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しおりを挟む扉を開けるとそこには、黒く輝く魔法陣。その中心に、ひとつの骸があった。
それは王のような装束をまとった屍で、時間の流れに晒されてなお、どこか威厳を残している。だが――
「……来たか、我が後継者よ」
骸が動いた。
まるで魂を縫い止めるように、魔法陣の中心から紫黒の魔力が溢れ出す。
「死してなお……この地を守る、我が意志を継げるか!」
魔力が骸を包み、ぐにゃりと形を歪める。
やがてそこに立っていたのは――漆黒の鎧に身を包み、紅く光る眼孔を宿した、亡霊の騎士。
「出たな……ボス級のヤツか!」
「魔力の濃度……やばい、あれ、普通の魔獣じゃないわ……!」
純子が身構える。
「古代の英霊、かつての守護者……でも、魔力に侵されて、もう正気じゃない……!」
卓郎は敵の気配を読みながら呟く。
亡霊騎士は黒き剣を振るい、魔力の斬撃を放ってくる。
亡霊騎士の漆黒の刃が振り下ろされるたびに、空気が軋み、床が割れる。
圧倒的な暴力の前に、パーティ全体が後手に回る形になっていた。
「こんなの……冗談じゃないわね!」
純子が腰の矢筒から一本の“特別な矢”を抜いた。
赤い魔力が淡く灯る――火魔法をエンチャントされた、『炎の矢』だ。
「一回目、いくわよ!」
三人は弓を引き絞り、狙いを定め、放つ。
火の矢が唸りを上げて飛び、亡霊騎士の右肩に直撃。轟音と共に爆ぜた。
「効いてる! 魔力の鎧が割れた!」
有紗がすぐさま叫ぶ。
「二回目……っ! 左脚を狙って!」
純子が号令をかける。
彼女たちの炎の矢3本は、亡霊の左脚を撃ち抜き、動きを鈍らせた。
だが、亡霊騎士は怯まず、すぐに魔力で傷を再生しようとする。
その隙を狙って、沙耶が矢を番えた。
「腰部の魔力コアがあるわ。狙いましょう!」
「私だって……当てるんだから!」
背後を取るように走りながら、矢を放つ――
三本の炎の矢は、亡霊騎士の腰部の魔力コアをかすめ、焦げた煙を上げた。
「っく、でも……まだ……!」
亡霊騎士が反撃に転じる。
黒剣が虚空をなぞると、紫黒の斬撃が蛇のように走り、沙耶の背後を突いた。
「きゃああっ!!」
魔力に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる沙耶。弓が手からこぼれ落ちる。
「沙耶!」
有紗が叫び、純子が前に飛び出す。
「このままやらせるもんですか! 四本目!」
純子の炎の矢が、亡霊騎士の顎下に突き刺さり、爆発。
立て続けに有紗が四本目の矢を撃ち、足元に火柱を巻き起こす。
だが――
「もう矢が……!」
「私も、残り一本だけ……っ」
戦況は依然、厳しい。
それでも、二人は前に出た。
「沙耶は任せて! 私たちが引きつける!」
「絶対に、もう傷つけさせない!」
矢筒が空になることを覚悟で、最後の炎の矢を同時に放つ。
二筋の火が交差し、亡霊騎士の胸を撃ち抜いた。炎が爆ぜ、亡霊の動きが一瞬止まる。
その一瞬を逃さず、卓郎が駆け寄った。
傷ついた沙耶のもとに膝をつき、手をかざす。
「ヒール!」
白い光が沙耶の傷を包み、痛みを和らげていく。
「……卓郎……ありがとう……でも、まだ……終わってない、よね……?」
卓郎は頷いた。沙耶の手をそっと握りしめ、立ち上がる。
「無理すんな。でも、あいつは――」
卓郎は視線を亡霊に戻す。
亡霊騎士が、再びゆっくりと剣を構える。
鎧は焦げ、動きも鈍い。だが――それでもなお、底知れぬ魔力が渦巻いていた。
(魔法じゃなきゃ通じない。そして今の火力じゃ足りない。なら――)
卓郎の脳裏に、ひとつの閃きが走った。
“スキルの合成”――今まで考えたことすらなかった、ありえない発想。だが、今ならできる気がした。
「――ファイアバレット。ヒール」
魔力を集中させる。
赤き攻撃魔法と、白き回復魔法。相反する力が、卓郎の剣に同時に流れ込む。
火が爆ぜ、光がうねり、ミスリルソードが神々しい輝きを帯びる。
『浄化剣・セラフレイム』――それは、炎と癒し、破壊と救済の奇跡の剣。
卓郎は剣を掲げた。
その光に、純子も、有紗も、沙耶も目を見張る。
「卓郎……っ!」
俺はただまっすぐに敵を見据えた。
「俺がやる。みんな、援護を頼む!」
駆け出す。風を切る音すらも、熱に焼かれ消えていく。
亡霊騎士が再び剣を振り上げたその瞬間――
「行かせない!」
純子が叫び、身を挺して矢を射る。
魔力の矢ではない。だが、動きを止めるには十分だった。
「お願い、卓郎――!」
有紗と沙耶も、空になった矢筒を投げ捨てて叫ぶ。
仲間の声が、卓郎の背を押した。
「――喰らえっ!!」
卓郎の剣が、真紅の軌跡を描いて振り下ろされた。
『セラフレイム』の一撃が、亡霊騎士の胸部、紅い魔核の中心へ突き刺さる。
炎が爆ぜ、白光が周囲を覆い尽くす。
「があああああッ……!!」
亡霊騎士が、咆哮を上げる。紫黒の魔力が焼かれ、皮膚が、鎧が、溶けていく。
だが――
「……終わりでは、ない……!」
その声と共に、瘴気が溢れ出す。
身体が崩れ、黒煙となり――そして再構築される。
亡霊は、今度は人の姿を捨て、獣のような巨躯に変貌した。
全身を覆う瘴気は、触れるだけで命を奪う。
顔は仮面のように無機質で、目だけが紅く、地を這う怨嗟の色を放っている。
「第二形態……!?」
純子が目を見開いた。だが、すぐに叫ぶ。
「でも、今ので確かに効いてたわよ! 卓郎の攻撃、あれが鍵よ!」
膝をつきながら、卓郎は震える手で剣を支えた。
呼吸は荒く、全身が痺れていた。それでも、瞳の奥に宿る光は消えていない。
「……行ける。まだ……やれる……!」
諦める気なんて、微塵もない。
卓郎は立ち上がる。剣を握る手に、再び魔力を集中させた。
燃え上がる赤の焔と、柔らかな白の光。
二つの魔力が渦を巻き、剣に宿る。だが、今度はそれだけじゃない。
――スキル『完全見切り』、発動。
時が、止まったように見えた。
亡霊の動きが、まるでスローモーションのように見える。
(見える……全部、見える!)
卓郎は地を蹴った。亡霊の黒い瘴気が広がる中、空間を裂くように突っ込む。
その手にあるのは、灼熱と浄化をまとった――『セラフレイム』の剣。
「――一閃!」
斬撃が影を裂く。白炎が炸裂し、瘴気が弾け飛ぶ。
亡霊が吼えるが、その瞬間、卓郎は再び構える。
「――二閃!」
『完全見切り』の効果時間は30秒。
その間、卓郎の動きに無駄はなかった。
一撃、また一撃。剣閃は雷光のように連なり、亡霊の身体を刻み続ける。
「三閃! 四閃!!」
全ての攻撃を見切り、回避し、反撃する。
黒い魔影は形を保てなくなり、叫び声がどこか怯えに変わっていく。
「これで……終わりだッ!!」
最後の跳躍。
空中で、卓郎は剣に残る全ての魔力を――いや、“無限”に湧き出す魔力を――注ぎ込んだ。
剣が眩い光に包まれる。もはや炎ではない。
それは、浄化の神火。あらゆる邪悪を焼き尽くす、天の裁き。
「――『浄化剣・セラフレイム』ッ!!」
剣が、亡霊の中心を穿つ。
白い光が爆ぜ、黒き魔を飲み込み、焼き尽くしていく。
「アアアアアアアアア……ッ!!」
絶叫が空に響き渡り、やがて音が掻き消えた。
亡霊の巨体が崩れ、塵と化して空へと消えていく。
静寂が訪れた。
卓郎は、すっとその場に膝をつく。
――勝った。
遺跡の魔力が、風に乗って消えていく。
そこにはもう、怨嗟も狂気もなかった。ただ静かに、終わりの気配が広がっていた。
「卓郎!!」
純子、有紗、沙耶が駆け寄り、彼の肩を支える。
卓郎は、額から汗を流しながら、微笑を浮かべた。
「……終わった……今度こそ、ね」
剣をそっと地面に置く。
光の粒が剣から立ち昇り、夜明けのような温かさを残して、空へと還っていった。
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