「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

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3章

第34.5話 友達の部屋(後編)


 ハートリーが王族の血を引いていることは、間違いない事実であった。
 どうやら国王が侍女と一夜の過ちを犯し、侍女は子を身ごもったことに気付いたが、国王には隠していた。
 その国王の耳に入った時には、侍女のお腹は大きくなっており、結果王宮を出入りしていた御用商人であったハートリーの父親が、侍女と子を預かる形で、下町でひっそり商売をしながら、3人で暮らしていたという。

「なんで? 王都の下町に? 風聞を避けるなら遠くの街に逃げればいい。御用商人ならお金もあったはずなのに」

「王都から離れれば、その血を使って良からぬことを企む者が現れるかも知れません。手元に置いて、監視をしたかったのでしょう。事実、ハーちゃんの母親にはそういう節があったようですね」

「ああ……。君の言う通りだよ」

 ハートリーの母親は王宮から追放されても、娘に王家の血筋が流れていることを隠さなかったそうだ。
 そしていつか王宮に戻る日のために、自分が見聞きした作法や教養をハートリーに身につけさせた。

 ハートリーに宝石の知識があったのは、その教育の賜物であったのだろう。

 だが、そのハートリーの母親も3年前に他の男と駆け落ち。
 3日後、酔って冬の冷たい川に飛び込んだ際、そのままショック死したらしい。
 以来、ハートリーは血の繋がらない父親と一緒に、この家で暮らしていたという訳だ。

「そして、奇しくも母親の言う通りになってしまったか……」

「お父様、その頬は?」

「ハートリーが連れていかれる時にちょっとね」

 父親の頬には殴られたような痕があった。
 本意ではなかったのだろう。
 血を分けていなくても、ハートリーの父親は娘を守ろうとしたのだ。

 話を聞いて、ネレムは首を捻る。

「王宮に連れて行かれた理由は、やはり後継者が殺害されたことによるみたいですね。王様の落胤に頼らなければならないほど、王族が殺されているのか。それとも、それほど混乱しているのか……」

「あのハーちゃんの部屋を覗いてもいいですか?」

「構わないよ。何かほしいものがあれば、持っていくといい」

 父親の許可をもらい、我は家の奥へと向かう。
 細く、踏むと奇妙な音が鳴る木の廊下を進む。
 まるで導かれるように我は、部屋に辿り着いた。

「ハーちゃんの匂いがする……」

 ハートリーの部屋はきちん清掃され、整っている。
 普段からきちんと片づけているのか。
 それとも出ていく前に掃除をしたのか。
 いずれにしても、ハートリーらしい感じがした。

 入ってすぐ横にある本棚には、本が並んでいた。
 聖クランソニア学院の教本に加え、ハートリーが好きな演劇の写本が並んでいる。
 さらに数枚のプロマイドが挟まれていた。
 よっぽど好きなのだろう。

 医学や薬学の本も多い。
 どうやら回復魔術以外にも、治療方法を勉強していたようだ。

「姐さん? 何か見つけましたか?」

「いえ。ただ……何も見つけられないのが少し問題かな、と」

「それは??」

 クローゼットには聖クランソニア学院の制服がかけられている。
 きっちりと糊付けされていた。

 部屋は整っているが、何か寂しい印象を持たせる。
 小物が少ないというのもあるが、ここでハートリーが日々過ごしていたのかと思うと、胸が詰まるような思いがした。

「ハートリーの姐貴、自分の運命を受け入れてしまったんですかね。もう、あたいたちは友達じゃなくなるんでしょうか……」

「そんなことはありません、ネレム」

 我は首から提げたネックレスを握る。
 ネレムとともに、3人でお揃いにしたあのネックレスだ。

「会いに行きましょう、ネレム」

「はい? 会いにって、まさかハートリーの姐貴のところへ。いや、さすがに無茶ですよ。今、ハートリーの姐貴は王宮にいるんですよ」

「ネレム、我をヽヽ誰だと思っている?」

 我の声に、ネレムは反射的に縮こまる。
 怯えたネレムの瞳に映っていたのは、悪魔的な笑みを浮かべた我だった。

 ふふ……。

 そうだ。
 我は大魔王ルヴルヴィム。
 剣術、槍術、拳闘、魔術――あらゆる術理を収めた至高の存在。
 畏怖の象徴。

 そして……。

「ハーちゃんのお友達……。友達に会いに行くのに、身分も年も関係ありませんわ」

 待っててね、ハーちゃん。
 今、会いに行きます。


 ◆◇◆◇◆  ハートリー Side  ◆◇◆◇◆


 ハートリーはふと空を見上げた。
 王宮のテラス。
 貧乏商家では着ることなど叶わなかったほんのりと淡いピンクのドレスを着た少女は、満天の星空を望んだ。

 ルヴルの声が聞こえたような気がしたのだ。

「夜風は身体に悪いよ、ハートリー」

 振り返ると、ユーリが立っていた。
 特徴的なワインレッドの瞳は、夜になっても輝いて見える。
 まだ慣れないハートリーは、反射的に構えてしまった。

 その様を見て、ユーリは鼻を鳴らす。

「失礼。驚かせたかな。だけど、外は危ないよ。いつ殺人鬼が君に凶刃を向けるかわからないからね」

「……わかりました」

 ハートリーは素直に言うことを聞く。
 その胸に、かつて露店で買ったネックレスが輝いていた。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

今、会いに行きます(魔王が)。
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