俺は負けたくないだけなんだよ!色々とね (自称ロードスターシリーズ最初の話)

とうこ

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クリームパンは好きですか?

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 駒爺を家に届け、荷物を下ろしてると
「久しぶりに顔を見てしもうたのぅ」
 軽いものだけを持って車を降りて、後ろを通りながら駒爺が面白そうに呟いて去ってゆく。
 駒爺も、てつや側から文父との軋轢は聞いている。面白がってはいるけれど。
 まあ、側《はた》からみたらおもしれー事なんだろうなぁ…若気の至りの自分を恨むよ…
「てっちゃん!これは爺さんの?てっちゃんの?」
 工具箱を指して、文ちゃんが言ってくるけど持とうとはしない。
「それも駒爺のだよ、文ちゃん持って行ってあげない?」
「重いからねー」
 俺かよ…ーはいはいーてつやは駒爺の配線用ケーブルや接続ユニットなど細かいものが入ったリュックを片方の肩に下げ、工具箱を持って駒爺の開発研究室へと運んでいった。
「これだけかな、じゃあ俺たち帰るから。なんか欲しいものあるか?買ってくるけど?」
 研究所に入った駒爺は、もうペッ…ソルティ君の昨日転んで壊れた部位の修理に入っている。
「飯とかいいんだな?」
「大丈夫じゃ!わしは最近、飯としょうゆにハマっておる。他のものはいらん」
 そう言う食べ方は良くないよじーさん…
「そんなもん食ってっと、脳みそパーンだぞ。構わないなら良いけど、俺の装備は終わらせてからにしてくれよな」
「てっちゃん 言い方~。じーちゃん、俺がのり弁買ってくるからそれ食ってよー。身体大事にだよー」
 文ちゃんの優しい言葉にも駒爺は片手を挙げて応えるのみ。
「文ちゃんほっとこう?じいちゃん歳で頑固になっちゃってるから。醤油ご飯でいいんだって」
「そう言えばのぅ。ツヤツヤ亭のステーキ弁当は柔らかくて、年寄りの歯にも優しいそうじゃぞ?」
 てつやと文ちゃんは顔を見合わせて、肩をすくめた。
「俺らそれ昨日食ったからいいや」
 そう言って研究室を後にした。まあ、買っていくんだけどね。

「ねえてっちゃん」
「なんだい文ちゃん」
 駒爺に弁当を届けた帰り、車の中で文ちゃんは前を向いたままてつやに➖聞きたいことがある➖と顔も見ずに言ってきた。
「てっちゃんは、うちのとーちゃんと何があった?」
 まあ、今日のアレ見たらそうくるよね…
「とーちゃん明らかにおかしかったよ。てっちゃん見てから」
 ほんとにあの親父は…こめかみに血管浮いちゃうぞ。
「あ~、昔ね?文ちゃんとーちゃんが俺のことで勘違いした事があってね、それで、俺見るとそのこと思い出すんじゃないかな」
「確かにとーちゃん顔赤くしてたな」
「ちょっと恥ずかしい出来事だったからね。俺もその勘違いは嫌だったからさ、だから俺も文ちゃんとーちゃんに会いたくないんだ」
 文ちゃんは下を向いてしまった。
 20歳の割にちょっと小柄な文ちゃんは150cmしかなく、185cmあるてつやからすると弟と言うよりは子供みたいな感じだ。
「だからこれからもさ、会わないように協力してよ」
 文ちゃんは俯いたまま頷いていた。
 ありがとうな~と文ちゃんの頭を撫で撫でしていたら、
「あれ、電話だ」
 てつやのスマホが鳴って車のスピーカーで受ける。文ちゃんに聞かれてまずいことはあまりない。
『てつや?銀次だけど』
「銀次か珍しいなこんな時間に。いつもならまだパン焼いてる時間だろ」
『昨日まっさんから聞いたぞ。本気なのか?エントリー』
 あ、この話は珍しく文ちゃんには聞かれてまずい話だ。
「ああ、その事か。それな、今夜まっさんと俺ん来て話さねえか」
『判った』
 口数は少ないけど、律儀なパン屋の銀ちゃん。何かを察してくれたようだ。
「パン持ってきてね」
『余ったやつと新作持ってくわ』
 そう言って電話は切れた。
「皆さん心配してくれてるね。てっちゃんエントリーしたらやっぱダメだったの?」
「いや、あいつらが少し心配しすぎなんだよ。文ちゃんは心配しなくていいからな」
 隠し事は知らないでいれば良いけれど、何か仄めかされると気にはなってしまう。素直な文ちゃんが、ここで引き下がってくれるかは文ちゃんに任せるしかない。
 文ちゃんは難しい顔をして前をじっと見ていた。
 納得してないか…
「ずるいよ…」
「へ?」
 やっぱ引き下がってくれないかぁ…今回の大会が自分のケツがかかった大会だって言うのやだなあ…
「俺も銀ちゃんとこのパン食べたいよ!」
 そこかい!
「あ、ああパン食べたい?じゃあ後で銀次に多めに持ってきてくれるように頼んでおくから。明日でもいいか?」
「やだやだ、今日たべる!」
 文ちゃんはきっと、夜集まる事は自分が参加してはダメなことを解っている。本当は参加したいけどダメだから、そこで食べるパンを今食べたい。そんな思考をしたんだろう…
「じゃあ銀次のとこ寄ってから帰るか…」
「やった!」
 てつやはなんでかこの文ちゃんには敵わない。可愛いやつ、という子分感覚ではあるのだが、なんでなのかは自分でも良く解ってない。
 まあ慕ってくれてる人間を無碍にはできない、が大きい気はするが、たぶん…無意識下でてつやは文治を防波堤にしているのだと思う。
 文治をそばに置いておく、仲良くしていればまさかあの親父も『息子の友人』には手を出すまい…という…。まあ、それ気なことがあったらしい。
 気苦労多いてつやであった。
 パンは、てつや払いで文ちゃんの好きなだけ買ってあげた。店に行ったら奥の厨房で銀次が驚いていたが、いつもの文ちゃんか…と笑って引っ込んでいった。
「パン屋さんていっぱい買っちゃうね」
 黒と赤の斜線が走った銀次の店「ふらわあ」のパンバッグを二つ抱えて、文ちゃんは嬉しそう。
「銀次さんのところのパンは美味しいから、かーちゃんもここまで買いに来るよー」
 てつやの部屋で、文ちゃんは自分で麦茶を用意してパンを食べ始めた。てつやも朝以来食べていなかったから、自分のも2.3買ってきてペットボトルのコーヒーをラッパ飲みしながら一緒に食べる。
「今回の武器かっこいいね!あれ難しい?」
 今日の実証実験を文ちゃんは結構真面目に見ていた。
「指を覚えるまではちょっとな。指って無意識に動かしちゃうから、意識するってのが難しいんだよ」
 そう言えばと思って、右手で薬指と小指をワキワキ。
「てっちゃんおかしいぞ?だって俺できる」
 文ちゃんはクリームパンみたいな右手を出して、中指を曲げないで薬指と小指を曲げてみせた。ちなみに文ちゃんは、150cm58kgくらいのちょっとぽっちゃりちゃん。そこがまたてっちゃんに可愛がられる要素なのかも。
「えええ!俺だけ?普通の人中指つられないんか?」
 ドヤァな文ちゃんの指を見て尊敬顔のてっちゃん。てっちゃんにできないことが俺にはできるもんね。という極たまにの出来事に、文ちゃんは良い気分だ。
「練習あるのみだな…」
 いまだに釣られる中指を見て、闘志が沸いたてっちゃんなのだった。
 
 その日の夜になって、まっさんと銀次がてつやのアパートにやってきた。
「相変わらずな部屋だな」
 切れ長な目をー仕方ねえなあーといった風に綻ばせて、まっさんはいつもディスってくる。
「今日は文治が掃除してってくれたから、座っても埃つかねーよ」
「それはいつもにしてくれや」
 そう言って軽めのリーゼントの銀次も入ってきた。
「ほれ、パン」
 図らずも昼間食っちゃったけど、銀次のところのパンは美味いから、今日の晩飯がわりにみんなで食う。
「そういや最近京介みないね」
 冷蔵庫に向かいながらてつやは、なかなか集まれないもう1人の仲間の名前を出した。
「ああ、あいつ今すげー勢いで働いてるから当分無理じゃないかな」
「なんで?」
「ロードが発表されただろうが。そのために休む分を今やってんだよ。お前のエントリー聞いてからな」
ーなるほどねー
 京介というのはロードの時は車担当で、運転が上手いから掴まっての移動の時非常に助かる人物である。いつも残業が多くて、なかなか集まれない仲間だ。
「水か、ペットコーヒーしかねーけど」
 冷蔵庫の前で一応聞いてみるが
「どうせ両方ラッパ飲みしてんだろ、俺らは自分の分買ってきたからお構いなく」
 まっさんは鋭すぎるところが難点だよな。とぶつぶついいながら、昼にラッパ飲みしていたコーヒーをもってちゃぶ台についた。
「今回どんな首尾なんだ?」
 ふらわあの1番人気はクリームパンだ。余りそうもなかったから、取っといたと優しい銀ちゃんの心遣いで、昼にも食べれなかった幻のふらわあのクリームパンにありつけた。
「久しぶりのクリームパンだわ~。相変わらず美味いな」
 クリームパンを二つに割ったてつやが、嬉しそうに頬張る。
「大袈裟なんだよ」
 満更でもない顔で銀次もクリームパンを口にした。
「で、首尾は!」
 やはりクリームパンを頬張りながら、まっさんさっき話聞いてもらえなくて声大きい。
「あ、ごめ。駒田の爺さんがさ、なんか去年から武器つくっててさ、それを見せてもらって、きょう実装して走ってきたんだよ」
「へ~、どんなだった?」
 てつやは、グローブ嵌めて指の折り曲げ操作でスピードやブレーキを効かせる話を聞かせた。
「スピードはどのくらいなんだ?」
「体感だけど、50か60かな」
「下道で車に掴まったくらいか」
 でも、文治の家のロータリーだから、直線はわかんないなと続ける。
「まっすぐも測りたいよな…人目につかない直線ってどこだ?」
 様々な意見を出し合い、本番に向けて作戦を立てるのが、毎回この3人と1人のルーティーンだった。
 勿論3人はエントリーするが、その内2人は大抵てつやのフォローにまわり、斥候とケツモチで高速か下道かを的確に誘導してくれたり、後方からやってくる追手を逐一てつやに伝えたりする。
 そして京介は、車で流しながら、3人の水分補給や掴まって走るサポートなどをするのだ。
 文ちゃんは18歳で免許をとり、ロード参加を楽しみにしていたが、3年間開催されず、今回が初参加。
 京介とともに、車でサポート業務をする。 
 このゲームの厳しいところは、前日にならないと到着場所が公開にならないところだ。
 前日の正午丁度に、運営のHPでゴールが発表され、参加者はその直後からルート決めに入る。
 集合は今回、国立競技場。その日はイベントがあって参加者が紛れてもわからないと言う理由だろう。
「ゴールはどこになるんだろうなぁ…」
 クリームパンを食べ終えた銀次は、海老カツの惣菜パンに手をつけた。
「高速使える場所ならいいけどな」
 てつやの2個目はメロンパン。
「てつやを勝たせたいんだろうから、あるに決まってるじゃん」
 まっさんが嫌な笑みでてつやをみた。
「そうだ、その話に来たんだった」
 と銀次。
「本当にいいのか?俺たちは全力サポートするけど、勝っちまうとさ…」
 お金持ちの別荘がひしめき合う、おフランスの観光地『ニース』 そこでハラハラとバラを散らすてつや…
「変な妄想すんなよ?銀次」
 銀ちゃんは顔に似合わずそう言うことを普通に妄想する人。多分だけどBLとか読んでんじゃねえかなと、仲間内では噂されている。
 顔に似合わずとか言ったが、ソフトではあるがリーゼントっぽい髪型に固執している手前、80年代のヤンキーを思い浮かべて間違いない容貌している。
 そんな成りで、思考は結構乙女。
「主催者知ってエントリーするんだから、大崎に身を任す覚悟はあるんだろう?」
 銀次はそう言うが
「そっちの覚悟なんてねーよ!大崎だぞ。ただ俺はロードが好きで、大会があったら絶対出たくて、出たからには絶対に勝ちたいだけなんだよ」
 てつやは純粋にロードが好きなのだ。だから逆に、こんな手段でロードを開催する大崎大将やつは許せなかった。
 優勝して、盛大に振ってやろうと思っている。振るとかそう言うのもうざいのだが、こうなっては仕方がない。公衆の面前で振ってやるんだ!と息巻いていた。
「なるほどね、そう言うテもあるか…。まあいつまでもあいつに怯えてたってしかたねえしな」
 まっさんも納得してくれた。
「じゃあ話戻るけど、その新しい武器の直線実証はどうするか」
「直線って案外難しいよな。そんで人目のつかないところだろ?ん~~」
 色々考えつくところはあるにはあるが、人目がありすぎて武器の盗用とかも気をつけなければだから悩む。
「まあ…真夜中の商店街くらいしか思い浮かばねえよなぁ…」
「お、銀次いいところ気づいたじゃん。いいなそれ。商店会長に話通しとけば1時間くらい借りられんじゃね?スピード測るだけだし」
「酔っ払いだけ気をつければな…」
「「ああいるいる…」」
 てつやとまっさんがハモってうんざりした。
 と、言うわけで、商店街を300mほど借りて、最高何km出せるかの検証も行われる算段はついたが、商店会長が誰なのかと言う問題に…
「銀次知ってるんじゃないのか?」
てつやが問うと
「いや、知らねーよ?」
 おいおい…
「じゃなんで商店会長の名前出すんだよ!」
「商店会長の名前出したのはまっさんだ。それにそう言う人は確実にいるだろうよ」
 それはそうだけど…
「ネットで調べられるかな」
 てつやがノートパソコン開いて
「お天気商店街、商店会長…と」
 画面が開けててつやは固まった。
「なんだよ」
 まっさんがパソコンを覗き込んでーあれれーとてつやの顔を見る。
「何?まっさん」
 銀次が2人の様子に不思議がってまっさんに聞いた。
「お天気商店街 商店会長『横山 孝和』 だって」
「横山…孝和…?きいたことあ…ああ!」
 銀次も気づいたらしい。
「文治の親父じゃん!」
 まっさんはてつやに
「お前本当に今回大丈夫か?」
 と半ば笑いそうになりながら、てつやの肩を叩いた。
 てつやは付きまとう自分の運命に。ただ茫然とするしかなかった。(大袈裟)


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