「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

文字の大きさ
56 / 71
3章

第36.5話 魔王と国王(後編)

「一先ず国王様に謁見しましょう。先に国王にお目通りしておけば、ルヴル君の企みヽヽヽヽヽヽヽはうまく行くかと」

「将軍?」

 ゴッズバルドには推薦をしてもらうだけで、ハートリーのことは何も話していない。
 なのに――――。

「子爵の令嬢が持参金を持って、我が家の扉をノックするなど早々あることではありません。何か切迫した事情があると見ました。違いますかな?」

 なるほど。
 どうやら我はゴッズバルドを侮っていたようだ。

「どうやらお見通しだったようですね」

「これでも長く兵役に就いておりましたからな。近衛にもおりました。そこで後宮に向かう令嬢を何度も見送ってきましたが、あなたような表情をした娘はいませんでした」

「私のような表情とは、どんな顔なのでしょうか?」

「そうですな。……実に、悪いヽヽ顔です」

 ゴッズバルドは不敵に微笑む。

 我は思わず息を詰まらせた。
 くくく……。ゴッズバルドはなかなかの快男児のようだ。
 この者がもう少し若ければ、斬り結んでみたかった。
 実に楽しい殺し合いヽヽヽヽになったであろう。

「私が学院でなんと呼ばれているか知っていますか?」

「それは――――」

「ジャアクと呼ばれているのです」

「ならば……」

「そろそろ流儀に従いましょう。実に不本意ではありますが……」

 ここからは邪悪に行こう。


 ◆◇◆◇◆


「よく来てくれた、ゴッズバルド」

 手を叩いたのは、白髭に恰幅の良い男だった。
 厚手マントを羽織り、頭には王冠が輝いている。
 つるりとした餅のような肌に、人の良さそうな顔が輝いていた。

 玉座に腰掛ける男に向かって、我らは慣習に習い、拝跪している。

 リュクレヒト・マインズ・セレブリヤ。

 正真正銘のセレブリヤ王国国王である。

 リュクレヒトは伝説の英雄の登場に、目を輝かせる。
 側に座ったレナーン王妃も喜び、「よくぞ来てくれました」とやや冴えないながら、目一杯ゴッズバルドの歓迎する。

「しばらく王宮を空けてしまい申し訳ありません、陛下」

「良い良い! そなたが来てくれれば、百人、いや千人力だ。合力するために、来てくれたのであろう?」

「無論です。……しかし、ご子息のことは残念でした」

 そこまで快活に喋っていた国王だが、王位継承者の話になると、途端顔を曇らせた。
 側にいる王妃はさらに顕著だ。
 顔を青ざめ、今にも涙を流さんばかりに目を細めている。

 やはり子どもを失ったことに心を痛めているのだろう。
 レナーン王妃が産んだのは、長兄――つまり第一王位継承者はまだ生きているようだが、腹違いとはいえ、それでも子どもたちが死ぬことに心を痛めぬわけにもいかないと見える。

 リュクレヒトにしても、血色が悪いように見えた。

「うむ。第二王子マルクト、第三王女プリムラ、第四王子ロウゼン……こう立て続けに子どもを亡くしてはな。父親失格――――国王失格だ。子どもすら守れぬのだから」

 リュクレヒトは肩を落とした。
 そこに王妃が寄り添う。
 互いに身を寄せ、慰め合った。

 いずれにしろ。
 貴族はともかくとして、王も王妃も人となりは悪くなさそうだが……。
 これが演技というなら、相当な役者であろう。

 それに夫婦も円満。
 それが何故、侍女に手をかけたのだろうか。
 第一印象としては、あまり繋がらぬのが気になる。

 さすがに質問するわけにもいかないし。
 悪いことをするのだからこそ、慎重にならねば……。

「して……。その後ろの娘は?」

 ようやく我の話に及んだので、我は立ち上がって挨拶した。

「アレンティリ家の娘ルヴル・キル・アレンティリと申します。以後お見知りおきを」

「アレンティリ家? はて? 聞いたことがないぞ」

「まあ、可愛い……。まるでお人形のようだわ」

「ありがとうございます、王妃様」

 我は礼を述べる。

「彼女らはこう見えて、聖クランソニア学院の優秀な学生です。ひとまずハートリー王女の護衛兼側付きに任じてはいかがかと思い、連れてきました。年も同じ故、話相手もちょうど良いかと」

「おお! それは助かる。気が利くな、ゴッズバルドは」

「恐れ入ります」

「あの子は3日前に来たばかりなの。きっと心細い想いをしているはずだわ。よろしくね、ルヴルさん」

 王妃は心配そうに眉を八の字にする。

「はい。精一杯務めさせていただきます」

 我は今一度頭を下げる。
 ふと横を見ると、ゴッズバルドが小さく親指を立てていた。
 我は不敵な笑みを浮かべる。

 ここまでは打ち合わせ通り。

 今会いに行くからな、ハーちゃん!


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

今会いに行きます!
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。