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外伝
外伝 露天商店主の災難(後編)
「おじいさん、大丈夫ですか?」
「脂汗が凄いぞ」
「回復魔術をかけてあげましょう」
こぞって3人の娘たちは心配する。
私は丁重に断りつつも、額についた脂汗を拭った。
問題は何故こんなところに羊脂玉で出来た香炉があるかということだ。
いや、そもそもなんでこんな学生がもっているのだろう。
家から持ってきた?
なら、この子たちの家は相当な金持ちということになる。
それも普通の貴族じゃない。
大公爵、いや王族だって考えられるぞ。
「君たち、こ、この香炉は何でできているのか、わかってるのかい?」
「ネフライトですよね。白いのは珍しいと聞きましたが」
眼鏡の少女が答える。
なかなか博識のようです。
さすが眼鏡をかけているだけはある。
ということは、単純に家から持ち出したということではないということか。
ちゃんと価値をわかってて持ってきたと……。
でも、おかしいじゃないか。
こっちは贋作を3つ。向こうは国宝級の香炉だ。
露店に並んでいる全商品を売り払って、いや市場にある全部の商品をかき集めたところでも足りないぞ。
「あの~~。おじいさん。駄目でしょうか」
「おうおう。ハートリーの姐貴が待ってるんだ。早くしやがれ、じじい」
「駄目なら、駄目と言ってくれればいいんですよ」
「いやいやいや、そういうわけじゃないんだ」
どうしよう……。
意図が全くわからない。
何故、うちに持ってきたんだ。
これなら本物だって…………はっ!
そ、そうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!
この子たち、どうやら私の贋作を見て、本物だと思っているのだろう。
本物だとしても、釣り合いは取れないけど、まあ理解できないわけではない。
あと1つ問題は、学生さんが一体どこからこの香炉を持ってきたのかということだけど。
私は改めて少女たちをしげしげと眺めた。
まるでお伽話から出てきたような銀髪の少女。
それを「姐さん」と慕うエルフの少女。
石の知識もある利発そうな眼鏡の少女。
はっ……。
まさかこの子たちは……。
犯罪集団の家の子どもと、その関係者たちでは……!!
間違いない。
おそらく銀髪の少女の両親が、犯罪集団のボスの娘なのだろう。
エルフの少女はその舎弟。
「姐さん」と慕うのもそれが理由だ。
眼鏡の少女は若いように見えて、やり手の顧問弁護士に違いない。
それなら石の知識を持っているのも頷ける。
私が不当な値段で買い取らないか、見定めているのだ。
そう思うと、あの眼鏡の奥の優しげな笑顔が、どことなく醜悪に思えてきた。
つまりは、こうだろう。
普通のしのぎでは扱えなくなってしまった商品を、私の露店で別のものに換金しようとしているのだ。
な、なんということだ!
私は今、犯罪に手を染めようとしている。
だが、もし私が断ったら、きっと報復が来るだろう。
それにこの羊脂玉の香炉が私の手に渡れば、一応私のものということになる。
うまく捌くことができれば、私は一転大金持ちに……。
はっ! まさかそれが狙い。
私がお金に換金したところで、金を強奪するつもりでは。
おそらく私が元骨董屋で、そっち方面の顔が利くことも折り込みなのだろう。
この取引は詰んでいる。
眼を付けられた時から、取引は済んでいるのだ。
「い、いいでしょう。取引に応じましょう」
「やった!」
「良かったね、ハーちゃん」
「やりましたね、ルヴルの姐さん。ハートリーの姐貴」
「そ、その代わり条件があります」
「ん? 何でしょうか?」
「どうか命だけはとらないで下さい」
私は涙ながらに訴えた。
取引とか、換金とかどうでもいい。
でも、お願いだ。
私はまだ死にたくない。
どうか私の命を助けてくれ。
私の懇願に、銀髪と眼鏡の少女は「何故?」という具合に首を傾げる。
その横でエルフの少女が、バシバシと私の肩を叩いた。
「心配するなって。こんなにルヴルの姐さんが喜んでるんだ。心配すんなって」
さらに私の肩を叩きました。
こうして取引は終わりました。
少女たちは満足そうに帰っていきます。
そして私の前には、白い香炉だけが残っていました。
私は途方に暮れていると、そこに客がやってきます。
よく市場では見かける普通の主婦です。
「綺麗な香炉だねぇ、おじさん。いくら?」
そう聞かれ、私は思わず笑みを浮かべました。
それはもう邪悪な笑みで……。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
次回から本編最終章です。
「脂汗が凄いぞ」
「回復魔術をかけてあげましょう」
こぞって3人の娘たちは心配する。
私は丁重に断りつつも、額についた脂汗を拭った。
問題は何故こんなところに羊脂玉で出来た香炉があるかということだ。
いや、そもそもなんでこんな学生がもっているのだろう。
家から持ってきた?
なら、この子たちの家は相当な金持ちということになる。
それも普通の貴族じゃない。
大公爵、いや王族だって考えられるぞ。
「君たち、こ、この香炉は何でできているのか、わかってるのかい?」
「ネフライトですよね。白いのは珍しいと聞きましたが」
眼鏡の少女が答える。
なかなか博識のようです。
さすが眼鏡をかけているだけはある。
ということは、単純に家から持ち出したということではないということか。
ちゃんと価値をわかってて持ってきたと……。
でも、おかしいじゃないか。
こっちは贋作を3つ。向こうは国宝級の香炉だ。
露店に並んでいる全商品を売り払って、いや市場にある全部の商品をかき集めたところでも足りないぞ。
「あの~~。おじいさん。駄目でしょうか」
「おうおう。ハートリーの姐貴が待ってるんだ。早くしやがれ、じじい」
「駄目なら、駄目と言ってくれればいいんですよ」
「いやいやいや、そういうわけじゃないんだ」
どうしよう……。
意図が全くわからない。
何故、うちに持ってきたんだ。
これなら本物だって…………はっ!
そ、そうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!
この子たち、どうやら私の贋作を見て、本物だと思っているのだろう。
本物だとしても、釣り合いは取れないけど、まあ理解できないわけではない。
あと1つ問題は、学生さんが一体どこからこの香炉を持ってきたのかということだけど。
私は改めて少女たちをしげしげと眺めた。
まるでお伽話から出てきたような銀髪の少女。
それを「姐さん」と慕うエルフの少女。
石の知識もある利発そうな眼鏡の少女。
はっ……。
まさかこの子たちは……。
犯罪集団の家の子どもと、その関係者たちでは……!!
間違いない。
おそらく銀髪の少女の両親が、犯罪集団のボスの娘なのだろう。
エルフの少女はその舎弟。
「姐さん」と慕うのもそれが理由だ。
眼鏡の少女は若いように見えて、やり手の顧問弁護士に違いない。
それなら石の知識を持っているのも頷ける。
私が不当な値段で買い取らないか、見定めているのだ。
そう思うと、あの眼鏡の奥の優しげな笑顔が、どことなく醜悪に思えてきた。
つまりは、こうだろう。
普通のしのぎでは扱えなくなってしまった商品を、私の露店で別のものに換金しようとしているのだ。
な、なんということだ!
私は今、犯罪に手を染めようとしている。
だが、もし私が断ったら、きっと報復が来るだろう。
それにこの羊脂玉の香炉が私の手に渡れば、一応私のものということになる。
うまく捌くことができれば、私は一転大金持ちに……。
はっ! まさかそれが狙い。
私がお金に換金したところで、金を強奪するつもりでは。
おそらく私が元骨董屋で、そっち方面の顔が利くことも折り込みなのだろう。
この取引は詰んでいる。
眼を付けられた時から、取引は済んでいるのだ。
「い、いいでしょう。取引に応じましょう」
「やった!」
「良かったね、ハーちゃん」
「やりましたね、ルヴルの姐さん。ハートリーの姐貴」
「そ、その代わり条件があります」
「ん? 何でしょうか?」
「どうか命だけはとらないで下さい」
私は涙ながらに訴えた。
取引とか、換金とかどうでもいい。
でも、お願いだ。
私はまだ死にたくない。
どうか私の命を助けてくれ。
私の懇願に、銀髪と眼鏡の少女は「何故?」という具合に首を傾げる。
その横でエルフの少女が、バシバシと私の肩を叩いた。
「心配するなって。こんなにルヴルの姐さんが喜んでるんだ。心配すんなって」
さらに私の肩を叩きました。
こうして取引は終わりました。
少女たちは満足そうに帰っていきます。
そして私の前には、白い香炉だけが残っていました。
私は途方に暮れていると、そこに客がやってきます。
よく市場では見かける普通の主婦です。
「綺麗な香炉だねぇ、おじさん。いくら?」
そう聞かれ、私は思わず笑みを浮かべました。
それはもう邪悪な笑みで……。
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次回から本編最終章です。
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