47 / 71
外伝
外伝 露天商店主の災難(前編)
しおりを挟む
唐突ですが、私は王都で露天商を営んでおります。
ムラノと申します。
この道50年、地道に……とは申しませんが、時々事業に手を出して失敗しながら、王都の露天商に落ち着きました。
私の商売は、安物の贋作を売ることです。
贋作といっても、別に悪いことをしてるわけではありません。
銀細工を、銀のメッキや亜鉛に設えたものでコストを抑え、硝子を磨いて宝石の如く輝かせる。
そうやって、指輪やネックレスなど様々なアクセサリーを売っているのでございます。
高級なものは、平民には手が出しにくいですが、これなら平民でも買える。
ご立派に言えば、社会貢献ですな、はっはっはっ……。
客のほとんどが若いカップル、娘さんですな。
そう言えば、先週の安息日に若い学生さんたちが、今日商品を買いに来るからとっておいてくれ、と言っておりましたが、果たして来るでしょうか。
なかなか変わった取り合わせでしたな。
銀髪の、まるでどこぞの王女様のような覇気を纏った少女。
その少女を「あねさん」と慕うエルフの少女。
その少女になんかいじめられてそうな気の弱そうな眼鏡の娘。
随分個性豊かな女の子で、良い目の保養になりましたわい。
特に銀髪の女の子は、きっと将来美人になるでしょう。
「おじさん、こんにちは」
「そうそう。こう銀髪が真っ直ぐ伸びて…………うおおおおおお!」
私は思わずのけ反りました。
そこにあの銀髪の少女が、まるで妖精のように立っていたのです。
「どうした、爺さん? そんなに驚いて」
「だ、大丈夫ですか?」
エルフ少女と、眼鏡の学生が覗き込んでくる。
他の2人も一緒のようです。
「いやいや……。すまないねぇ、ちょうど3人のことを思い出していたものだから。それにしても、お3人さんは仲がいいね」
「え? そう見えますか?」
やけに食いついたのは銀髪の少女だった。
眼をキラキラさせ、顔を真っ赤にしている。
そ、そこまで反応するものだろうか。
最近では珍しいうぶな女の子のようですな。
「あ、ああ……。そう見えるよ」
「ありがとうございます」
ふん、と銀髪の少女は鼻を鳴らし、満足そうな笑みを浮かべた。
「それよりオヤジ。あれ、まだ残っているんだろうな。ルヴルの姐さんがお願いして頼んでいたものを、勝手に売ったりしたら……」
エルフの少女は私に向かって凄みます。
こっちはなんか育ちが悪そうだ。
学院の制服にはあまり詳しくないから、よくわからんが、彼女はおそらくEクラス。
一応貴族の令嬢だと思うが、随分我が侭に育ったんだろ。
「ははは……。大丈夫。ちゃんと取って置いたよ。ほら、この通り」
私は例のネックレスを出す。
月や星を象った銀メッキされた細工の中に、宝石に見立てた硝子玉が輝いている。
私がデザインしたものの中では、よく売れているものだ。
すると、先ほどのエルフの少女がベンベンと私の肩を叩いた。
「よくやった、オヤジ。もしなかったら、命はなかったぞ、あんた」
命がないの!?
お、おっかないなぁ……。
この子、本当に貴族なんだろうか。
マフィアとかじゃないよな。
「それでお代の方なのですが、物と交換というわけには行かないでしょうか?」
とお願いしたのは、眼鏡の少女だった。
「ああ。構わないよ。どんな代物かな」
「これ――なんですけど……。足りますか?」
眼鏡の少女は怖ず怖ずと差し出す。
渡されたのは、独特な色合いの白い香炉だった。
白磁器? いや、違う。
これは石?
いろんな石が混ざり合ったネフライト?
しかし、これほど見事な白は……。
まるで羊の乳のような――。
ハッ――。まさか――――。
幻の羊脂玉か!
思わず心の中で叫んでいました。
実は、私は昔骨董屋をやっておりまして、まあ失敗して今は露天商なんかをやっているのですが、目利きにはそれなりに自信がある方なのです。
恐らく間違いないでしょう。
これは羊脂玉。
王宮の王庫にしかないような珍品中の珍品です。
というか、こんなに大きな羊脂玉……果たして王庫にもあるかどうか。
間違いなく、国宝になる一品です。
※ 後編へ続く
ムラノと申します。
この道50年、地道に……とは申しませんが、時々事業に手を出して失敗しながら、王都の露天商に落ち着きました。
私の商売は、安物の贋作を売ることです。
贋作といっても、別に悪いことをしてるわけではありません。
銀細工を、銀のメッキや亜鉛に設えたものでコストを抑え、硝子を磨いて宝石の如く輝かせる。
そうやって、指輪やネックレスなど様々なアクセサリーを売っているのでございます。
高級なものは、平民には手が出しにくいですが、これなら平民でも買える。
ご立派に言えば、社会貢献ですな、はっはっはっ……。
客のほとんどが若いカップル、娘さんですな。
そう言えば、先週の安息日に若い学生さんたちが、今日商品を買いに来るからとっておいてくれ、と言っておりましたが、果たして来るでしょうか。
なかなか変わった取り合わせでしたな。
銀髪の、まるでどこぞの王女様のような覇気を纏った少女。
その少女を「あねさん」と慕うエルフの少女。
その少女になんかいじめられてそうな気の弱そうな眼鏡の娘。
随分個性豊かな女の子で、良い目の保養になりましたわい。
特に銀髪の女の子は、きっと将来美人になるでしょう。
「おじさん、こんにちは」
「そうそう。こう銀髪が真っ直ぐ伸びて…………うおおおおおお!」
私は思わずのけ反りました。
そこにあの銀髪の少女が、まるで妖精のように立っていたのです。
「どうした、爺さん? そんなに驚いて」
「だ、大丈夫ですか?」
エルフ少女と、眼鏡の学生が覗き込んでくる。
他の2人も一緒のようです。
「いやいや……。すまないねぇ、ちょうど3人のことを思い出していたものだから。それにしても、お3人さんは仲がいいね」
「え? そう見えますか?」
やけに食いついたのは銀髪の少女だった。
眼をキラキラさせ、顔を真っ赤にしている。
そ、そこまで反応するものだろうか。
最近では珍しいうぶな女の子のようですな。
「あ、ああ……。そう見えるよ」
「ありがとうございます」
ふん、と銀髪の少女は鼻を鳴らし、満足そうな笑みを浮かべた。
「それよりオヤジ。あれ、まだ残っているんだろうな。ルヴルの姐さんがお願いして頼んでいたものを、勝手に売ったりしたら……」
エルフの少女は私に向かって凄みます。
こっちはなんか育ちが悪そうだ。
学院の制服にはあまり詳しくないから、よくわからんが、彼女はおそらくEクラス。
一応貴族の令嬢だと思うが、随分我が侭に育ったんだろ。
「ははは……。大丈夫。ちゃんと取って置いたよ。ほら、この通り」
私は例のネックレスを出す。
月や星を象った銀メッキされた細工の中に、宝石に見立てた硝子玉が輝いている。
私がデザインしたものの中では、よく売れているものだ。
すると、先ほどのエルフの少女がベンベンと私の肩を叩いた。
「よくやった、オヤジ。もしなかったら、命はなかったぞ、あんた」
命がないの!?
お、おっかないなぁ……。
この子、本当に貴族なんだろうか。
マフィアとかじゃないよな。
「それでお代の方なのですが、物と交換というわけには行かないでしょうか?」
とお願いしたのは、眼鏡の少女だった。
「ああ。構わないよ。どんな代物かな」
「これ――なんですけど……。足りますか?」
眼鏡の少女は怖ず怖ずと差し出す。
渡されたのは、独特な色合いの白い香炉だった。
白磁器? いや、違う。
これは石?
いろんな石が混ざり合ったネフライト?
しかし、これほど見事な白は……。
まるで羊の乳のような――。
ハッ――。まさか――――。
幻の羊脂玉か!
思わず心の中で叫んでいました。
実は、私は昔骨董屋をやっておりまして、まあ失敗して今は露天商なんかをやっているのですが、目利きにはそれなりに自信がある方なのです。
恐らく間違いないでしょう。
これは羊脂玉。
王宮の王庫にしかないような珍品中の珍品です。
というか、こんなに大きな羊脂玉……果たして王庫にもあるかどうか。
間違いなく、国宝になる一品です。
※ 後編へ続く
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
『「毒草師」と追放された私、実は本当の「浄化の聖女」でした。瘴気の森を開拓して、モフモフのコハクと魔王様と幸せになります。』
とびぃ
ファンタジー
【全体的に修正しました】
アステル王国の伯爵令嬢にして王宮園芸師のエリアーナは、「植物の声を聴く」特別な力で、聖女レティシアの「浄化」の儀式を影から支える重要な役割を担っていた。しかし、その力と才能を妬んだ偽りの聖女レティシアと、彼女に盲信する愚かな王太子殿下によって、エリアーナは「聖女を不快にさせた罪」という理不尽極まりない罪状と「毒草師」の汚名を着せられ、生きては戻れぬ死の地──瘴気の森へと追放されてしまう。
聖域の発見と運命の出会い
絶望の淵で、エリアーナは自らの「植物の力を引き出す」力が、瘴気を無効化する「聖なる盾」となることに気づく。森の中で清浄な小川を見つけ、そこで自らの力と知識を惜しみなく使い、泥だらけの作業着のまま、生きるための小さな「聖域」を作り上げていく。そして、運命はエリアーナに最愛の家族を与える。瘴気の澱みで力尽きていた伝説の聖獣カーバンクルを、彼女の浄化の力と薬草師の知識で救出。エリアーナは、そのモフモフな聖獣にコハクと名付け、最強の相棒を得る。
魔王の渇望、そして求婚へ
最高のざまぁと、深い愛と、モフモフな癒やしが詰まった、大逆転ロマンスファンタジー、堂々開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる