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2章

第26話 嬉し恥ずかしダンジョン探索

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 王都を出て、馬車に揺られること1時間、
 我は件のダンジョンへとやってきた。
 ダンジョンと名前がついているので、大層な迷宮か古代遺跡なのだろうと、想像していたが、なんてことはない。

 単なる洞窟が、欠伸を鯨みたいにポッカリと空いていた。

「ここがダンジョンか?」

 何とも雰囲気がないなあ。
 魔窟というから、どんな魑魅魍魎の気配がするかと思っていたが、これならば熊の穴蔵の方がよっぽど危険なのではないだろうか。

「どうしたの、お嬢ちゃん?」

「友達のもとに行かないのかい?」

 2人の冒険者が尋ねる。

 2人はジーダ、ゴンスルと名乗った。
 この道10年のベテランというが、我にはこやつらが何かのスペシャリストのようにはとても見えぬ。

 とはいえ、達人というのは、己の力量を欠片も見せない故、達人と言われている。
 こやつらも、その高みに達した者であるという可能性は捨てきれぬが……。

「はい。今、行きます」

 我はジーダとゴンスルに付いて、ダンジョンの中に入っていく。

 中は真っ暗で、一寸先すらわからぬ。
 加えて、1本道がだらだらと続き、天井も低く、道幅も狭い。
 仮に魔獣に挟撃されると、一気にピンチになるだろう。

 我には問題ないが、ハートリーやネレムは無事であろうか。

「少しペースを上げてもらってもいいですか? 友達が心配です」

「この暗闇じゃねぇ。あまり急ぐと危ないよ」

「問題ありません」

 我は【邪視ジャック】をジーダとゴンスルにも施す。

「な、なんだ?」

「す、すげぇ! 暗闇なのに、道がはっきり見えるぜ」

 随分と慌てている。
 【邪視ジャック】は瞳を一時的に魔眼化する魔術だ。
 使い方によっては、対象を魅了や石化させることも可能(我には通じぬが)。
 今は2人に暗闇でも見えるようにしただけだ。

 大した魔術でもないのだが、何故この2人はこんなに驚いているのだろうか。
 10年冒険者やっているのだから、これぐらいは知識として持っていてもおかしくないだろうに。

「じゃあ、急ぎましょう」

 我は走り出す。

「ちょっ! 早ッ!」
「お、おい! 待て!!」

 慌ててジーダもゴンスルも付いてくる。

 奥に行くと1本道だったダンジョンに岐路が現れた。
 次第に複雑化していく。
 我は魔術でハートリーたちの居所を探索した。
 おかしい……。
 ハートリーはおろか、他の冒険者の気配すらない。

「本当にハートリーさんやネレムさんが、ここに来ているのですか?」

「え? ま、間違いないよ。ハア……。ハア……」

「し、心外だな。俺たちを疑ってるのかい? ぜぇ……。ぜぇ……」

 別に疑ってるつもりはないが……。
 これ以上の詮索はしない方が良いか。
 後でネレムに迷惑をかけてしまうかもしれないからな。

 しかし、この洞窟……。
 初めは気付かなかったが、どこかで見たような気がする。

 やがて、我らは洞窟の最奥へとやってくる。
 そこは行き止まりだ。
 大きな空間になっていて、奥には崩れた祭壇のようなものがある。
 結局財宝はおろか、魔獣1匹とも遭遇しなかった。

 ガコンッ!!

 突然、部屋の入口が閉まる。
 ジーダが壁にあった仕掛けのようなものを動かしたらしい。
 すると、ゴンスルがヤニが付いた歯を見せびらかすように笑っていた。

「ジーダさん? ゴンスルさん?」

「「げへへへへへへ……」」

 ジーダとゴンスルの雰囲気が変わる。
 何故か、好色げに顔を歪めていた。

「こうもあっさり捕まるとはな?」

「久々の上玉だ。たっぷり楽しませてもらおうぜ」

 捕まる?
 楽しむ?

 ほう……。なるほど……。


 お前達も気付いていたのか、このダンジョンの絡繰りを……。


 我はすでに手をかざしていた仕掛けを起動する。
 その瞬間、部屋の中央に召喚陣が光を帯び出現した。

 その陣から何やらせり上がってくる。
 現れたのは、巨大な竜であった。

「げええええええええええええええ!!」
「まさかあれは、大地竜グランドドラゴン??」

 ジーダとゴンスルは目を剥く。
 腹ばいになった大地竜は、慌てる2人の声に反応する。
 すると、翼の代わりに背負っていた甲羅のようなものが、ムクムクと動き出す。
 ぽっかりと無数の穴が空き、射出されたのは、高硬度に固められた結晶弾だ。

 雨あられとばかりにジーダとゴンスルに降り注ぐ。

「「ぎゃああああああああああああああああああ!!」」

 冒険者2人の悲鳴が響く。


 【絶喰ブリスト】!!


 落ちてきた結晶を我は風の魔術ですべて粉砕する。
 続いて、我は魔術を詠唱した。


 【地獄焔ヴェルファリア】!!


 まさしく地獄の猛火が、出現した大地竜を飲み込む。
 大地竜は高硬度の甲羅を持つ竜。
 その守りは堅い。
 だが、我が放つ【地獄焔ヴェルファリア】はまさしく地獄の猛火だ。

 竜種では上位であれど、我からすれば下等な獣でしかない。

 1分と経たぬうちに、大地竜は骨も残さず溶け、消滅した。

「な、なんなんだよ……」
「何者なんだ、あの嬢ちゃんは」
「付き合ってらんねぇ。に、逃げようぜ」
「そ、そうだな」

 何か2人で喋っているかと思えば、ジーダとゴンスルは突然転進した。
 だが、2人を阻んだのは、自ら閉じた入口だ。

「な! 開かねぇ!」

「何をやってんだよ! 早くしろ」

お前たちヽヽヽヽ何をやっているヽヽヽヽヽヽヽ?」

「「ひぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃぃいいぃい!」」

 2人は大げさに悲鳴を上げた。
 我の方に振り返る。
 顔は青ざめ、脂汗が垂れていた。
 まさしく恐怖に戦いている。

 聖クランソニア学院でもよく見る表情だ。
 どうやら、我がジャアクだというのは、冒険者の間でも知れ渡っているらしい。
 それだけ、あの学院の影響力が強いと言うことだろう。

どこへ行くつヽヽヽヽヽヽもりだヽヽヽ?」

「そ、それは……」
「お。おい。なんか雰囲気違うくないか」

 ジーダもゴンスルも息を飲む。

 雰囲気?
 あ。そういえば、いつの間にか元の口調に戻っていたな。
 だが、仕方ないことだろう。
 ここは、少々この大魔王ルヴルヴィムに縁のある場所だからな。

「進むぞ、2人とも」

「進むってどこに?」

「ここは行き止まりじゃ――」

 すると、我は別の仕掛けを押した。
 部屋の奥に、道が現れる。
 かなり奥まで続いていた。

「さあ、行こう……」


 我が宝物庫へ……。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

わ、我が宝物庫……?
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