「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

文字の大きさ
40 / 71
2章

第27話 楽しそうで何より

 転生する以前――。
 我は様々な場所に集めた金銀財宝を隠しておいた。
 別に魔王城に蓄財していても問題なかったのだが、魔族の中に我の目を盗んでくすねる者が続出してな。

 以来、他の場所に厳重に隠しておいたのだ。

 1000年経っていて、辺りの地形も変わったため、最初はわからなかったが、奥に来てようやく気付くことができた。

 しかし、よもや1000年経って、ダンジョンとして人間に目を付けられているとはな。
 本人たちはまさか魔王の宝物とは思っていないだろうが、ここを見つけただけでも、重畳というものだ。

 心配なのは、ネレムやハートリーの姿がないことだろう。
 さらに奥に進んだか。それともその辺を彷徨っているか。
 探索系の魔術を用いたいところだが、阻害する結界が張られている。
 我が作ったもの故、解除にはしばらく時間がかかるだろう。

 何にしても、入口は閉まり、今は進むしかない。
 ネレムたちの知り合いが優秀で、先のエリアに進んでいることを祈るしかないであろう。

 我は前に進もうとする。
 だが、他の2人は1歩も動かなかった。
 我の方を見て、震えている。
 反応には慣れているが、魔王の心臓が鉄で出来ていると思われるのは、心外だ。

「どうした、2人とも?」

「い、いえ……。そ、その……」

「お、俺たちはここで救助を……」

 救助?
 何を言っているのだ?

 ここは我の宝物庫だぞ。
 自分の庭で救助を求めるなど、阿呆することだ。
 それとも、こやつらはこのダンジョンに詳しくないだろうか。
 まさか初のダンジョンだったとか?

 やれやれ……。

 冒険者でもない聖女候補生を連れて、初ダンジョンを踏破しようとしていたのか、ネレムの知り合いは。
 我はかまわぬが、少々ネレムやハートリーには危険すぎやしないか。
 まあ、我らを守るだけの実力を兼ね備えていると、思っていたのかもしれぬが。

 あ、いや……。
 そのための聖女候補生3人態勢か。
 なるほど。
 我らは第一候補生だからな。
 3人まとめて、1人前と括られたのだろう。

 我が未熟な聖女であることは、最初から折り込み済みだったということか。
 なかなか慧眼のあるリーダーがいるようだ。

「ともかく今は前に進むしかない。行こう」

 我は歩き出す。

「ちょ……待て」
「待ってくれ」

 慌ててジーダとゴンスルが付いて来る。
 我を先導役として、狭い通路を歩き出す。

「お、お嬢ちゃん……。こ、このダンジョンに詳しいの?」

「当たり前だ。これは我のものだからな」

「え? ええ? お嬢ちゃんのものなの」
「ど、どんだけ金持ちなんだ?」

「金持ち? そんなわけあるまい。アレンティリ家は貧乏田舎貴族だぞ」

「貧乏田舎貴族が、ダンジョンを持っているのかよ」
「すげぇ……」

 揃って、口を開け呆然としていた。

「で――オレ達は助かるのか?」
「教えてくれ」

「助かるに決まってるだろう。自分の庭で遭難するアホがおるか」

 我の言葉に、ジーダは胸を撫で下ろし、ゴンスルは祈るように天を仰いだ。

「ただ問題がないわけではない」

「え?」
「な、なんだ?」

「この先に2つほどトラップが存在する。それを解除しなければ、目的は果たせぬ」

「と、トラップ?」
「一体、どんな……」

「案ずるな……。すでに起動した」

 我は立ち止まる。
 その瞬間、床に大きな召喚陣が広がった。
 いつの間にか我々は、次のフロアに進んでいたのだ。

 召喚陣の中からせり上がってきたのは、巨大なゴーレムだ。
 それも1体だけではない。
 ざっと20体ほどいるだろう。

 そうだそうだ。
 こういうトラップだったな。
 宝物庫を作ったのは、転生前から数えても300年前のことだ。
 おかげですっかり忘れていたわ。

「数が多い。少しお前らに譲ってよいか?」

 別に我一人で相手をしてもいいのだが、こやつらは初心者だ。
 少しぐらい見せ場を与えてやらねば、他の者に示しが付かぬであろう。

「え? オレ達があんな化け物と戦うのか?」
「か、勝てるわけがねぇ!」

 悲鳴じみた声を上げて、我にすがりつく。
 すでに涙を流し、我に哀願した。
 顔面は汗にまみれ、貼り付いた毛が若干気持ち悪かった。

「何故だ、お前たちも冒険者だろう?」

「そ、それは……」
「そのぉ……」

 急にジーダとゴンスルは口ごもる。
 我から目を背けて、モジモジし始めた。

「なんだ? 何か戦えないわけが――――はっ!」

 そうか。
 こやつら、おそらく怪我をしているのだな。
 協力者である我が心配しないように隠しているのかもしれぬ。
 如何にも悪人面という感じだが、根は優しいのだろう。
 しかし、我に対しては無用な気遣いだ。

「隠さなくてもよい」

「え?」
「はっ?」


 さあ、回復してやろう……。


 我は回復魔術を使って、ジーダとゴンスルを回復させた。
 真っ白な光に包まれる。

「ひゃっはぁぁぁあああ! なんかよくわからんが、力が漲ってくるぜ」
「お、俺も! うががががががががががが――――!!」

 突如、肥大した筋肉を得たジーダとゴンスルは、ゴーレムに突撃していく。

『バオッ!!』

 ゴーレムがなぎ払う。

「ぶべらっ!」
「はべらっ!

 2人はあっさりと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「あ? あれ?」

 よ、弱い……。
 弱すぎる。
 確かに我の回復魔術は未熟だが、それにしても2人弱すぎないか。

 どうやら、ネレムの知り合いは相当な半人前を寄越したらしい。
 未熟な我には、それぐらいでちょうどいいと判断したのだろうが……。

「痛ててててて……」
「お、俺たち何をやってんだろう……」

 どうやら意識はあるらしい。
 ゴーレムほどとは言わないが、身体の弱さだけは治ったようだ。
 仕方がない。
 我がやるか。
 一応、我聖女候補なのだがな。

「ジーダ! ゴンスル!! 伏せていろ!!」

 我は忠告する。
 手に魔力を込めると、それは1本の氷の刃となった。

「切り裂け……」


 【凍刃アズール】!!


 氷の刃を地面と水平方向に薙ぐ。
 一瞬にして、全ゴーレムたちが真っ二つになっていた。
 バラバラになり、ただの土塊と化す。

 ふむ。悪くない調子だ。
 そういえば、転生してからというもの、回復魔術ばかりで、あまり他の魔術や術理を使ってこなかったからな。

 魔力も満ちてきている。
 おそらくこれは、宝物庫に滞留していた魔力の影響だろう。
 すこぶる気持ちがいい。

 これなら久方ぶりに暴れることができそうだ。

 くくく……。

「あ、あれだけのゴーレムを……」
「一撃で……。す、すげぇ……」

 ジーダとゴンスルは目を剥き、我の方へ視線を向けていた。

 すると、瞬間その顔は凍り付く。
 唇を震わせながら、我の方を指差した。

「な、なんだ?」
「あの笑顔? まるで……悪魔?」
「いや、まるで魔王みたいだな」
「おそろしい……。あの娘、きっと悪魔に魅入られたんだ」

 ジーダとゴンスルは悲鳴を上げるのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

世紀末ばりにパワーUPしても無理だったようです。
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。