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3章
第48話 魔王、登校する
「皆さん、ご機嫌よう」
我は元気よく挨拶した。
銀髪を揺らし、きちんと糊付けされた制服で通学路を歩む。
学校指定の革靴で赤煉瓦を踏むと良い音を立てた。
聖クランソニア学院に来て、1ヶ月と少し経つ。
並木道には、日差しを受けた深緑が影を落としている。
入学した時よりも、ずっと温かく、額はじっとりと汗ばんでいた。
そんな中、我は久しぶりの登校を果たす。
致し方なかったとはいえ、3日も休んでしまった。
きっと他の学友から勉強が遅れていることだろう。
この遅れは、時間魔術を使って、1日を72時間にして取り戻すつもりだ。
さて、陽気こそがらりと変わったものの、周囲の状況は変わっていないらしい。
「げっ! ジャアク!!」
「ジャアクが登校してきたぞ」
「学院を退学処分になったはずじゃ」
「なんでも王宮に殴り込みにいったそうだぞ……」
「え? 私は後宮に入って、国王を手込めにしようとしたって聞いたわ」
「いずれにしろ……」
「ああ……。俺たちの安寧の日々はないってことか」
いつものように恐怖する者や、落胆する声まで聞こえてくる。
なんか話に尾ひれがついているし。
別に殴り込みにいったわけでも、国王を操ろうとしていたわけではない。
魔族の話が合わさっているのはどういうことだろうか。
偶然であろうか。
というか、お主ら入学当時から無視しておるが、せめて我の挨拶に応じるぐらいはしてほしいものだ。
些か失礼というものではないか?
ま――――。
別に気にしてはおらん。
我には、真の友達がいるからな。
我はFクラスのドアを開ける。
「皆さん、ご機嫌――――」
「姐さん、お帰りなさいませ!!」
クラスメイトが勢揃いし、頭を下げる。
膝に手を置いた独特のスタイルでだ。
我としては、普通に挨拶してほしいところなのだが、まあこれが人間でいう最高のもてなしなのであろう。
我はそう勝手に解釈していた。
「ルヴルの姐さん、お帰りなさい」
「あ。鞄、持ちます」
「長旅お疲れ様です。マッサージでもいたしましょうか?」
「キィンキィンに冷えたビー――――じゃなかった、紅茶をお持ちしました」
いつも通り、我に世話をかけてくれる。
皆、とてもいいクラスメイトだ。
いつか皆の優しさに報わなければな。
そうだ。
「今度、皆さんと一緒に鍛錬しにいきましょう」
「「「「………………!」」」」
皆が一斉に沈黙した。
いや、時が止まったように固まった。
あれ? なんだ、この反応は?
「べ、べべべべべべ別に鍛錬はい、いいかなあ……」
「そ、そうそう。わ、私たち、まだまだレベルが低いし」
「Fクラスだしね」
「そ、そういえば、私……教会の掃除が…………」
みんな、断ってきた。
そうか。残念だ。
友人と鍛錬をしたら、さぞ楽しかろうと思ったのだが。
はっ!
そうか。
我は3日間休んでいた。
おそらくその間、クラスメイト達は我から先へ進んだのだろう。
それもかなり先に……。
授業を休んだ我では追いつけぬほどの高次元にいってしまったのだ。
レベルが低い我ごときと鍛錬しても、身にならないということか。
ならば、何としてもこの遅れを取り戻さねば。
ぼぼぼぼっ、と我は闘志を燃やした。
「ルーちゃん、おかえり」
やってきたのは、ハートリーだった。
薄く目を細め、我に微笑みかける。
それだけで、ハートリーが何を考えているかわかる。
我を心の底から歓迎してくれていることが。
良いな、友達とは。
魔術も言葉もなく、相手が何を考えているかわかるのだから。
そして何よりこの雰囲気だ。
聖クランソニア学院を包む温かな空気。
玉座に座ってばかりいえば、おそらく感じることはなかっただろう。
我は今満たされている。
確信を持っていえる。
「ルヴル・キル・アレンティリ……。ハートリー・クロース……」
我とハートリーをフルネームで呼ぶ声が聞こえた。
教室の入口を見ると、副院長が立っている。
相変わらず、神経質そうな顔を浮かべていた。
「学院長からお話があるそうです。両名、付いてきなさい」
我を呼び出すのだった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
いよいよ次回最終回です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
我は元気よく挨拶した。
銀髪を揺らし、きちんと糊付けされた制服で通学路を歩む。
学校指定の革靴で赤煉瓦を踏むと良い音を立てた。
聖クランソニア学院に来て、1ヶ月と少し経つ。
並木道には、日差しを受けた深緑が影を落としている。
入学した時よりも、ずっと温かく、額はじっとりと汗ばんでいた。
そんな中、我は久しぶりの登校を果たす。
致し方なかったとはいえ、3日も休んでしまった。
きっと他の学友から勉強が遅れていることだろう。
この遅れは、時間魔術を使って、1日を72時間にして取り戻すつもりだ。
さて、陽気こそがらりと変わったものの、周囲の状況は変わっていないらしい。
「げっ! ジャアク!!」
「ジャアクが登校してきたぞ」
「学院を退学処分になったはずじゃ」
「なんでも王宮に殴り込みにいったそうだぞ……」
「え? 私は後宮に入って、国王を手込めにしようとしたって聞いたわ」
「いずれにしろ……」
「ああ……。俺たちの安寧の日々はないってことか」
いつものように恐怖する者や、落胆する声まで聞こえてくる。
なんか話に尾ひれがついているし。
別に殴り込みにいったわけでも、国王を操ろうとしていたわけではない。
魔族の話が合わさっているのはどういうことだろうか。
偶然であろうか。
というか、お主ら入学当時から無視しておるが、せめて我の挨拶に応じるぐらいはしてほしいものだ。
些か失礼というものではないか?
ま――――。
別に気にしてはおらん。
我には、真の友達がいるからな。
我はFクラスのドアを開ける。
「皆さん、ご機嫌――――」
「姐さん、お帰りなさいませ!!」
クラスメイトが勢揃いし、頭を下げる。
膝に手を置いた独特のスタイルでだ。
我としては、普通に挨拶してほしいところなのだが、まあこれが人間でいう最高のもてなしなのであろう。
我はそう勝手に解釈していた。
「ルヴルの姐さん、お帰りなさい」
「あ。鞄、持ちます」
「長旅お疲れ様です。マッサージでもいたしましょうか?」
「キィンキィンに冷えたビー――――じゃなかった、紅茶をお持ちしました」
いつも通り、我に世話をかけてくれる。
皆、とてもいいクラスメイトだ。
いつか皆の優しさに報わなければな。
そうだ。
「今度、皆さんと一緒に鍛錬しにいきましょう」
「「「「………………!」」」」
皆が一斉に沈黙した。
いや、時が止まったように固まった。
あれ? なんだ、この反応は?
「べ、べべべべべべ別に鍛錬はい、いいかなあ……」
「そ、そうそう。わ、私たち、まだまだレベルが低いし」
「Fクラスだしね」
「そ、そういえば、私……教会の掃除が…………」
みんな、断ってきた。
そうか。残念だ。
友人と鍛錬をしたら、さぞ楽しかろうと思ったのだが。
はっ!
そうか。
我は3日間休んでいた。
おそらくその間、クラスメイト達は我から先へ進んだのだろう。
それもかなり先に……。
授業を休んだ我では追いつけぬほどの高次元にいってしまったのだ。
レベルが低い我ごときと鍛錬しても、身にならないということか。
ならば、何としてもこの遅れを取り戻さねば。
ぼぼぼぼっ、と我は闘志を燃やした。
「ルーちゃん、おかえり」
やってきたのは、ハートリーだった。
薄く目を細め、我に微笑みかける。
それだけで、ハートリーが何を考えているかわかる。
我を心の底から歓迎してくれていることが。
良いな、友達とは。
魔術も言葉もなく、相手が何を考えているかわかるのだから。
そして何よりこの雰囲気だ。
聖クランソニア学院を包む温かな空気。
玉座に座ってばかりいえば、おそらく感じることはなかっただろう。
我は今満たされている。
確信を持っていえる。
「ルヴル・キル・アレンティリ……。ハートリー・クロース……」
我とハートリーをフルネームで呼ぶ声が聞こえた。
教室の入口を見ると、副院長が立っている。
相変わらず、神経質そうな顔を浮かべていた。
「学院長からお話があるそうです。両名、付いてきなさい」
我を呼び出すのだった。
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いよいよ次回最終回です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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