68 / 71
3章
第46話 復活のM(魔族)
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
ネレムは声を荒らげる。
横のハートリーも困惑していた。
困惑していたのは我も同じだ。
はい? と首を傾げてしまった。
動揺していないのはヴァラグだけだ。
だが、こいつは魔族の中でも堅物だ。
我が仕置きした時以外、頬の筋肉1つ動かしたことがない。
石の仮面でも被っているのではないかと思ったほどだ。
「なんですか、ネレム?」
「ルヴルの姐さん、言ったじゃないですか? 魔族は倒した、と」
「うんうん」
ハートリーも激しく首を振って同調した。
「倒したとは言いましたが、殺したとは言ってませんよ」
「「え?」」
ハートリーとネレムは声を合わせる。
2人ともいつの間にそんなに仲が良くなったのだ?
我がいない3日間の間に一体何があったのだろうか。
さて、魔族は生きている。
むろん死を望む者にはくれてやったが、全体の1割にも満たぬ。
そもそも魔族となった者の中には、普通に人間社会に溶け込み生きている者もいた。
人間と子を成している例も、珍しくはない。
我が転生してから、1000年近く経っているのだ。
その間、自然と人間社会になれていったのだろう。
そもそもユーリのように野心を燃やした過激な魔族は少なかった。
王都で暴れていた不埒者ぐらいだ。
あの騒ぎだって、魔族に紛れて、王政への不満がある人間が暴れている姿が散見された。
こうなって見ると、人間も魔族も変わらぬような気がする。
「そ、そうだったんだ」
「なんか、ちょっと複雑な気分ですね」
我から事情を聞いたハートリーとネレムは、複雑な表情を浮かべた。
結局、業の深さでは人間も魔族に負けていなかったと知ったのだ。
ハートリーたちとしては、胸中穏やかではないものであろう。
「でも、ルーちゃん偉いよ。魔族の人たちを更正する道を選ぶなんて。わたしがルーちゃんの立場ならきっと……」
「ハーちゃんでも、同じ選択したと思いますよ」
「え?」
「だって、私たちは聖女候補生ですよ。人を癒やすのが私たちの使命ではありませんか? それがたとえ、魔族であったとしても……」
「あ……」
我は聖クランソニア学院で学んだ理念を実践したに過ぎない。
報いなく、人の身体と心を癒やすのが、我ら聖女の役目であるからな。
「さすがルヴルの姐さんっす! あたい、感動したっす」
「うん。本当に凄いよ、ルーちゃんは。もう立派な聖女様だよ」
褒め言葉としては嬉しいが、まだまだ我は未熟だ。
今だに回復魔術の深奥を掴めていない。
いくつかの魔族と戦ったが、こいつらの圧倒的弱さを治すことはできなかった。
一体、いつになったら我は回復魔術を極めることができるのだろうか……。
「あの……。ルヴル様」
ヴァラグが声をかける。
そう言えばいるのを忘れていた。
なんかこやつ、魔族の中でも一際影が薄いのだ。
もっと派手な恰好をさせて、アピールしてはどうだろうか。
「ごめんなさい。別にヴァラグを忘れていたわけではないですよ」
「?」
「こっちの話です。まだ時間があるので、もう少し鍛錬をしようかと戻ってきました」
「左様でしたか。こちらのご学友も鍛錬に参加を?」
「とととと、とんでもない」
「ち、違います!」
ハートリーとネレムは全力で首を振った。
そこまで激しく拒否することはなかろうに。
「2人は見学です。構いませんね、ヴァラグ」
「ええ……。では、こちらに……」
ヴァラグは、前に進むように案内する。
一見、だだっ広い土地が広がるだけだ。
何か施設があるわけでもなく、誰かがいるわけでもない。
だが、ある場所から半歩踏み込んだ瞬間、景色ががらりと変わった。
「応!」
裂帛の気合いが耳朶を打つ。
その声にも驚かされ、ハートリーとネレムは仰け反る。
そして目の前に広がる光景を見て、瞠目した。
一見平原と思われたそこに現れたのは、峻険な山であった。
その狭い足場の中で、男女問わず鍛錬に明け暮れている。
ある者は大きな甕に並々と注がれた水を担いで山を登り、ある者は肩、肘、手、膝に水が入った皿を落とさずに中腰の姿勢をキープ、ある者は谷に宙づりにされたまま逆さ腹筋、指先に魔力を集中させて針の上で逆立ちしている者もいた。
それぞれの額や身体に汗が滲んでいる。
それどころか歯茎から血を滲ませていた者もいた。
漂ってくる汗の臭いは、きつい鍛錬の証だ。
「る、ルーちゃん……」
「なんですか、ハーちゃん?」
「もしかして、この人たちみんな…………」
「ええ。魔族ですよ」
我は笑顔で答えた。
ん? なんでハートリーもネレムも、顔を青ざめさせているのだ。
「ざっと3000、いや5000人以上いるように見えますけど」
今度はネレムが口を開く。
「そうですね」
「(国の一個師団に相当するじゃないか!? ルヴルの姐さん、何を考えているんだ? まさかこの魔族を持って、国に対して反旗を? 魔族の独立とか? 口では癒やすとか言ってて、裏では魔族を束ねて着々と反抗勢力をまとめるなんて。さ、さすがはルヴルの姐さんだ……)」
「ネレム? 何か言いましたか?」
「いえ! なんでもありません! ルヴルの姐さん、一生付いていきます!!」
なんかネレムが思い違いをしてそうな気がするが、まあ良いか。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
ネレムのルヴル像がまた大きくなっていく……。
本日は、拙作『叛逆のヴァロウ』のコミカライズの更新日となっています。
ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカなどで読むことができます。
12月15日に発売されるコミックともども、こちらもよろしくお願いします。
ネレムは声を荒らげる。
横のハートリーも困惑していた。
困惑していたのは我も同じだ。
はい? と首を傾げてしまった。
動揺していないのはヴァラグだけだ。
だが、こいつは魔族の中でも堅物だ。
我が仕置きした時以外、頬の筋肉1つ動かしたことがない。
石の仮面でも被っているのではないかと思ったほどだ。
「なんですか、ネレム?」
「ルヴルの姐さん、言ったじゃないですか? 魔族は倒した、と」
「うんうん」
ハートリーも激しく首を振って同調した。
「倒したとは言いましたが、殺したとは言ってませんよ」
「「え?」」
ハートリーとネレムは声を合わせる。
2人ともいつの間にそんなに仲が良くなったのだ?
我がいない3日間の間に一体何があったのだろうか。
さて、魔族は生きている。
むろん死を望む者にはくれてやったが、全体の1割にも満たぬ。
そもそも魔族となった者の中には、普通に人間社会に溶け込み生きている者もいた。
人間と子を成している例も、珍しくはない。
我が転生してから、1000年近く経っているのだ。
その間、自然と人間社会になれていったのだろう。
そもそもユーリのように野心を燃やした過激な魔族は少なかった。
王都で暴れていた不埒者ぐらいだ。
あの騒ぎだって、魔族に紛れて、王政への不満がある人間が暴れている姿が散見された。
こうなって見ると、人間も魔族も変わらぬような気がする。
「そ、そうだったんだ」
「なんか、ちょっと複雑な気分ですね」
我から事情を聞いたハートリーとネレムは、複雑な表情を浮かべた。
結局、業の深さでは人間も魔族に負けていなかったと知ったのだ。
ハートリーたちとしては、胸中穏やかではないものであろう。
「でも、ルーちゃん偉いよ。魔族の人たちを更正する道を選ぶなんて。わたしがルーちゃんの立場ならきっと……」
「ハーちゃんでも、同じ選択したと思いますよ」
「え?」
「だって、私たちは聖女候補生ですよ。人を癒やすのが私たちの使命ではありませんか? それがたとえ、魔族であったとしても……」
「あ……」
我は聖クランソニア学院で学んだ理念を実践したに過ぎない。
報いなく、人の身体と心を癒やすのが、我ら聖女の役目であるからな。
「さすがルヴルの姐さんっす! あたい、感動したっす」
「うん。本当に凄いよ、ルーちゃんは。もう立派な聖女様だよ」
褒め言葉としては嬉しいが、まだまだ我は未熟だ。
今だに回復魔術の深奥を掴めていない。
いくつかの魔族と戦ったが、こいつらの圧倒的弱さを治すことはできなかった。
一体、いつになったら我は回復魔術を極めることができるのだろうか……。
「あの……。ルヴル様」
ヴァラグが声をかける。
そう言えばいるのを忘れていた。
なんかこやつ、魔族の中でも一際影が薄いのだ。
もっと派手な恰好をさせて、アピールしてはどうだろうか。
「ごめんなさい。別にヴァラグを忘れていたわけではないですよ」
「?」
「こっちの話です。まだ時間があるので、もう少し鍛錬をしようかと戻ってきました」
「左様でしたか。こちらのご学友も鍛錬に参加を?」
「とととと、とんでもない」
「ち、違います!」
ハートリーとネレムは全力で首を振った。
そこまで激しく拒否することはなかろうに。
「2人は見学です。構いませんね、ヴァラグ」
「ええ……。では、こちらに……」
ヴァラグは、前に進むように案内する。
一見、だだっ広い土地が広がるだけだ。
何か施設があるわけでもなく、誰かがいるわけでもない。
だが、ある場所から半歩踏み込んだ瞬間、景色ががらりと変わった。
「応!」
裂帛の気合いが耳朶を打つ。
その声にも驚かされ、ハートリーとネレムは仰け反る。
そして目の前に広がる光景を見て、瞠目した。
一見平原と思われたそこに現れたのは、峻険な山であった。
その狭い足場の中で、男女問わず鍛錬に明け暮れている。
ある者は大きな甕に並々と注がれた水を担いで山を登り、ある者は肩、肘、手、膝に水が入った皿を落とさずに中腰の姿勢をキープ、ある者は谷に宙づりにされたまま逆さ腹筋、指先に魔力を集中させて針の上で逆立ちしている者もいた。
それぞれの額や身体に汗が滲んでいる。
それどころか歯茎から血を滲ませていた者もいた。
漂ってくる汗の臭いは、きつい鍛錬の証だ。
「る、ルーちゃん……」
「なんですか、ハーちゃん?」
「もしかして、この人たちみんな…………」
「ええ。魔族ですよ」
我は笑顔で答えた。
ん? なんでハートリーもネレムも、顔を青ざめさせているのだ。
「ざっと3000、いや5000人以上いるように見えますけど」
今度はネレムが口を開く。
「そうですね」
「(国の一個師団に相当するじゃないか!? ルヴルの姐さん、何を考えているんだ? まさかこの魔族を持って、国に対して反旗を? 魔族の独立とか? 口では癒やすとか言ってて、裏では魔族を束ねて着々と反抗勢力をまとめるなんて。さ、さすがはルヴルの姐さんだ……)」
「ネレム? 何か言いましたか?」
「いえ! なんでもありません! ルヴルの姐さん、一生付いていきます!!」
なんかネレムが思い違いをしてそうな気がするが、まあ良いか。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
ネレムのルヴル像がまた大きくなっていく……。
本日は、拙作『叛逆のヴァロウ』のコミカライズの更新日となっています。
ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカなどで読むことができます。
12月15日に発売されるコミックともども、こちらもよろしくお願いします。
あなたにおすすめの小説
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。