

「でも、別に負けてもいいのではないでしょうか?」


「「「「「「へっ??」」」」」」


 我の一言に、控え室にいる全員が固まった。

「これは戦争ではありません。模擬戦です。負けることも1つの反省あるいは教訓になるはずです。それに負けることによって、自分の問題点をあぶり出すこともできます」

「えっと……。ルーちゃん、どういうことかな?」

「? 私は難しいことは言っていないはずですよ。負けたのなら、次に負けないように強くなればいいだけです。なんでしたら、朝と夕方に一緒にトレーニングしませんか」

 うん。我ながらいいことを思い付いた。
 もし皆がすでに敗戦を覚悟しているというなら、次戦勝利するために、皆でトレーニングすればいい。
 皆が強くなることは、我も嬉しい。

 も、もしかしたら、と、友達も出来るかもしれぬしな。

 我の提案に皆がどよめく。

「え? ジャアクって、そんなことしてたのか?」
「知ってる。校内を走ってるのを見たことある」
「意外と努力家なんだな」
「ジャアクって、実はイイ奴じゃないのか?」

 なかなか好意的な意見だ。
 我は涙が出るほど嬉しかった。
 まさかここまで皆の胸を打つとは。

 こう言ったのだ。
 皆を強くするのは、我の義務である。
 ならば、皆が強くするメニューを考えなければなるまい。

「よし。では、皆さんが負けた場合、今日からトレーニングをしましょう。まずは王都の外周を50周……」

「え?」
「今、王都の外周って」
「学院の外周の間違いじゃないの?」

「何を言ってるんですか、みなさん。王都の外周です。その後、素振り1万回。魔力を一点に集中させる訓練を、2時間維持。後は、最低限腹筋と背筋は1万回、スクワットは10万回といったところ――――」

 ドドドドドドド!!!!!

 騒がしい音を立てて、皆が控え室を出て行く。

「みんな! 絶対に勝つぞ!!」
「なんとしてでも、トーナメントを勝ち進むんだ」
「じゃなかったら、オレ達は死ぬ」
「嫌だー! ジャアクのしごきなんて地獄だああああああ!!」

 わいわいと騒いでいる。
 まだ試合まで時間があるというのに、凄いやる気だ。
 皆とトレーニングが出来ないのは寂しいが、皆が勝つ気になったのは喜ばしい。
 やはり勝負事は勝つ気がなければ意味がない。

 我は誓う。

 このFクラスを勝たせることを……。

 皆と勝利を掴むのだ!!


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

これで勝たなければならなくなった。
頑張れ、Fクラスのみんな。ルヴルは本気だぞw
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