「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

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3章

第33.5話 たとえ王女であろうとも(後編)

「君の言うとおりだ。現在、3人の王族が殺されている。随分と用意周到な殺人鬼らしくてね。だから、僕が直々に迎えに来たのさ」

「聖剣使いとあろうものが、王宮に入った鼠一匹捕まえられないのですか?」

「ハートリー、君の友達は本当に手厳しいね。嫌いじゃないけど……」

「恐れ入ります」

 我はスカートの摘み、澄ました顔で軽く謝罪した。
 自分でも多少語句が荒くなっているのはわかる。
 だが、友達が横で怯えているのを見て、平静でいられるほど我は卓越していない。

「皆、王位継承順位を持つ王子王女ばかりでね。彼らにもプライベートというものがある。たとえ、兄姉であろうとね。すべての時間において、守るのは難しいのだよ」

「殺されたのは、王子王女ばかりなのですか?」

「そうだ。立て続けに3人も王位継承順位者が亡くなった。だから、ハートリーにまで王位継承の可能性が出てきたんだよ」

「わ、わたしは――――」

「君の出生のことは知っている。だが、君には間違いなく王族の血が流れている。これまで君や、君の今の両親に苦労をかけたことは、王族を代表して謝罪しよう。だから、我々の下に来て欲しい」

「でも……」

 ハートリーが進み出ることはなかった。
 その反応を見て、我の頭にさらに血が上る。

「経緯は知りませんが、随分と勝手なお呼び出しなのではないですか?」

「そろそろ部外者は黙ってくれないかな。勇敢な女性は嫌いではないけれど、度が過ぎれば非礼に当たる。そもそも一学生が王族と対等に話していること自体、恐れ多いというのに」

 おのれ!
 ここで身分の違いを見せつけるか。
 うつけが!
 お前の方こそ、我の前で命あることを喜ぶがいい。
 聖剣使いだか王子だか知らないが、本気になった我の前では、1秒すらもたぬ雑草風情が……。

 こうなれば、実力でわからせてやろうか。

「やめて下さい……」

 凛と響いたのは、ハートリーの声だった。

 一触即発の空気を察したのか。
 ユーリと我の前に進み出る。

「ルーちゃんも、ここは抑えて。ね?」

 ハートリーは笑顔を浮かべる。
 それが無理やりであることは、ずっと見てきた我にはすぐにわかった。

 前を向いたハートリーは、ユーリを見つめ、決断した。

「行きます」

 そう言うと、ユーリの顔が一変し、最初に見た笑顔に戻る。

「そうか。それは良かった。僕も嬉しいよ。新しい家族を迎えられることを。大丈夫。君のことは僕が守ってみせるから」

「あの……。その前に、今のヽヽ両親に挨拶だけ」

「その必要はないよ。すでに王族の関係者が説得しているはずだ。それに君の今のヽヽ両親は、この国の頂点にいる人だよ」

「――――ッ!」

 ハートリーが息を呑むのがわかった。
 両手を組んだ手が微かに震えている。

「まあ、いい。君が望むのであれば、こちらへ」

 ユーリの手を掴まれると、まるで風船にでもなったかのようにハートリーはそのまま手を引かれ、馬車へと誘われる。

「ハーちゃん!」

 我もまた手を伸ばした。

 だが――――。

「ルヴルの姐さん、そこまでです」

 突然現れたネレムに羽交い締めにさせられる。

「ネレム! 何をするのですか?」

「事情はわかりません。で、でもここは堪えてください。あれは王族の王章が付いてる客車です。それに逆らったら、お家が潰されちゃいますよ。アレンティリ家が、姐さんの両親が路頭に迷ってもいいんですか?」

 マリルと、ターザムが……。
 アレンティリ家が……。

「王族ってのは、それぐらい権力を持ってるんです。ここは抑えてください」

「ジャアクが王族に逆らってる?」
「ついにジャアクが王族に反旗を翻した?」
「マジかよ?」
「叛逆者ってことか。やはりジャアクだ」

 登校する生徒の陰口が聞こえる。

 その間にも、ハートリーは馬車に乗り込んでいた。

「ハーちゃん!」

 我の声にハートリーが反応する。
 ちらりと我に向ける眼に、涙が滲んでいるように見えた。
 それでも、ハートリーは馬車を降りようとしない。

 そのまま馬車は発車し、走り去っていった。
 遠ざかっていく車輪と蹄の音を聞きながら、我は拳を握り込む。

「ルヴルの姐さん。事情はわかりませんけど、すみません」

「いいのです。ネレムの行動は、私と私の両親を慮ってくれたこと。咎めません」

「あ、ありがとうございます。……し、しかし、ハートリーの姐貴に一体何が?」

「行かねばなりません……」

「え? どこへ?」

 ハートリーは泣いていた。
 我はあの涙を癒さなければならない。
 我ももう魔王ではない。
 アレンティリ家の娘で、聖女である。

 そして、ハートリーは我の友人だ。

 その者が泣いていた。
 きっとどこか痛いと思っているに違いない。
 故に我は癒さなければならない。

 未熟であろうとも、友の傷は我が癒す。

 いや、癒してみせなければならないのだ。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

というわけで、最終章はハートリーを取り戻せです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
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