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第3話
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ギラギラとしたと言った表現がハマり過ぎるほどのネオンの中を、蒼真は歩いている。春になろうと言うこの時期、息こそ白くはないが少々の寒気に肩をすぼめながらデニムのジャンパーの襟を合わせると、3Dのネオンのお姉さんが蒼真の頬を掠めるように通り抜けた。
蒼真はそれに微笑んでバイバイをし、そして一軒の店の前で足を止める。
「さて、翔はちゃんと帰ってるかな」
店の少し上の方を見上げながらつぶやいて、店に足を踏み入れた。
「お、来たな」
若い子も多い店にしては、ゲーム機がない分さっきの店よりは静かな店内のカウンターの中から、20代半ばほどのマスターが声をかけてきた。
「いつも悪いねマスター。この店だけだよ、頼りにできるのはさ」
蒼真はそう言ってカウンターのスツールに腰掛けて、手元の灰皿を引き寄せる。
「いつものタバコちょうだい」
カウンターの中で販売しているタバコの中から、蒼真がいつも吸っている銘柄をマスターは出してくれる。
日本にいる時にはこの店によくきて騒いでいたものだから、店もマスターも馴染みすぎて、家のような扱いだ。
「サンキュ」
ひきかえにワンコインをカウンターに置いて、箱を開ける。
電子タバコやタバコの代替品は様々あるが、愛煙家たちはやはり煙を吐き出すタバコの呪縛からは逃れられないらしく、色々言われて何世紀も経つがなかなかタバコというものが消えることはない。
「翔は帰ってる?」
駆けつけ一杯とばかりにビールを注いでくれたマスターに尋ねると、
「ああ、帰ってるぜ。10時半頃だったか」
あのまま逃げ切って、まっすぐ帰ったことに安堵する。
「なんかあったのか?」
「なんで?」
蒼真は、既に1杯奢りのビールを半分まであけている。
「2人してここに来るのって珍しいからさ」
「そう?でもここには泊まらないんだけどね」
マスターは自分のビールも注いで、蒼真のジョッキと合わせてやはり半分ほどを空けた。
「お前さ、ここで一体何してんだ?泊まりもしないで3週間分もの部屋代もらったんじゃなんかさー」
この店は2階3階が宿泊施設になっていて、素泊まりではあるが繁華街の真ん中ということで、色々な使い道で結構便利に使われている場所だった。
「大丈夫、迷惑かけることなんかしてないから」
「やばいことしてんじゃないよな」
迷惑かけないと言われると、人間は逆に疑いたくなる生き物で。
「どうせやばい店じゃんかー」
とケラケラ笑って、ジョッキを持ち上げ乾杯のポーズ。その時
「どんなやばい事してんだ?」
蒼真の後にぴたりと体を寄せて、男がいきなりそう囁く。マスターは『お?』と言う顔をしたが後ろの男が逆の指で人差し指を一本立てたので、向こうのカウンターのお客に話すふりをして場を離れた。もちろん『しー』の合図。
「何だよ。俺はそう言うのやってないよ。悪いけど他に行ってくれ」
さりげなく男の唇を交わしながら、蒼真は振り向きもせずにタバコをもみ消した。どっかで聞き覚えのある声だなとは思っていたが、相手にするのも面倒
なので顔さえ見るのもやめておいた。
「商売しないけど、やるときゃやっちゃう蒼真くんだよね。内太もものほくろは伊達じゃあないってね」
「なっ!お前一体…あれ?」
やるときゃやっちゃうとか、見知らぬ奴に言われたら腹も立つし、しかもこいつは自分の名前とあまつさえほくろの位置まで当ててきたのだ。
しかし立ち上がって怒鳴りつけようと男に振り返ったまではいいが、聞き覚えのある声に見たことのある顔…
「ユージ⁉︎」
「久しぶりだなソーマ」
赤茶の少し長めな髪を、かろうじて後で縛り付けている男、ユージが立ち上がっている蒼真にハグをしてきた。
蒼真も嬉しそうにハグをし返して、もう一度隣り合って席に着く。
「ほんと久しぶりだな」
ユージは蒼真が日本区に住んでいた時の遊び仲間で、蒼真たちがいま現在の生活をするにあたっての協力者でもあった。
「随分前に日本(ここ)へ入ってたんだろ?顔くらい出せよ」
「悪い、何かとあってさ」
「酒場でゲームやってる暇あったら顔くらい出せんだろ」
意地悪そうな笑みで言うユージに、先ほど2人の再会を見届けたマスターがユージの好みの水割りを出してくれた。
「何でもお見通しってわけね」
ー流石だよーと、蒼真は苦笑する。
「当たり前だ、俺を誰だと思ってんだ?」
「世界一の情報屋様です」
カウンターに三つ指をついて、頭だけをへへーっと下げる蒼真に
「よし」
と答えて 直後にー偉そうにすんなーと笑いながらこづかれる。久しぶりの再会で打ち解けた瞬間だった。
「所で翔はどうした?」
「ああ、上にいるよ」
「後で顔見に行かなくちゃな。元気か?」
「も、元気元気」
うんうんと頷いて、蒼真はタバコに火をつけた。
「あ、そうだ」
ユージが思いついたように、しかし少し真剣な表情で蒼真の顔を見る。
「ん?何だよ急にそんな顔して」
「タイミングがいいのか悪いのかなんだけどな、今、ハワード・リーフが日本に戻ってるって話があるんだ」
え…と蒼真は固まった。咥えたタバコが落ちそうなのをユージが灰皿に乗せる。
「まさか、だってあいつはいまロンドンで…」
「まだ噂程度だから…もう少し俺が調べてみるよ」
既にユージの声も聞こえないかのような顔色に、ユージはどうにもできなくて背中を撫でるしかできなかった。
ハワード・リーフは、その類まれなる頭脳と処世術によって若干30代にしてメディカルバイオラボラトリーの所長となったやり手な男である。そして蒼真はハワードの元でバイオの研究を続けていたのだが、3年前そこから逃げ出した。
蒼真は異常とも言えるIQの持ち主で、3歳の時MBLにやって来て『そう聞かされている』以来ハワードが片時も話さずに育て上げた超天才児なのである。
しかし、その分蒼真に課せられた要求も多く、元々奔放な性格の蒼真はしばられるのが嫌で、そこから翔を連れて逃げ出したのだ。まあ、理由は他に大きなものもあるのだが。
翔は、仲間だからとかついでにとかそういった意味で連れ出したのではない。蒼真にとって守るべき者、守らねばいけない者なのである。
「奴直々に乗り出してきたってことは…今度はマジなのかな」
ユージの手を背中に感じて蒼真は少し震えているようだ。
先刻酒場で一悶着あった黒ずくめの兄さんたちは、ハワードの手先なのだ。どの国にいても、最終的に黒ずくめに追い回され、今ではそれすら面白く感じてきていたのに、本人が乗り出してきたとなると話が違ってくる。
「まずいな…」
蒼真は自分の親指の爪をカリカリと噛んで、気持ちを落ち着けようとした。自分は絶対に捕まってはいけない。もちろん翔もだ。捕まったら自分は元より、罪もない者たちまで辛く悲しい結末を見る。ハワードは狂っているのだ。でもなければあんなことはできやしない。
「蒼真?おい、蒼真大丈夫か?」
「え…」
強く背中を叩かれて、蒼真はハッとする。
一瞬夢を見た様だった。ラボにいた頃の…1番激しく恐慌にも似た 感情を持ったあの瞬間。
おぞましい感覚に、蒼真は自らの身体を抱き締めた。
「大丈夫か?」
ユージが隣で肩を抱く。
「うん、大丈夫。悪かったなボーッとしちまった」
肩に乗ったユージの手に手を重ねて、微笑んでみせた。それは本当の笑みとは程遠かったけれど、ユージも頷いて肩を抱く手を一瞬強める。
「髪…どうした?真っ黒だぞ」
これ以上蒼真を過去の話に浸らせておくのもかわいそうだと判断して、ユージは肩に乗せた手で蒼真の髪に触れながら話題を変えた。
「日本に来たから合わせた」
その思いを受け取ったのか、ユージに身を寄せて甘えてみる。
「まあ、日本じゃなくても、あの髪色はどこ行っても目立つよな」
サラサラと感触のいい蒼真の髪を撫でながら笑うが、次の瞬間には
「あの髪…見たいなぁ」
と、意味深な声音になった。そんなユージに蒼真も意味ありげな笑みを向けた。
ユージは髪をいじりながら
「今はどこと取引してんだ?」
「ハラダ組だよ」
ユージの手は髪を離れ、蒼真のうなじをくすぐったり背中を指一本で撫でたり手の動きさえ意味深になってくる。
「すぐ帰らないとまずいのか?」
「ダメだよユージ、ただでさえ遅いのにこれ以上遅くなったら組の人にも迷惑だろ?」
蒼真たちのやりくちなのである。
取引相手の懐に飛び込み、いかにも手先のように振る舞って取引対象物を渡す。今はハラダ組に入り込んで世話になっている、という事だ。
その対象物とは紛れもなく完璧純度の幻覚剤「ピュア」であり、蒼真たちはそう…今警察が躍起になって追っている『バイオレット』本人たちなのであった。
蒼真は意味深な笑みはそのままに、腰のあたりを徘徊していたユージの手をそっと捕まえて立ち上がる。
今、蒼真の頭に浮かんでいるのは圭吾との行為だった。嫌なことを思い出してしまったから、いい思いをしたことを考えていたい。
ユージは少し残念そうな顔をしながら立ち上がり、強引に蒼真の腰を抱きしめた。
「ユージッ」
「さっき酒場で会った男…」
そう囁かれて離れようともがいていた動きを止める。
「良かったのか?」
笑みを浮かべながら蒼真の顔を覗き込むユージに、蒼真は定評のある笑みで見つめ返すとユージの腕を静かに外し
「すごくね…」
と言いながら身を離した。そして離れざま
「あいつサーカスの団員なんだ」
「は?蒼真お前!」
サーカスというのは、警察のことを指すスラングだ。命を削って危ないことを好んでしている、というところからついた名称らしいが、ほとんどが侮蔑の意味で使われている。
因みに麻薬捜査官はピエロなのだそう。
ユージはちょっとまてよ、と蒼真の腕を掴もうとするが、それを交わしてフロアに出てしまった。
「ふられたのかー?」
店の中央からガラの悪いヤジが飛ぶ。
「そーです!俺はこいつをふりましたー!いえーい」
ピースサインまでして蒼真はフロアを歩き回り、知らないおじさんにテキーラをワンショット貰ったり、水割りを勝手に飲んだりして店内のお客と盛り上がっていた。
ユージは『ああ、ああ』と思いながらも仕方ねえかーと諦め、今日蒼真の相手をした圭吾の顔を思い浮かべた。
ーあんないい男だもんなぁーと違うため息をついて、フロアでゲラゲラ笑っている蒼真に
「先に翔のとこ行ってるぞ」
と声をかけ、階段に向かった。
「待て、俺も行く!」
じゃあねーとフロアに向かって手を振りながら、一気に摂取したアルコールのせいで少しよろめく足取りで階段までやってきた。
「振った男と消えんなよ~」
どっかの誰かがごもっともなことを言ってくる。
「振ったって言ったって、やることひとつじゃないんだよー」
じゃっと手をもう一回振って、蒼真は階段を駆け上がった。
蒼真はそれに微笑んでバイバイをし、そして一軒の店の前で足を止める。
「さて、翔はちゃんと帰ってるかな」
店の少し上の方を見上げながらつぶやいて、店に足を踏み入れた。
「お、来たな」
若い子も多い店にしては、ゲーム機がない分さっきの店よりは静かな店内のカウンターの中から、20代半ばほどのマスターが声をかけてきた。
「いつも悪いねマスター。この店だけだよ、頼りにできるのはさ」
蒼真はそう言ってカウンターのスツールに腰掛けて、手元の灰皿を引き寄せる。
「いつものタバコちょうだい」
カウンターの中で販売しているタバコの中から、蒼真がいつも吸っている銘柄をマスターは出してくれる。
日本にいる時にはこの店によくきて騒いでいたものだから、店もマスターも馴染みすぎて、家のような扱いだ。
「サンキュ」
ひきかえにワンコインをカウンターに置いて、箱を開ける。
電子タバコやタバコの代替品は様々あるが、愛煙家たちはやはり煙を吐き出すタバコの呪縛からは逃れられないらしく、色々言われて何世紀も経つがなかなかタバコというものが消えることはない。
「翔は帰ってる?」
駆けつけ一杯とばかりにビールを注いでくれたマスターに尋ねると、
「ああ、帰ってるぜ。10時半頃だったか」
あのまま逃げ切って、まっすぐ帰ったことに安堵する。
「なんかあったのか?」
「なんで?」
蒼真は、既に1杯奢りのビールを半分まであけている。
「2人してここに来るのって珍しいからさ」
「そう?でもここには泊まらないんだけどね」
マスターは自分のビールも注いで、蒼真のジョッキと合わせてやはり半分ほどを空けた。
「お前さ、ここで一体何してんだ?泊まりもしないで3週間分もの部屋代もらったんじゃなんかさー」
この店は2階3階が宿泊施設になっていて、素泊まりではあるが繁華街の真ん中ということで、色々な使い道で結構便利に使われている場所だった。
「大丈夫、迷惑かけることなんかしてないから」
「やばいことしてんじゃないよな」
迷惑かけないと言われると、人間は逆に疑いたくなる生き物で。
「どうせやばい店じゃんかー」
とケラケラ笑って、ジョッキを持ち上げ乾杯のポーズ。その時
「どんなやばい事してんだ?」
蒼真の後にぴたりと体を寄せて、男がいきなりそう囁く。マスターは『お?』と言う顔をしたが後ろの男が逆の指で人差し指を一本立てたので、向こうのカウンターのお客に話すふりをして場を離れた。もちろん『しー』の合図。
「何だよ。俺はそう言うのやってないよ。悪いけど他に行ってくれ」
さりげなく男の唇を交わしながら、蒼真は振り向きもせずにタバコをもみ消した。どっかで聞き覚えのある声だなとは思っていたが、相手にするのも面倒
なので顔さえ見るのもやめておいた。
「商売しないけど、やるときゃやっちゃう蒼真くんだよね。内太もものほくろは伊達じゃあないってね」
「なっ!お前一体…あれ?」
やるときゃやっちゃうとか、見知らぬ奴に言われたら腹も立つし、しかもこいつは自分の名前とあまつさえほくろの位置まで当ててきたのだ。
しかし立ち上がって怒鳴りつけようと男に振り返ったまではいいが、聞き覚えのある声に見たことのある顔…
「ユージ⁉︎」
「久しぶりだなソーマ」
赤茶の少し長めな髪を、かろうじて後で縛り付けている男、ユージが立ち上がっている蒼真にハグをしてきた。
蒼真も嬉しそうにハグをし返して、もう一度隣り合って席に着く。
「ほんと久しぶりだな」
ユージは蒼真が日本区に住んでいた時の遊び仲間で、蒼真たちがいま現在の生活をするにあたっての協力者でもあった。
「随分前に日本(ここ)へ入ってたんだろ?顔くらい出せよ」
「悪い、何かとあってさ」
「酒場でゲームやってる暇あったら顔くらい出せんだろ」
意地悪そうな笑みで言うユージに、先ほど2人の再会を見届けたマスターがユージの好みの水割りを出してくれた。
「何でもお見通しってわけね」
ー流石だよーと、蒼真は苦笑する。
「当たり前だ、俺を誰だと思ってんだ?」
「世界一の情報屋様です」
カウンターに三つ指をついて、頭だけをへへーっと下げる蒼真に
「よし」
と答えて 直後にー偉そうにすんなーと笑いながらこづかれる。久しぶりの再会で打ち解けた瞬間だった。
「所で翔はどうした?」
「ああ、上にいるよ」
「後で顔見に行かなくちゃな。元気か?」
「も、元気元気」
うんうんと頷いて、蒼真はタバコに火をつけた。
「あ、そうだ」
ユージが思いついたように、しかし少し真剣な表情で蒼真の顔を見る。
「ん?何だよ急にそんな顔して」
「タイミングがいいのか悪いのかなんだけどな、今、ハワード・リーフが日本に戻ってるって話があるんだ」
え…と蒼真は固まった。咥えたタバコが落ちそうなのをユージが灰皿に乗せる。
「まさか、だってあいつはいまロンドンで…」
「まだ噂程度だから…もう少し俺が調べてみるよ」
既にユージの声も聞こえないかのような顔色に、ユージはどうにもできなくて背中を撫でるしかできなかった。
ハワード・リーフは、その類まれなる頭脳と処世術によって若干30代にしてメディカルバイオラボラトリーの所長となったやり手な男である。そして蒼真はハワードの元でバイオの研究を続けていたのだが、3年前そこから逃げ出した。
蒼真は異常とも言えるIQの持ち主で、3歳の時MBLにやって来て『そう聞かされている』以来ハワードが片時も話さずに育て上げた超天才児なのである。
しかし、その分蒼真に課せられた要求も多く、元々奔放な性格の蒼真はしばられるのが嫌で、そこから翔を連れて逃げ出したのだ。まあ、理由は他に大きなものもあるのだが。
翔は、仲間だからとかついでにとかそういった意味で連れ出したのではない。蒼真にとって守るべき者、守らねばいけない者なのである。
「奴直々に乗り出してきたってことは…今度はマジなのかな」
ユージの手を背中に感じて蒼真は少し震えているようだ。
先刻酒場で一悶着あった黒ずくめの兄さんたちは、ハワードの手先なのだ。どの国にいても、最終的に黒ずくめに追い回され、今ではそれすら面白く感じてきていたのに、本人が乗り出してきたとなると話が違ってくる。
「まずいな…」
蒼真は自分の親指の爪をカリカリと噛んで、気持ちを落ち着けようとした。自分は絶対に捕まってはいけない。もちろん翔もだ。捕まったら自分は元より、罪もない者たちまで辛く悲しい結末を見る。ハワードは狂っているのだ。でもなければあんなことはできやしない。
「蒼真?おい、蒼真大丈夫か?」
「え…」
強く背中を叩かれて、蒼真はハッとする。
一瞬夢を見た様だった。ラボにいた頃の…1番激しく恐慌にも似た 感情を持ったあの瞬間。
おぞましい感覚に、蒼真は自らの身体を抱き締めた。
「大丈夫か?」
ユージが隣で肩を抱く。
「うん、大丈夫。悪かったなボーッとしちまった」
肩に乗ったユージの手に手を重ねて、微笑んでみせた。それは本当の笑みとは程遠かったけれど、ユージも頷いて肩を抱く手を一瞬強める。
「髪…どうした?真っ黒だぞ」
これ以上蒼真を過去の話に浸らせておくのもかわいそうだと判断して、ユージは肩に乗せた手で蒼真の髪に触れながら話題を変えた。
「日本に来たから合わせた」
その思いを受け取ったのか、ユージに身を寄せて甘えてみる。
「まあ、日本じゃなくても、あの髪色はどこ行っても目立つよな」
サラサラと感触のいい蒼真の髪を撫でながら笑うが、次の瞬間には
「あの髪…見たいなぁ」
と、意味深な声音になった。そんなユージに蒼真も意味ありげな笑みを向けた。
ユージは髪をいじりながら
「今はどこと取引してんだ?」
「ハラダ組だよ」
ユージの手は髪を離れ、蒼真のうなじをくすぐったり背中を指一本で撫でたり手の動きさえ意味深になってくる。
「すぐ帰らないとまずいのか?」
「ダメだよユージ、ただでさえ遅いのにこれ以上遅くなったら組の人にも迷惑だろ?」
蒼真たちのやりくちなのである。
取引相手の懐に飛び込み、いかにも手先のように振る舞って取引対象物を渡す。今はハラダ組に入り込んで世話になっている、という事だ。
その対象物とは紛れもなく完璧純度の幻覚剤「ピュア」であり、蒼真たちはそう…今警察が躍起になって追っている『バイオレット』本人たちなのであった。
蒼真は意味深な笑みはそのままに、腰のあたりを徘徊していたユージの手をそっと捕まえて立ち上がる。
今、蒼真の頭に浮かんでいるのは圭吾との行為だった。嫌なことを思い出してしまったから、いい思いをしたことを考えていたい。
ユージは少し残念そうな顔をしながら立ち上がり、強引に蒼真の腰を抱きしめた。
「ユージッ」
「さっき酒場で会った男…」
そう囁かれて離れようともがいていた動きを止める。
「良かったのか?」
笑みを浮かべながら蒼真の顔を覗き込むユージに、蒼真は定評のある笑みで見つめ返すとユージの腕を静かに外し
「すごくね…」
と言いながら身を離した。そして離れざま
「あいつサーカスの団員なんだ」
「は?蒼真お前!」
サーカスというのは、警察のことを指すスラングだ。命を削って危ないことを好んでしている、というところからついた名称らしいが、ほとんどが侮蔑の意味で使われている。
因みに麻薬捜査官はピエロなのだそう。
ユージはちょっとまてよ、と蒼真の腕を掴もうとするが、それを交わしてフロアに出てしまった。
「ふられたのかー?」
店の中央からガラの悪いヤジが飛ぶ。
「そーです!俺はこいつをふりましたー!いえーい」
ピースサインまでして蒼真はフロアを歩き回り、知らないおじさんにテキーラをワンショット貰ったり、水割りを勝手に飲んだりして店内のお客と盛り上がっていた。
ユージは『ああ、ああ』と思いながらも仕方ねえかーと諦め、今日蒼真の相手をした圭吾の顔を思い浮かべた。
ーあんないい男だもんなぁーと違うため息をついて、フロアでゲラゲラ笑っている蒼真に
「先に翔のとこ行ってるぞ」
と声をかけ、階段に向かった。
「待て、俺も行く!」
じゃあねーとフロアに向かって手を振りながら、一気に摂取したアルコールのせいで少しよろめく足取りで階段までやってきた。
「振った男と消えんなよ~」
どっかの誰かがごもっともなことを言ってくる。
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