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3章
第36.5話 魔王と国王(後編)
「一先ず国王様に謁見しましょう。先に国王にお目通りしておけば、ルヴル君の企みはうまく行くかと」
「将軍?」
ゴッズバルドには推薦をしてもらうだけで、ハートリーのことは何も話していない。
なのに――――。
「子爵の令嬢が持参金を持って、我が家の扉をノックするなど早々あることではありません。何か切迫した事情があると見ました。違いますかな?」
なるほど。
どうやら我はゴッズバルドを侮っていたようだ。
「どうやらお見通しだったようですね」
「これでも長く兵役に就いておりましたからな。近衛にもおりました。そこで後宮に向かう令嬢を何度も見送ってきましたが、あなたような表情をした娘はいませんでした」
「私のような表情とは、どんな顔なのでしょうか?」
「そうですな。……実に、悪い顔です」
ゴッズバルドは不敵に微笑む。
我は思わず息を詰まらせた。
くくく……。ゴッズバルドはなかなかの快男児のようだ。
この者がもう少し若ければ、斬り結んでみたかった。
実に楽しい殺し合いになったであろう。
「私が学院でなんと呼ばれているか知っていますか?」
「それは――――」
「ジャアクと呼ばれているのです」
「ならば……」
「そろそろ流儀に従いましょう。実に不本意ではありますが……」
ここからは邪悪に行こう。
◆◇◆◇◆
「よく来てくれた、ゴッズバルド」
手を叩いたのは、白髭に恰幅の良い男だった。
厚手マントを羽織り、頭には王冠が輝いている。
つるりとした餅のような肌に、人の良さそうな顔が輝いていた。
玉座に腰掛ける男に向かって、我らは慣習に習い、拝跪している。
リュクレヒト・マインズ・セレブリヤ。
正真正銘のセレブリヤ王国国王である。
リュクレヒトは伝説の英雄の登場に、目を輝かせる。
側に座ったレナーン王妃も喜び、「よくぞ来てくれました」とやや冴えないながら、目一杯ゴッズバルドの歓迎する。
「しばらく王宮を空けてしまい申し訳ありません、陛下」
「良い良い! そなたが来てくれれば、百人、いや千人力だ。合力するために、来てくれたのであろう?」
「無論です。……しかし、ご子息のことは残念でした」
そこまで快活に喋っていた国王だが、王位継承者の話になると、途端顔を曇らせた。
側にいる王妃はさらに顕著だ。
顔を青ざめ、今にも涙を流さんばかりに目を細めている。
やはり子どもを失ったことに心を痛めているのだろう。
レナーン王妃が産んだのは、長兄――つまり第一王位継承者はまだ生きているようだが、腹違いとはいえ、それでも子どもたちが死ぬことに心を痛めぬわけにもいかないと見える。
リュクレヒトにしても、血色が悪いように見えた。
「うむ。第二王子マルクト、第三王女プリムラ、第四王子ロウゼン……こう立て続けに子どもを亡くしてはな。父親失格――――国王失格だ。子どもすら守れぬのだから」
リュクレヒトは肩を落とした。
そこに王妃が寄り添う。
互いに身を寄せ、慰め合った。
いずれにしろ。
貴族はともかくとして、王も王妃も人となりは悪くなさそうだが……。
これが演技というなら、相当な役者であろう。
それに夫婦も円満。
それが何故、侍女に手をかけたのだろうか。
第一印象としては、あまり繋がらぬのが気になる。
さすがに質問するわけにもいかないし。
悪いことをするのだからこそ、慎重にならねば……。
「して……。その後ろの娘は?」
ようやく我の話に及んだので、我は立ち上がって挨拶した。
「アレンティリ家の娘ルヴル・キル・アレンティリと申します。以後お見知りおきを」
「アレンティリ家? はて? 聞いたことがないぞ」
「まあ、可愛い……。まるでお人形のようだわ」
「ありがとうございます、王妃様」
我は礼を述べる。
「彼女らはこう見えて、聖クランソニア学院の優秀な学生です。ひとまずハートリー王女の護衛兼側付きに任じてはいかがかと思い、連れてきました。年も同じ故、話相手もちょうど良いかと」
「おお! それは助かる。気が利くな、ゴッズバルドは」
「恐れ入ります」
「あの子は3日前に来たばかりなの。きっと心細い想いをしているはずだわ。よろしくね、ルヴルさん」
王妃は心配そうに眉を八の字にする。
「はい。精一杯務めさせていただきます」
我は今一度頭を下げる。
ふと横を見ると、ゴッズバルドが小さく親指を立てていた。
我は不敵な笑みを浮かべる。
ここまでは打ち合わせ通り。
今会いに行くからな、ハーちゃん!
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
今会いに行きます!
「将軍?」
ゴッズバルドには推薦をしてもらうだけで、ハートリーのことは何も話していない。
なのに――――。
「子爵の令嬢が持参金を持って、我が家の扉をノックするなど早々あることではありません。何か切迫した事情があると見ました。違いますかな?」
なるほど。
どうやら我はゴッズバルドを侮っていたようだ。
「どうやらお見通しだったようですね」
「これでも長く兵役に就いておりましたからな。近衛にもおりました。そこで後宮に向かう令嬢を何度も見送ってきましたが、あなたような表情をした娘はいませんでした」
「私のような表情とは、どんな顔なのでしょうか?」
「そうですな。……実に、悪い顔です」
ゴッズバルドは不敵に微笑む。
我は思わず息を詰まらせた。
くくく……。ゴッズバルドはなかなかの快男児のようだ。
この者がもう少し若ければ、斬り結んでみたかった。
実に楽しい殺し合いになったであろう。
「私が学院でなんと呼ばれているか知っていますか?」
「それは――――」
「ジャアクと呼ばれているのです」
「ならば……」
「そろそろ流儀に従いましょう。実に不本意ではありますが……」
ここからは邪悪に行こう。
◆◇◆◇◆
「よく来てくれた、ゴッズバルド」
手を叩いたのは、白髭に恰幅の良い男だった。
厚手マントを羽織り、頭には王冠が輝いている。
つるりとした餅のような肌に、人の良さそうな顔が輝いていた。
玉座に腰掛ける男に向かって、我らは慣習に習い、拝跪している。
リュクレヒト・マインズ・セレブリヤ。
正真正銘のセレブリヤ王国国王である。
リュクレヒトは伝説の英雄の登場に、目を輝かせる。
側に座ったレナーン王妃も喜び、「よくぞ来てくれました」とやや冴えないながら、目一杯ゴッズバルドの歓迎する。
「しばらく王宮を空けてしまい申し訳ありません、陛下」
「良い良い! そなたが来てくれれば、百人、いや千人力だ。合力するために、来てくれたのであろう?」
「無論です。……しかし、ご子息のことは残念でした」
そこまで快活に喋っていた国王だが、王位継承者の話になると、途端顔を曇らせた。
側にいる王妃はさらに顕著だ。
顔を青ざめ、今にも涙を流さんばかりに目を細めている。
やはり子どもを失ったことに心を痛めているのだろう。
レナーン王妃が産んだのは、長兄――つまり第一王位継承者はまだ生きているようだが、腹違いとはいえ、それでも子どもたちが死ぬことに心を痛めぬわけにもいかないと見える。
リュクレヒトにしても、血色が悪いように見えた。
「うむ。第二王子マルクト、第三王女プリムラ、第四王子ロウゼン……こう立て続けに子どもを亡くしてはな。父親失格――――国王失格だ。子どもすら守れぬのだから」
リュクレヒトは肩を落とした。
そこに王妃が寄り添う。
互いに身を寄せ、慰め合った。
いずれにしろ。
貴族はともかくとして、王も王妃も人となりは悪くなさそうだが……。
これが演技というなら、相当な役者であろう。
それに夫婦も円満。
それが何故、侍女に手をかけたのだろうか。
第一印象としては、あまり繋がらぬのが気になる。
さすがに質問するわけにもいかないし。
悪いことをするのだからこそ、慎重にならねば……。
「して……。その後ろの娘は?」
ようやく我の話に及んだので、我は立ち上がって挨拶した。
「アレンティリ家の娘ルヴル・キル・アレンティリと申します。以後お見知りおきを」
「アレンティリ家? はて? 聞いたことがないぞ」
「まあ、可愛い……。まるでお人形のようだわ」
「ありがとうございます、王妃様」
我は礼を述べる。
「彼女らはこう見えて、聖クランソニア学院の優秀な学生です。ひとまずハートリー王女の護衛兼側付きに任じてはいかがかと思い、連れてきました。年も同じ故、話相手もちょうど良いかと」
「おお! それは助かる。気が利くな、ゴッズバルドは」
「恐れ入ります」
「あの子は3日前に来たばかりなの。きっと心細い想いをしているはずだわ。よろしくね、ルヴルさん」
王妃は心配そうに眉を八の字にする。
「はい。精一杯務めさせていただきます」
我は今一度頭を下げる。
ふと横を見ると、ゴッズバルドが小さく親指を立てていた。
我は不敵な笑みを浮かべる。
ここまでは打ち合わせ通り。
今会いに行くからな、ハーちゃん!
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今会いに行きます!
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