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第14話
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「あ、うん。そう、わかった。翔は?ああ、さんきゅ、じゃ」
ソファに座り携帯端末で話していた蒼真に、リビングとキッチンの境にたたずんだ圭吾は
「ユージか?」
と事務的に問う。
「うん、そうだよ」
端末をテーブルに置いて、立ち上がった蒼真は
「なんだって?」
と探るような圭吾の言葉に、蒼真の眉が上げた。
「別になんでもないよ。ただの定期連絡。翔がジョイスのとこに行ってるからって気にかけてくれてんだよ」
3日前にジョイスが言い出した蒼真と翔を離して面倒を見ると言う提案は、意外にもすんなり蒼真の承諾を得た。
蒼真にしてみたら、ジョイスの家が知られていないと言う判断からである。
圭吾のマンションは多分MBLには知られているはずだ。ハワードのじっくりとコトを起こす趣味を身をもって知っている蒼真は翔を安全圏へと避難させた。
圭吾は表情を変えず、その場から離れる。
蒼真は圭吾が自分を監視しているだろうことには気づいていた。だから翔がいなくなって3日も経つのに、自分には指一本触れてこないことも解っている。
「大した自制心だよ」
小さく呟いて、蒼真は一旦寝室へ入る。
ベッドへ腰掛けてこれからのことを考えた。
さっきの電話。それはユージたちの手間もあって、偽装や変装も伴うがなんとか国外へ出られる算段がついたという連絡だったのだ。
今回を逃せば、もうチャンスはないという判断の元から、明後日の決行が決まった。
それまでにはなんとか、圭吾とと打ち解けたい。
疑われてはいるものの、助けてもらった挙句騙したまま消えると言うのは後味が悪すぎる。
明後日日本を出てしまえば、きっともう…2度と会うことはないのだ。
蒼真は無造作に髪をかきあげ、いきなりにっこりと笑顔を作るとリビングの圭吾の元へ向かう。
圭吾は1人がけに座って何か書類のようなものを見ていた。
「けーいご」
後ろから圭吾の首にしがみついて、頬を合わせる。
「…なんだ?」
読んでいた書類のようなものをテーブルに置いて、圭吾は首に絡んだ腕に手を添えた。
「明日さ、デートしようぜ」
「なにバカなこ…」
言いかけた言葉は唇で塞がれる。
「最近…しないじゃん…」
すぐに離れた唇は、ニッと笑って圭吾を見ていた。圭吾はふざけるのはやめろ、と言うのが精一杯で蒼真の腕を引き剥がした。
「俺の事…警戒してんだろ?」
少しだけ動揺を見せてしまっただろうか、圭吾は表情そのままにー何の話だーと言おうとして、前に回ってきていた蒼真に驚く。
蒼真の後ろの窓から差し込む夕日が、蒼真をシルエットに変え圭吾はその光景に目を細めた。
この時代太陽の光が入るだけで良いマンションと言われる。たとえ西日でも例外ではない。
圭吾はこのマンションの夕日が見えるところがとても気に入っていたが、今この状況では自分が何かを言わされそうな、そんな感情を起こさせるオレンジの光だ。
「お前を警戒してどうするんだ。警戒じゃなくて庇護してると言うんだ」
なんとか取り繕う圭吾に、蒼真はクスッと笑うだけだ。
「圭吾…あんた麻薬取締官向かないな」
「なっ!」
思わぬ言葉に声を失う。
「ほら、それが正直だって」
可笑しそうに、しかし決してバカにしたようなものではない笑いを蒼真は洩らした。
「俺たちがバイオレットじゃないかって疑ってる」
圭吾は余計なことを言わないように言葉を選び、それでも聞かなければいけない言葉
「何故…それを」
低い声だ。何故と問えばそれは肯定の意味になることは承知で圭吾は唸るように口にした。
「当たり、でしょ?」
蒼真は微笑みながら再び
「でもね」
と言いながら圭吾の後ろに回り込む。
「違うよ…」
圭吾は振り向きかけたが、そうならないように、体制を整えるだけに留めた。
「俺たちそんなんじゃないから」
両手を首に回されて、再び頬を寄せられる。
「だからさ、明日デートしようぜ。変なわだかまり捨ててさ」
自分に言葉が無くなっていたものの、一方的に喋られて圭吾は混乱した。
違うよ、と言われてもその言葉を鵜呑みにはできないとは判っているが、自分の奥底がその言葉が本当であってほしいと渇望している。
だから蒼真が明日に限って『デートをしよう』といっている真意まで読み取ることができなかった。それが蒼真の作戦なのだから仕方のないことではあるのだが。
「な?いいだろ?」
肩口から聞こえる蒼真の声はどこか魔法めいていて、ついのせられてしまいそうになる。
「だから…俺たちの事をどこで知ったかを聞いているんだ」
蒼真の声音に負けじと今度は圭吾が詰問してやることにした。蒼真は少し考えた後ボソッと答える。
「ユージだよ」
今更嘘を言っても仕方ないが、警察のネットワークに潜り込んだと言うのは自分たちの素性をバラすようなもんだ。
「ユージが情報屋なの知ってるでしょ」
ー調べてもらったんだーと言って、圭吾から離れダイニングテーブルの椅子に着く。
蒼真がいなくなった窓は夕日の残骸を残すのみとなり、その虚しさが嫌で圭吾はブラインドを閉めるべく壁のスイッチまで歩いた。
ブラインドが閉まるとルームライトが自然に点く。そのライトの眩さに蒼真が目を瞬かせている間に圭吾は蒼真との間合いを詰めた。
「苦しいよ…圭吾…」
あまり苦しくなさそうな声で蒼真は自分の襟元を締め上げている圭吾の手に指をかけた。
「特捜部の情報は、警察機構の最高機密だ。そんな簡単に盗めるはずがない。言え…何をした」
「だから、本当にユージだって。信じろよ」
「ならどうしてバイオレットの捜査のことを知っている」
圭吾の締め上げは次第にキツくなり、蒼真の首をじわじわと締めつけて来る。
「特捜部が目の色変えて追っかけてるなんて、今時…バイオレット以外にいるもんか…誰だって…っ…知って…るよ」
さすがに苦しくて声が途切れるが、蒼真はそう言い切って見せた。しかも
「俺だって…ピュアもって…るよ。…見せようか…」
と、煽ってさえくる。圭吾は忌々しげに蒼真を椅子の上に突き放した。
「どこで手に入れた」
「…ハラ…ダ組…」
肺に一気に空気が入って結構な勢いで咽せる。
「それなら、各国のマフィアとの交流は」
蒼真はその言葉で、自分たちがどこで警察にばれかかっていたのかに気づいた。
『なるほどそう言うことか…暇だねえピエロの皆さんも』
「ピュア貰いに行ってたんだよ。それこそそんな事どこで知ったのか知らないけど」
圭吾は身バレした以上は、蒼真が本当にバイオレットなのかどうかを確認したかった。
ムキになって少し言い過ぎた感はあるが、それでも素性を明らかにしたい。
「それならなんのために俺たちの事を調べ…」
「だからっ!」
ダイニングテーブルの上で、蒼真のブルーのカップが跳ねて倒れた。
テーブルを叩いた手も痛かったが、嘘を突き通すことだって胸が痛いのだ。もう…勘弁して欲しかった。
今ついてるウソを、鵜呑みにしてくれとまで願う。
「圭吾に面倒見てもらうのに、そんな監視されるような仏頂面見んのヤなんだよ…。しばらく一緒に居るんだから…そんな怖い顔したやつと一緒にいるの嫌じゃないか…」
「それだけで俺たちのことを調べたのか?」
「そうだよ!なんでそんななのかを知りたかっただけだ!悪気なんてない」
テーブルについた手に雫が落ちて、蒼真は『え?』と自分の瞼に指を当てた。
「何も泣くことはないだろう」
流石の圭吾も額に手を当ててしまう。泣きたいのはこっちの方だ、と思ってみても駄々っ子のような蒼真の涙は今の圭吾には威力があった。
「泣いてないよ!でも、俺だっていつまでもこんな事話してたくない!」
なんだかもう完全に駄々っ子と化してしまった蒼真は、腕で涙を拭い音がするほどの勢いで椅子にどっかりと座り直す。
「そんな顔をしていたとは気が付かなかった…不快な思いをさせていたようだな」
学生時代からポーカーフェイスには定評があったはずだった。もっと自分の感情を抑えることも、もっと冷静な思考を巡らせることも出来るはずなのに…蒼真と関わってから何かが狂っている。
次第に穏やかな感情が無くなってきているのが判るのだ。特に蒼真たちがバイオレットの容疑者だと聞かされたあの日から…
「どうすればいいんだ…?」
泣く子には勝てなくて、つい甘言に走ってしまう。
ギリギリの攻防はどうやら蒼真に軍配が上がり、どうやら蒼真は身バレしないまま圭吾と別れることができそうだ。
「明日…映画行って、ジオポリス行って、旨いもん食わせてくれたら気が晴れる」
当初からの目的をツラツラと言ってのけて、まだ赤い目で笑う。
「わかった…」
深いため息と共にそう言って、圭吾もリビングのソファに座った。
有耶無耶にされた感は否めないが、蒼真が言うようにいつまでも議論をしていても始まらない。蒼真とはしばらく付き合わなければならなそうだから、重要な事を知られた口止めはじっくりしようと思った。
まだバイオレットの容疑が晴れたわけではないが、圭吾は知らずのうちに蒼真の言葉を半分くらい信じてしまいそうでいる。
蒼真は、もうすぐ2度と会えなくなるのだから、圭吾には笑っていて欲しかった。容疑がかかっていようとそんなことは実は関係なく、最後に見る圭吾の顔は笑っていてほしい。ただそれだけだった。
「お前好きだよなそれ」
ジオポリスで蒼真が見つけたのは、圭吾と最初に会った酒場にあったアーケードゲーム機。見つけた瞬間飛び乗って、それ以来30分ほどずっとやっている。古いゲーム故、他にやる人もいないから蒼真専用機だ。
「だってこれ本当に面白い。圭吾もやってみろよ」
「遠慮しておく。酔いそうだ」
圭吾が手にしているコーラを見て俺のも買ってきてとせがまれ、圭吾は自販機へ向かう。ゲーム中なんだからすぐには飲めないだろうに、とは思うが一応買っておこうと歩いた先に、見覚えのある男が柱の影に立っていた。
圭吾は踵を返し蒼真のところへ戻ると、
「蒼真出るぞ」
「え、なに?コーラは?それにゲームがまだ…」
「そんな場合じゃない、黒服がいる。デートもお終いだ帰るぞ」
圭吾が頭で示す方を見ると、確かに見覚えのあるガタイのいいおじさんがいた。
「情報はやいなぁ…」
柱の影で気づかれていないと思っている黒服おじさん。しかしそんなことでデートの邪魔をされるのは癪に触る。
「撒こうぜ圭吾」
「撒くって…おい」
「ハラジュクに知り合いの店があるんだよ、そこまで引っ張り回すうちにはどっかで撒けるでしょ」
「歩くのか」
ハラジュクと言ったらここはスイドウバシだ。歩くには少々うんざりする距離。
「車で行かないか…」
「車の方が結構自由聞かないって知ってる?こう言う時は歩いたり走ったりする方がいいんだよ」
いいから、と蒼真は圭吾の腕を引っ張って店を出る。
中と大して変わらない光量が2人を包む。出がけに見えたおじさんたちも動き始めていたから急がないといけない。
蒼真の
「さってっと!」
と言う言葉を合図に2人は同時に走り出した。
ソファに座り携帯端末で話していた蒼真に、リビングとキッチンの境にたたずんだ圭吾は
「ユージか?」
と事務的に問う。
「うん、そうだよ」
端末をテーブルに置いて、立ち上がった蒼真は
「なんだって?」
と探るような圭吾の言葉に、蒼真の眉が上げた。
「別になんでもないよ。ただの定期連絡。翔がジョイスのとこに行ってるからって気にかけてくれてんだよ」
3日前にジョイスが言い出した蒼真と翔を離して面倒を見ると言う提案は、意外にもすんなり蒼真の承諾を得た。
蒼真にしてみたら、ジョイスの家が知られていないと言う判断からである。
圭吾のマンションは多分MBLには知られているはずだ。ハワードのじっくりとコトを起こす趣味を身をもって知っている蒼真は翔を安全圏へと避難させた。
圭吾は表情を変えず、その場から離れる。
蒼真は圭吾が自分を監視しているだろうことには気づいていた。だから翔がいなくなって3日も経つのに、自分には指一本触れてこないことも解っている。
「大した自制心だよ」
小さく呟いて、蒼真は一旦寝室へ入る。
ベッドへ腰掛けてこれからのことを考えた。
さっきの電話。それはユージたちの手間もあって、偽装や変装も伴うがなんとか国外へ出られる算段がついたという連絡だったのだ。
今回を逃せば、もうチャンスはないという判断の元から、明後日の決行が決まった。
それまでにはなんとか、圭吾とと打ち解けたい。
疑われてはいるものの、助けてもらった挙句騙したまま消えると言うのは後味が悪すぎる。
明後日日本を出てしまえば、きっともう…2度と会うことはないのだ。
蒼真は無造作に髪をかきあげ、いきなりにっこりと笑顔を作るとリビングの圭吾の元へ向かう。
圭吾は1人がけに座って何か書類のようなものを見ていた。
「けーいご」
後ろから圭吾の首にしがみついて、頬を合わせる。
「…なんだ?」
読んでいた書類のようなものをテーブルに置いて、圭吾は首に絡んだ腕に手を添えた。
「明日さ、デートしようぜ」
「なにバカなこ…」
言いかけた言葉は唇で塞がれる。
「最近…しないじゃん…」
すぐに離れた唇は、ニッと笑って圭吾を見ていた。圭吾はふざけるのはやめろ、と言うのが精一杯で蒼真の腕を引き剥がした。
「俺の事…警戒してんだろ?」
少しだけ動揺を見せてしまっただろうか、圭吾は表情そのままにー何の話だーと言おうとして、前に回ってきていた蒼真に驚く。
蒼真の後ろの窓から差し込む夕日が、蒼真をシルエットに変え圭吾はその光景に目を細めた。
この時代太陽の光が入るだけで良いマンションと言われる。たとえ西日でも例外ではない。
圭吾はこのマンションの夕日が見えるところがとても気に入っていたが、今この状況では自分が何かを言わされそうな、そんな感情を起こさせるオレンジの光だ。
「お前を警戒してどうするんだ。警戒じゃなくて庇護してると言うんだ」
なんとか取り繕う圭吾に、蒼真はクスッと笑うだけだ。
「圭吾…あんた麻薬取締官向かないな」
「なっ!」
思わぬ言葉に声を失う。
「ほら、それが正直だって」
可笑しそうに、しかし決してバカにしたようなものではない笑いを蒼真は洩らした。
「俺たちがバイオレットじゃないかって疑ってる」
圭吾は余計なことを言わないように言葉を選び、それでも聞かなければいけない言葉
「何故…それを」
低い声だ。何故と問えばそれは肯定の意味になることは承知で圭吾は唸るように口にした。
「当たり、でしょ?」
蒼真は微笑みながら再び
「でもね」
と言いながら圭吾の後ろに回り込む。
「違うよ…」
圭吾は振り向きかけたが、そうならないように、体制を整えるだけに留めた。
「俺たちそんなんじゃないから」
両手を首に回されて、再び頬を寄せられる。
「だからさ、明日デートしようぜ。変なわだかまり捨ててさ」
自分に言葉が無くなっていたものの、一方的に喋られて圭吾は混乱した。
違うよ、と言われてもその言葉を鵜呑みにはできないとは判っているが、自分の奥底がその言葉が本当であってほしいと渇望している。
だから蒼真が明日に限って『デートをしよう』といっている真意まで読み取ることができなかった。それが蒼真の作戦なのだから仕方のないことではあるのだが。
「な?いいだろ?」
肩口から聞こえる蒼真の声はどこか魔法めいていて、ついのせられてしまいそうになる。
「だから…俺たちの事をどこで知ったかを聞いているんだ」
蒼真の声音に負けじと今度は圭吾が詰問してやることにした。蒼真は少し考えた後ボソッと答える。
「ユージだよ」
今更嘘を言っても仕方ないが、警察のネットワークに潜り込んだと言うのは自分たちの素性をバラすようなもんだ。
「ユージが情報屋なの知ってるでしょ」
ー調べてもらったんだーと言って、圭吾から離れダイニングテーブルの椅子に着く。
蒼真がいなくなった窓は夕日の残骸を残すのみとなり、その虚しさが嫌で圭吾はブラインドを閉めるべく壁のスイッチまで歩いた。
ブラインドが閉まるとルームライトが自然に点く。そのライトの眩さに蒼真が目を瞬かせている間に圭吾は蒼真との間合いを詰めた。
「苦しいよ…圭吾…」
あまり苦しくなさそうな声で蒼真は自分の襟元を締め上げている圭吾の手に指をかけた。
「特捜部の情報は、警察機構の最高機密だ。そんな簡単に盗めるはずがない。言え…何をした」
「だから、本当にユージだって。信じろよ」
「ならどうしてバイオレットの捜査のことを知っている」
圭吾の締め上げは次第にキツくなり、蒼真の首をじわじわと締めつけて来る。
「特捜部が目の色変えて追っかけてるなんて、今時…バイオレット以外にいるもんか…誰だって…っ…知って…るよ」
さすがに苦しくて声が途切れるが、蒼真はそう言い切って見せた。しかも
「俺だって…ピュアもって…るよ。…見せようか…」
と、煽ってさえくる。圭吾は忌々しげに蒼真を椅子の上に突き放した。
「どこで手に入れた」
「…ハラ…ダ組…」
肺に一気に空気が入って結構な勢いで咽せる。
「それなら、各国のマフィアとの交流は」
蒼真はその言葉で、自分たちがどこで警察にばれかかっていたのかに気づいた。
『なるほどそう言うことか…暇だねえピエロの皆さんも』
「ピュア貰いに行ってたんだよ。それこそそんな事どこで知ったのか知らないけど」
圭吾は身バレした以上は、蒼真が本当にバイオレットなのかどうかを確認したかった。
ムキになって少し言い過ぎた感はあるが、それでも素性を明らかにしたい。
「それならなんのために俺たちの事を調べ…」
「だからっ!」
ダイニングテーブルの上で、蒼真のブルーのカップが跳ねて倒れた。
テーブルを叩いた手も痛かったが、嘘を突き通すことだって胸が痛いのだ。もう…勘弁して欲しかった。
今ついてるウソを、鵜呑みにしてくれとまで願う。
「圭吾に面倒見てもらうのに、そんな監視されるような仏頂面見んのヤなんだよ…。しばらく一緒に居るんだから…そんな怖い顔したやつと一緒にいるの嫌じゃないか…」
「それだけで俺たちのことを調べたのか?」
「そうだよ!なんでそんななのかを知りたかっただけだ!悪気なんてない」
テーブルについた手に雫が落ちて、蒼真は『え?』と自分の瞼に指を当てた。
「何も泣くことはないだろう」
流石の圭吾も額に手を当ててしまう。泣きたいのはこっちの方だ、と思ってみても駄々っ子のような蒼真の涙は今の圭吾には威力があった。
「泣いてないよ!でも、俺だっていつまでもこんな事話してたくない!」
なんだかもう完全に駄々っ子と化してしまった蒼真は、腕で涙を拭い音がするほどの勢いで椅子にどっかりと座り直す。
「そんな顔をしていたとは気が付かなかった…不快な思いをさせていたようだな」
学生時代からポーカーフェイスには定評があったはずだった。もっと自分の感情を抑えることも、もっと冷静な思考を巡らせることも出来るはずなのに…蒼真と関わってから何かが狂っている。
次第に穏やかな感情が無くなってきているのが判るのだ。特に蒼真たちがバイオレットの容疑者だと聞かされたあの日から…
「どうすればいいんだ…?」
泣く子には勝てなくて、つい甘言に走ってしまう。
ギリギリの攻防はどうやら蒼真に軍配が上がり、どうやら蒼真は身バレしないまま圭吾と別れることができそうだ。
「明日…映画行って、ジオポリス行って、旨いもん食わせてくれたら気が晴れる」
当初からの目的をツラツラと言ってのけて、まだ赤い目で笑う。
「わかった…」
深いため息と共にそう言って、圭吾もリビングのソファに座った。
有耶無耶にされた感は否めないが、蒼真が言うようにいつまでも議論をしていても始まらない。蒼真とはしばらく付き合わなければならなそうだから、重要な事を知られた口止めはじっくりしようと思った。
まだバイオレットの容疑が晴れたわけではないが、圭吾は知らずのうちに蒼真の言葉を半分くらい信じてしまいそうでいる。
蒼真は、もうすぐ2度と会えなくなるのだから、圭吾には笑っていて欲しかった。容疑がかかっていようとそんなことは実は関係なく、最後に見る圭吾の顔は笑っていてほしい。ただそれだけだった。
「お前好きだよなそれ」
ジオポリスで蒼真が見つけたのは、圭吾と最初に会った酒場にあったアーケードゲーム機。見つけた瞬間飛び乗って、それ以来30分ほどずっとやっている。古いゲーム故、他にやる人もいないから蒼真専用機だ。
「だってこれ本当に面白い。圭吾もやってみろよ」
「遠慮しておく。酔いそうだ」
圭吾が手にしているコーラを見て俺のも買ってきてとせがまれ、圭吾は自販機へ向かう。ゲーム中なんだからすぐには飲めないだろうに、とは思うが一応買っておこうと歩いた先に、見覚えのある男が柱の影に立っていた。
圭吾は踵を返し蒼真のところへ戻ると、
「蒼真出るぞ」
「え、なに?コーラは?それにゲームがまだ…」
「そんな場合じゃない、黒服がいる。デートもお終いだ帰るぞ」
圭吾が頭で示す方を見ると、確かに見覚えのあるガタイのいいおじさんがいた。
「情報はやいなぁ…」
柱の影で気づかれていないと思っている黒服おじさん。しかしそんなことでデートの邪魔をされるのは癪に触る。
「撒こうぜ圭吾」
「撒くって…おい」
「ハラジュクに知り合いの店があるんだよ、そこまで引っ張り回すうちにはどっかで撒けるでしょ」
「歩くのか」
ハラジュクと言ったらここはスイドウバシだ。歩くには少々うんざりする距離。
「車で行かないか…」
「車の方が結構自由聞かないって知ってる?こう言う時は歩いたり走ったりする方がいいんだよ」
いいから、と蒼真は圭吾の腕を引っ張って店を出る。
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