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しおりを挟むそれからさらに三日。
俺たちは灼熱地帯を進み、ついに目にした。
――《天穿の塔》。
地平線の彼方に、雲を突き破るような、巨大な岩の塔がそびえ立っていた。
「うわぁ……でっかい……」
沙耶が口をぽかんと開ける。
岩壁は赤黒く焼け焦げたような色をしていて、まるで天まで届く巨人の腕のようだ。
塔の周囲には、吹き荒れる熱風と、奇妙にねじれた岩山が無数に広がっていた。
「……なあ、あの塔、どうやって登るんだ?」
明が言いながら、汗だくの顔をしかめた。
たしかに――見上げても、入口らしいものは見当たらない。
ただ、表面には無数の亀裂や足場になりそうな突起がある。登れってことか?
「まぁ……やるしかないよね」
純子があきれたように言う。
「登山だね!」
沙耶がニコニコしながら弓を背中に回した。
「しょうがねーな。気合いを入れよう。……頂上に、第四の言葉があるんだ」
明は剣を軽く振って情けなさそうに気合を入れた。
塔の登攀は、想像以上に過酷だった。
表面の岩はもろく、手をかければ砂のように崩れる箇所も多い。
熱風が吹き上げ、バランスを崩せば真っ逆さまだ。
「……こんなところ、作ったやつの顔が見てみたいわね」
純子がゼェゼェ言いながらぼやく。
「俺はもう会いたくない……」
明もぐったりだ。
ロメオはなぜか嬉しそうに「これは古代の試練だな……ふむふむ……」と、メモを取りながら登っている。さすが変人だ。
「みんな、あと少し!」
有紗が励ましてくれる。
その声に背中を押されて――
ようやく、俺たちは塔の中腹にぽっかり空いた洞穴にたどり着いた。
洞穴の中は、驚くほど静かだった。
灼熱の熱気も、吹き荒れる風も、ここには届かない。
奥に進むと、微かに輝く光が見えた。
近づくと、そこには――
またしても浮かび上がる、《光の碑文》。
静かに、でも確かに、俺たちを待っていた。
「ここだ……第四の言葉」
俺はつぶやいた。
碑文に手を伸ばすと、あたり一面に再び淡い光が広がった。
浮かび上がった映像は――
《水の都》だった。
かつて存在した、美しい水上都市。
運河が網の目のように張り巡らされ、白い石造りの街並みが陽光にきらめいていた。
だが、その水も、やがて黒く染まり、腐敗していった。
人々は逃げ惑い、街は沈み、飲み込まれた。
そして、またもや――
黒霧の中心に、ぼんやりとした《影》。
それは確実に、少しずつ、その輪郭を鮮明にしてきていた。
「……これも、滅びの一端……」
ロメオが静かに言った。
そして、碑文に新たな言葉が刻まれた。
【白き水面に沈みし都に、第五の記憶は眠る】
「水の都……」
有紗がぽつりとつぶやく。
「次は、白い湖か、沈んだ都市を探さなきゃだね」
沙耶が、ぱたぱたと帽子のつばを仰ぎながら言った。
「――よし。次は、水の記憶だね!」
ロメオは力強く頷き、手を差し出す。
第四の言葉を手に入れた俺たちは、自然と輪になり、静かに拳を重ねた。
かすかな砂埃が風に舞い、夕日が俺たちの影を長く伸ばす。
「ねえ、白き水面に沈みし都って、あれじゃない?」
有紗がふと思い出したように言った。
透き通るような声に、みんなが顔を向ける。
「あ! あのじいちゃんのいた村の?」
明が、ぱっと目を見開いた。
「湖畔の村《浪花》のそばの湖ね? 湖の中からも遺物が見つかったって言ってたし、水の中に何かありそうよね」
純子が、腰の弓を軽く叩きながら言う。
「なんだって?」
ロメオが興味津々といった様子で言いながら、旅鞄をごそごそと漁る。
そして素早く地図を取り出し、パッと地面に広げた。
「たしかに、ここには大きな湖がある。名前は……《白湖》だったな」
ロメオは地図上の村に指を走らせ、白湖の名を読み上げた。
「白湖……白い水面……名前もぴったりだね!」
沙耶が、ぱあっと顔を輝かせる。
「でも、沈みし都って言ってたよな? 今はただの湖にしか見えなかったけど」
明が首をかしげ、地図を覗き込む。
「もしかしたら、湖の底に沈んでるのかも。昔、そこに都市があったとか……」
有紗が、小さく息をのんで推測した。
「確かに……」
明が、しげしげと地図を見つめて首を傾げる。
「そういや、浪花の村の爺さんが言ってたな。昔話で、湖に沈んだ《白の都》の伝説があるって」
「それってつまり――ビンゴじゃん!」
純子が弓を肩に担ぎ直し、得意げに笑った。
俺たちの間に、熱い高揚感がじわじわと広がる。
まだ見ぬ言葉、まだ見ぬ記憶。
それが確かに、すぐそこにある気がした。
「よし、決まりだな」
ロメオは拳を握りしめ、力強く宣言した。
「次は、《浪花》の村へ行って、白湖の調査だ!」
「うん!」
「行こう!」
沙耶と有紗が、力強く頷く。
ロメオは地図を器用にたたみ直すと、ふふんと鼻歌まじりに旅鞄へしまった。
夕焼けに染まる道を、俺たちは歩き出す。
それぞれの胸に、新たな記憶への期待と、少しの不安があった。
《白き水面に沈みし都》。
そこには、第五の言葉――そして俺たちの知らない、遥かな過去が待っているはずだ。果たしてそこが白湖の事なのだろうか。
焼けた大地に背を向け、俺たちは、涼やかな水の都を目指して白湖へと進路を取った。
白湖に近づくにつれ、風が、かすかに湿った、懐かしい匂いを遠く湖の方から運んでいた。
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