「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

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1章

第16話 涙が見せる奇跡(前編)

 Eクラスに続き、我らFクラスは、勝ち上がってきたCクラスも撃破した。
 破竹の連勝だ。
 我らを見る周囲の目も変わってきているような気がする。

 Fクラスの雰囲気も変わってきた。
 最初は敗戦した兵士のように下を向いていた者たちが、顔を上げ、声を上げていた。
 その声は控え室の向こうにある廊下にまで響いている。
 我はそっと耳を澄ました。

「まさかCクラスにまで勝っちゃうなんて」
「俺たちって、こんなに強かったの?」
「いや、その前に思ったんだけどさ」
「そうそう……。貴族とか、クラスが上とかよりも……」


「「「「ジャアク以上に怖いものなんてないんじゃね?」」」」


 一瞬、しんと静まり返る。
 やがて誰彼ともなく、軽やかな笑い声が聞こえてきた。

「これって、ルヴルさんのおかげってことかな」
「いや、だってトレーニングとか嫌だぞ、俺」
「うん。それと比べたら、貴族に逆らうことなんて」
「まあ、これが終わったら、感謝の言葉の1つぐらいはかけてやろうぜ」

 最後に皆、「うん」と頷く。

 そっと扉の隙間から見ていた我は、感激の涙を流した。
 相変わらず我を怖がっているようではあるが、一応感謝はしてくれているらしい。
 我とトレーニングすることに何をそんなに怖がっているのかわからぬが、同級生たちが1つのモチベーションとしてくれているのなら、我としては本望だ。

 それに感謝の言葉……。

 我はかつて魔王だった。
 人々の呪詛の声を聞いて、育った怪物だ。
 そんな我に感謝の言葉とは……。

 良い……。
 良いなあ。
 是非聞いてみたいぞ。

 その時こそ、Fクラス全員と真の友情が育まれ、ついに我と友の契りを結べるやも知れぬ。

「その銀髪……。貴様がルヴルか?」

 胴間声が響く。
 振り返ると、灰色の髪を後ろへと撫でつけた学生が立っていた。
 制服からして、聖騎士候補、そして次に戦うBクラスのようだ。

「あれって、Bクラスの――」
「ルマンド・ザム・ギールか……」
「あれが閃光の騎士……?」
「すでに中央教会の聖騎士の内定をもらってるって」
「すげぇ……」

 声に驚いたのは、我らだけではない。
 控え室から何事かと、Fクラスの生徒たちも顔を出した。
 突然現れた男を称賛し始める。

 どうやら、音に聞く実力者のようだ。
 なるほど。雰囲気がある。
 強者の佇まいだ。

 そのルマンドは我が同級生の方に鋭い視線を向けた。

「調子に乗るなよ、愚民ども。EのクズもCのふぬけどもも油断していたのだ。だが、我らはそうはいかん。わかっているのだろうな。我ら貴族に手をあげること……。それはつまり――――」

 ルマンドは眼光を光らせる。
 我からすれば、それは児戯に等しい。

 だが、他の同級生は違うようだ。
 まるで魅了されたかのように、竦み上がっていた。
 等しく顔を青くし、中には崩れ落ちる者もいる。

「刃向かう者には容赦せん。貴様らも、貴様らの家族もな……」

 ニッと最後にルマンドは不敵に笑った。

 家族?
 ん? どういうことだ?
 これは学校の模擬戦だ。
 家族も関係ないだろう。

 しかし、同級生たちには効果覿面のようだ。

 ルマンドが下がると、同級生は一斉に頭を抱えた。

「くそ! これが貴族のやり方かよ」
「すっかり忘れていた」
「終わったな、俺たち」
「結局、俺たちってつくづく平民だってことだよな」

 最後に「はあ……」と深い息が漏れる。
 ここまで連勝してきた勢いが、すっかりなくなってしまっていた。



※ 後編へと続く
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