「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

文字の大きさ
60 / 71
3章

第39.5話 さあ、回復してやろう(後編)

しおりを挟む
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」

 嵐の中に響き渡ったのは、汚らわしい魔族の悲鳴であった。
 鮮血が飛び散る。
 魂は魔族だが、肉体は人間だけあって、その血の色は赤い。
 冷たい石畳みにドロリとこぼれ落ち、ユーリもまた傷を抑えて蹲った。

「馬、鹿……な……」

 今起こった事実を拒否するように、ユーリは我を睨む。

 我は肩を竦めた。
 大したことはしていない。
 以前戦ったミカギリの時と同じだ。
 刃の方向を変えて、その相手を斬るようにすればいい。

「デタラメ過ぎる……。そもそも剣相手に何故、あなたは剣を持たない」

「必要ないからだ。剣を持てば、剣で受けなければならなくなる。腕や足、あるいは己の肉体があるのにどうして必要か。剣は相手の1本で十分なのだ」

「それがデタラメだと……」

「その言葉一言で片付けてしまうからこそ、お前は未熟なのだ、ユーリ。鍛錬を500年程続けていれば、自ずと開眼する境地よ」

「ご、500年……」

「そら……。ところで大魔王と相対するのだ。我に対する対策。よもや聖剣なまくらだけではなかろう。そろそろ全力を出せ、ユーリ。我がその道筋を作ってやる」


 さあ、回復してやろう……。


 我はユーリを回復させる。
 聖剣を返され、出来た深傷はみるみる治っていく。
 それどころか、ユーリの身体は肥大化を始めた。
 あの優しい顔こそなくなったが、魔力は充実し、筋力が100倍以上になる。

 纏っていた服を突き破り、力の塊となったユーリは笑った。

「ぐぺぺぺぺぺ! 素晴らしい! なんだこの力は! 溢れる! 力が溢れるぞぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」

 ユーリは夜天に叫ぶ。

「魔族に回復魔術を……」

 ゴッズバルドが驚く。
 横でネレムも目を大きく開いていた。

「ちょ! さすがに姐さん! 魔族に回復魔術は……。(いや、もしかしてこれがルヴルの姐さんの本性なのかも)」

「ば、化け物だ!!」
「ゆ、ユーリ様が……」
「一体何があったんだ?」
「やばいぞ。こんなのにオレ達は勝てるのかよ」

 近衛たちも右往左往して、化け物となったユーリに戦く。

「落ち着いてください!!」

 狼狽する皆を諫めたのは、ハートリーだった。

「大丈夫です! ルーちゃんは勝ちます!!」

 確信し、我を見つめる。
 そのエールを我は背に受けて、今一度ユーリに向かって歩みを進めた。

 今、我はどんな顔をしているのだろう。
 おそらく不敵に笑っているであろうが、それはどちらヽヽヽであろうか。
 聖女のように微笑んでいるのか。
 悪魔のようにジャアクヽヽヽヽな笑みを浮かべているであろうか。

 どちらでもいい。

 今なら確信できる。
 我は今、最高の回復魔術を使用できたと……。

 ユーリからあふれ出る強者感を察し、我はついに相対した。

「全力でかかってくるがいい、ユーリよ」

「死ね!! 大魔王ルヴルヴィムゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!!」

 ユーリは叫ぶ。
 聖剣を投げ出し、己の拳を持って必殺の一撃を放とうとする。
 良い判断だ。
 最後に信じられるのは、己の肉体よ。

 ユーリの拳と我の拳が交差する。

 だが、速さと威力で圧倒したのは、我の方だった。


「ぶげらっ!!」


 ユーリの顔が歪む。
 そのまま地面に埋まった。

 一撃必倒…………だった。

「あれ?」

 こんなはずでは……。
 おかしい。
 こやつは魔族。
 確かに鍛錬もせずに怠けていたようだが……。

 だが、それでも弱すぎないか?

 いや、違う。それを判断するのは早計だ。

 おそらく我の回復魔術がやはり完全ではなかったのだろう。

「未熟……。我はまだまだ未熟だ!」

 我は天に向かって吠える。
 すると、地面に埋まったユーリを引き揚げた。
 すでに気絶するヤツの頬を張る。

「ユーリ! もう1回だ! もう1回、我にチャンスをくれ! 起きろ! おい、こら! 寝ている場合ではないぞぉぉぉぉぉおぉおおおおお!!」




【ネレムの場合】
 や、やべー。
 気絶してる相手にさらに追い打ち。
 しかも、未熟?
 何度か聞いているけど、あたいはずっと姐さん自身が反省しているのだと思っていた。

 だが、今日わかった。
 違うんだ。
 あれは倒れた相手に対する罵倒。
 倒した相手に、未熟者と罵っているんだろう。

 倒した相手を讃える(化け物だし讃える必要なんてねぇけど)こともなく、戦の熱が冷めやらぬ中で、相手を罵倒するなんて。

 やはりルヴルの姐さんは徹底している。
 どんな時も、どんな状況でも、ジャアクだ。



【ゴッズバルドの場合】
 なんというストイック。
 敵を圧倒した後でも、己の未熟さを反省するその姿勢。
 惜しいな……。
 鍛え上げれば、素晴らしい聖騎士になるというのに……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

『「毒草師」と追放された私、実は本当の「浄化の聖女」でした。瘴気の森を開拓して、モフモフのコハクと魔王様と幸せになります。』

とびぃ
ファンタジー
【全体的に修正しました】 アステル王国の伯爵令嬢にして王宮園芸師のエリアーナは、「植物の声を聴く」特別な力で、聖女レティシアの「浄化」の儀式を影から支える重要な役割を担っていた。しかし、その力と才能を妬んだ偽りの聖女レティシアと、彼女に盲信する愚かな王太子殿下によって、エリアーナは「聖女を不快にさせた罪」という理不尽極まりない罪状と「毒草師」の汚名を着せられ、生きては戻れぬ死の地──瘴気の森へと追放されてしまう。 聖域の発見と運命の出会い 絶望の淵で、エリアーナは自らの「植物の力を引き出す」力が、瘴気を無効化する「聖なる盾」となることに気づく。森の中で清浄な小川を見つけ、そこで自らの力と知識を惜しみなく使い、泥だらけの作業着のまま、生きるための小さな「聖域」を作り上げていく。そして、運命はエリアーナに最愛の家族を与える。瘴気の澱みで力尽きていた伝説の聖獣カーバンクルを、彼女の浄化の力と薬草師の知識で救出。エリアーナは、そのモフモフな聖獣にコハクと名付け、最強の相棒を得る。 魔王の渇望、そして求婚へ 最高のざまぁと、深い愛と、モフモフな癒やしが詰まった、大逆転ロマンスファンタジー、堂々開幕!

処理中です...