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2章
第29.5話 お説教(後編)
それよりも、ジータとゴンスルが、悪い冒険者?
とてもそうは見えなかった。
少々臆病で頼りないところはあったが、最後は我の身を案じ、自分の命すら投げだそうとしていた。
他人のために命を投げ出すなど、聖人君子ですらできるかどうかわからないというのに。
「信じられません、彼らがそんな悪い冒険者とは……」
「素晴らしいわ、ルヴルさん」
「え?」
「彼らは悪人よ。でも、ルヴルさんはそれでも彼らの善意を信じようとした。誰でもできることではないわ。私が当事者であっても、出来たかどうか」
「大聖母様でもですか?」
「『大聖母』といわれていても、私も人間です。悪人と呼ばれるものに対して、他の人と同じように手を差し伸べることは難しいわ。……けれど、ルヴルさん。あなたは違う。彼らの善意を最後まで信じた。だから彼らは改心して、自首したのよ」
「じ、自首ですか?」
「ルーちゃん、すごい!!」
横のネレムとハートリーが腰を浮かして前のめりになる。
我も同じだ。
2人が罪を認め、刑に処されることを選んだなど……。
信じられぬ。
我は全く――何一つ、あの者たちに報いた覚えなどないのに。
すると、アリアンは笑った。
「素晴らしいことだわ。悪人を改心させるなんて」
「信じられません。私はあの方々にはお世話になっただけで、何1つ報いることは」
「私たち聖女が人に報いるなどあってはならない……」
アリアンは急に聖女課程における最初の教えをそらんじる。
我は横のネレムとハートリーとともに、言葉を続けた。
「私たちの仕事は人の身体を癒やし、心を癒やすこと……」
ニコリ、とアリアンは笑った。
「その通りです。ルヴルさん、あなたは悪人の心を癒やした。それはもしかしたら、1番難しいことではないかしら」
「ならば、私は回復魔術の深奥を覗いたということでしょうか?」
「……ふふ。そうかもしれませんね」
しかし、我に実感はない。
そもそも心を癒やしたというが、果たしていつの回復魔術が、ジータとゴンスルを癒やしたのだろうか。
知りたい!
今度、面会でも行ってみるのも悪くないかもな。
「あの……。それで学院長様、わたしたちの罰はどうなるのでしょうか?」
ハートリーは怖ず怖ずと尋ねる。
「何も――というわけにはいかないわね。この部屋の掃除と、裏庭にある倉庫の掃除をしてもらいましょう」
「そ、それだけですか?」
ネレムがキョトンとする。
同感だ。
校則違反なのだから、もっとすごい拷問が与えられるかと思ったのだが。
それでは、普段の清掃とそう変わりないではないか。
「ネレムさんもハートリーさんも、ルヴルさんを心配して、ダンジョンに行けなかったのでしょ? ルヴルさんにしても、事件に巻き込まれただけ。そもそも校則違反なんて、あなたたちは犯してないのよ」
「納得できません、学院長!!」
声を荒らげたのは、ここまで黙って聞いていた副院長だった。
すでに顔は赤くなり、歯をギリギリと鳴らす音が、我たちの方まで聞こえてくる。
「いくら未遂といえど、彼女らは校則を破ろうとしたことは事実! それに対する罰があまりにも軽すぎる。それに学院長は、ルヴルさんを過剰に買いかぶってはいませんか? 彼女は魔導具によって『ジャアク』と判定されていました。悪人と接触したのも、何か企てがあって……」
「副院長……」
急にアリアンの声が低くなる。
その声は、どこか冷え切っていた。
我ですら「おっ」と思う程、アリアンが怒っている。
ゆっくりと立ち上がると、副院長の方を向く。
我の方からでは、アリアンの表情を確認できなかったが、副院長の顔が青ざめていくのだけはわかった。
「相変わらずですねぇ、あなたは。校則というなら、あなたも校則違反を犯していることを自覚していますか?」
「え? わ、わたくしが校則違反など……」
「はあ……。本当に昔と変わらないですね、あなたは。血が上ると、全く周りが見えなくなる」
なんと……。
学院長と副院長は、昔からの知己であったか。
「廊下での会話……。あなたの声ですが、このフロアに来る前から聞こえていましたよ。どれほどの声を上げていたのですか? 授業をしているクラスもあるのですよ」
「そ、それは――――」
「お説教なのだから仕方がない、と? ならば然るべき手続きを取って、部屋の中でやればいいではありませんか? 何も廊下でやる必要はありません」
「は、はい。ごもっともで」
「まだありますよ。ルヴルさんがどうやって悪人を改心させたのか、私にもわかりません。ですが、彼らが自首したことは事実。ルヴルさん自身にも被害はなかった。……なのに、あなたと来たら、ルヴルさんを犯人呼ばわり。学院の学生を預かる聖職者が、どうして生徒を犯人扱いできるでしょうか?」
「お、お言葉ですが、学院長様……。ルヴルさんは、魔導具の判定によってジャ――」
「邪な心など、誰にでもあること。私からすれば、ルヴルさんより生徒を疑う副院長の方が、よっぽどジャアクです!!」
ガーーーーーーーーーーン!
副院長の心の声が聞こえたような気がした。
廊下を歩いていた時は威勢のよかった副院長が、幾分縮んで見える。
もちろん、その顔は真っ青――いや、もはや真っ黒になっていた。
「学院長様、それぐらいに……。副院長も私たちを思って、指導されたのですから」
「あら……。私としたことが生徒の前ではしたない。……私もまだまだですね。あなたの落ち着きようが羨ましいわ」
アリアンはいつも通りの穏やかな笑顔に戻るのだった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
ジーダとゴンスルの第二の人生に……。
てか、縛り首とかいう可能性も捨てきれないけど。
とてもそうは見えなかった。
少々臆病で頼りないところはあったが、最後は我の身を案じ、自分の命すら投げだそうとしていた。
他人のために命を投げ出すなど、聖人君子ですらできるかどうかわからないというのに。
「信じられません、彼らがそんな悪い冒険者とは……」
「素晴らしいわ、ルヴルさん」
「え?」
「彼らは悪人よ。でも、ルヴルさんはそれでも彼らの善意を信じようとした。誰でもできることではないわ。私が当事者であっても、出来たかどうか」
「大聖母様でもですか?」
「『大聖母』といわれていても、私も人間です。悪人と呼ばれるものに対して、他の人と同じように手を差し伸べることは難しいわ。……けれど、ルヴルさん。あなたは違う。彼らの善意を最後まで信じた。だから彼らは改心して、自首したのよ」
「じ、自首ですか?」
「ルーちゃん、すごい!!」
横のネレムとハートリーが腰を浮かして前のめりになる。
我も同じだ。
2人が罪を認め、刑に処されることを選んだなど……。
信じられぬ。
我は全く――何一つ、あの者たちに報いた覚えなどないのに。
すると、アリアンは笑った。
「素晴らしいことだわ。悪人を改心させるなんて」
「信じられません。私はあの方々にはお世話になっただけで、何1つ報いることは」
「私たち聖女が人に報いるなどあってはならない……」
アリアンは急に聖女課程における最初の教えをそらんじる。
我は横のネレムとハートリーとともに、言葉を続けた。
「私たちの仕事は人の身体を癒やし、心を癒やすこと……」
ニコリ、とアリアンは笑った。
「その通りです。ルヴルさん、あなたは悪人の心を癒やした。それはもしかしたら、1番難しいことではないかしら」
「ならば、私は回復魔術の深奥を覗いたということでしょうか?」
「……ふふ。そうかもしれませんね」
しかし、我に実感はない。
そもそも心を癒やしたというが、果たしていつの回復魔術が、ジータとゴンスルを癒やしたのだろうか。
知りたい!
今度、面会でも行ってみるのも悪くないかもな。
「あの……。それで学院長様、わたしたちの罰はどうなるのでしょうか?」
ハートリーは怖ず怖ずと尋ねる。
「何も――というわけにはいかないわね。この部屋の掃除と、裏庭にある倉庫の掃除をしてもらいましょう」
「そ、それだけですか?」
ネレムがキョトンとする。
同感だ。
校則違反なのだから、もっとすごい拷問が与えられるかと思ったのだが。
それでは、普段の清掃とそう変わりないではないか。
「ネレムさんもハートリーさんも、ルヴルさんを心配して、ダンジョンに行けなかったのでしょ? ルヴルさんにしても、事件に巻き込まれただけ。そもそも校則違反なんて、あなたたちは犯してないのよ」
「納得できません、学院長!!」
声を荒らげたのは、ここまで黙って聞いていた副院長だった。
すでに顔は赤くなり、歯をギリギリと鳴らす音が、我たちの方まで聞こえてくる。
「いくら未遂といえど、彼女らは校則を破ろうとしたことは事実! それに対する罰があまりにも軽すぎる。それに学院長は、ルヴルさんを過剰に買いかぶってはいませんか? 彼女は魔導具によって『ジャアク』と判定されていました。悪人と接触したのも、何か企てがあって……」
「副院長……」
急にアリアンの声が低くなる。
その声は、どこか冷え切っていた。
我ですら「おっ」と思う程、アリアンが怒っている。
ゆっくりと立ち上がると、副院長の方を向く。
我の方からでは、アリアンの表情を確認できなかったが、副院長の顔が青ざめていくのだけはわかった。
「相変わらずですねぇ、あなたは。校則というなら、あなたも校則違反を犯していることを自覚していますか?」
「え? わ、わたくしが校則違反など……」
「はあ……。本当に昔と変わらないですね、あなたは。血が上ると、全く周りが見えなくなる」
なんと……。
学院長と副院長は、昔からの知己であったか。
「廊下での会話……。あなたの声ですが、このフロアに来る前から聞こえていましたよ。どれほどの声を上げていたのですか? 授業をしているクラスもあるのですよ」
「そ、それは――――」
「お説教なのだから仕方がない、と? ならば然るべき手続きを取って、部屋の中でやればいいではありませんか? 何も廊下でやる必要はありません」
「は、はい。ごもっともで」
「まだありますよ。ルヴルさんがどうやって悪人を改心させたのか、私にもわかりません。ですが、彼らが自首したことは事実。ルヴルさん自身にも被害はなかった。……なのに、あなたと来たら、ルヴルさんを犯人呼ばわり。学院の学生を預かる聖職者が、どうして生徒を犯人扱いできるでしょうか?」
「お、お言葉ですが、学院長様……。ルヴルさんは、魔導具の判定によってジャ――」
「邪な心など、誰にでもあること。私からすれば、ルヴルさんより生徒を疑う副院長の方が、よっぽどジャアクです!!」
ガーーーーーーーーーーン!
副院長の心の声が聞こえたような気がした。
廊下を歩いていた時は威勢のよかった副院長が、幾分縮んで見える。
もちろん、その顔は真っ青――いや、もはや真っ黒になっていた。
「学院長様、それぐらいに……。副院長も私たちを思って、指導されたのですから」
「あら……。私としたことが生徒の前ではしたない。……私もまだまだですね。あなたの落ち着きようが羨ましいわ」
アリアンはいつも通りの穏やかな笑顔に戻るのだった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
ジーダとゴンスルの第二の人生に……。
てか、縛り首とかいう可能性も捨てきれないけど。
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