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2章

第22.5話 元気に挨拶(後編)

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 ◆◇◆◇◆  ルヴル side  ◆◇◆◇◆


 今日の目覚めは良かった。
 髪の通りもよく、セットも1発で決まった。
 近くの乳牛場からもらった絞りたての牛乳も美味かった。
 朝から幸先が良い。

 いい1日になる予感がした。

 それでも、昨日の出来事ほどではあるまい。
 我にとって、昨日ほど最良の日はなかった。
 目標としていた友達が、たくさんできたからだ。
 それだけではない。
 一緒に戦い、そして彼らを背にし、名誉ある戦いもできた。

 これは魔王ひとりであった時にはできなかった戦だ。

 誰かのために戦い。
 まさかこれほど、我の胸を躍らせるとは思わなかった。
 今ならロロがあんなに必死になって、我に挑んできた気持ちがわかるような気がする。

「ルヴルちゃん、そろそろ出ないと、始業時間に遅れるわよ」

 マリルの声が階下から聞こえてくる。
 我は「はーい」と答えて、扉を開けて、今日も聖クランソニア学院へと登校した。




 なんだか夢のようだ。
 身体がふわふわしている。
 油断するなと、未熟者と思う気持ちもあるが、我は楽しみで仕方がない。

 友達となった同級生たちとどんな会話をしようか。
 やはり回復魔術の深奥について語るべきだろうか。
 いやいや、その前に挨拶だ。
 これまでまともに同級生から挨拶されたことがない。

 何せ我が教室に入っただけで、しんと静まり返っていたからな。
 だが、今日は違うはずだ。
 ついに皆と元気よく、挨拶を交わす時がやってきたのだ。

 我は緊張した面持ちで、クラスの引き戸を引いた。

「みなさん、ご機嫌よう」


「「「「「ルヴルの姐さん、お疲れ様です」」」」」


 我は一瞬呆気に取られた。
 元魔王である我を刹那の間でも、惚けさせたことは勲章に値するが、今厳かに授与式を取りはからっている場合ではない。

 な、なんだ、これは?

 皆が腰を落とし、軽く曲げた膝に手を置いている。
 頭は少し下げた程度、代わりに鋭い視線が我に集中していた。

「お荷物、お持ちします」
「姐さん、こちらの席へ」
「お水ですが、キンキンに冷やしておきました」
「疲れてるなら、肩をもみましょうか?」

 皆が我をもてなしてくれる。

 おお……。
 こ、これが……。


 友達待遇というものか!!


 なんたる贅沢。
 まるで王をもてなすようではないか!
 いや、我は魔王ではあるが……。
 そうか。これが友達か。
 何か我が思い描いていたものとは違う気がするが、悪くない。

 全然悪くない!

「みなさん、今日のよろしくお願いします」

「「「「「へい!」」」」」

 今日も素敵な1日が始まりそうだ。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

ルヴル組結成!
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