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2章

第24.5話 王都探索(後編)

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 次にやって来たのは、多くの屋台がならんだ市場だ。
 食べ物から服、民芸品やアクセサリーと様々な品が、青空の下で売られている。
 アレンティリ領でも市場はあったが、やはり規模が違う。
 大きな通りを埋め尽くさんとばかりに、たくさんの出店が並んでいる。

 普通、安息日とも先ほどの劇場や拷問器具屋も休みとなるのだが、安息日は多くの人が外に出るため商人たちにとっては稼ぎ時だ。
 そのため商人たちに「今日は安息日だぞ」と投げかけると、例えその人がルヴィアム教徒だとしても「私は商売の神様を信じているからいいんだ」と返すのが通例になっている。

 商人の間の逸話では、商売の神様は安息日の2日後に休むこととなっていて(翌日は店を畳む準備があるため)、この日に商人たちも休息をとることになっている。
 故に、2日後の教会には多くの商人たちが詰めかけるのだという。
 

「はーい! 『鬼、滅ぼす刃』の鬼死のプロマイドが入ったよ! お1人様1枚限り。お1人様1枚限りだよ」

 売り子の声も威勢がいい。
 王都は活気づいている。
 果たして、1000年前の王都はどうだったのであろうな。

「ん? あれ? ハートリーは?」

 いない?
 どういうことだ?
 我の横を歩いていたのに、忽然と消えてしまったぞ。

 まさか何者かが誘拐?
 そんな馬鹿な!
 我に気取られぬとは、相当の使い手だ。

「何を慌ててるんですか、ルヴルの姐さん。ハートリーの姐貴なら、あっちですよ」

 ネレムは指差す。

 ハートリーは先ほど威勢の良いかけ声を上げていた売り子の出店にいた。
 なんだか殺気だった女子に揉まれながら、猛獣の如く商品に手を伸ばしている。

「うおおおおおおおお!! 鬼死くぅぅぅぅぅうううううんんんんん!!」

 本当にあれはハートリーなのか。
 普段の雰囲気とは全く違うのだが……。
 鬼死君と呼んでいたが、そう言えば演劇の最中、随分鬼死が出る場面で興奮していたような気がする。
 時に泣いていることも……。

 やがてハートリーは戻ってきた。
 どうやら目当ての商品を買えたらしい。
 ほっこりとした笑顔で、買った商品を袋に詰めていた。

「ご、ごめんごめん。その、なんというか」

 皆まで言うな、ハーちゃん。
 そなたが、その鬼死に惚れ込んでいるというのはよくわかった。

 その後も、我らは市場を見て回る。
 ふと我が目にしたのは、銀メッキされたネックレスだった。

「ほう……」

 なかなか細工に手が込んでいる。
 ハートの銀細工の中に、ピンク色した硝子玉が嵌められていた。

「ルヴルの姐さん、そういうのが好きなんですか? もっとおどろおどろしいのが好きかと」

「ネレムは私にどういうイメージを持っているかよーくわかりました」

「す、すみません。気分を害したなら謝ります」

 ネレムは慌てて頭を下げた。

 まあ、ネレムが誤解するのも無理もない。
 意外に思われるかもしれないが、我はアクセサリーや腕輪といった、人類の女性が喜びそうなものが好きだ。
 特に金や銀、宝石がついているものを好む。
 魔王であった時、魔族に命じて貢がせていたぐらいだ。

 それを訓練の後に、眺めるのが唯一の我の趣味であった。

 そう言えば、戯れでロロにそのことを話したら、今のネレムのように意外そうな反応していたな。

 魔王が女子おなごの欲しがるようなものを欲して、何が悪いのであろうか。

「このネックレスって、あと青と緑のタイプがありますね」

 我は並んだネックレスを見つめる。

「だったら、3人でお揃いにしますか?」

「あ! ネレムさん、それいいかも!」

 ハートリーはポンと手を打つ。
 なるほど。
 お揃いか。
 悪くないな。
 人間の家族や友人を見ると、どこか服装のポイントに同じ物を入れていることがあったが……。
 なるほど。あれは友情の証であったか。

「だけど、ちょっと高いねぇ、これ」

 ハートリーは値段を見て、落胆する。
 確かに高い。
 一応、マリルからある程度小遣いをもらっているが、それでも手が届かぬ。

 弱ったな。
 魔王であった頃は、この店ごと買えるほど財があったというのに。
 何故、お金ごと転生できなかったのか。

「ふっふっふっ……。お二人さん、お困りのようですね」

 突然、笑い出したのはネレムだ。
 お前、今日はなんか気持ち悪いぞ。

「1つ手っ取り早く、お金を稼げる方法がありますよ」

「なんですか、それは?」

 我は思わず身を乗り出し尋ねた。

 ネレムはニヤリと笑うと、こう言った。

「ダンジョンっすよ」


 ギルドに登録して、ダンジョン探索者になるんす。
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