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しおりを挟む光が晴れて、足元に硬質な石の感触が戻ってきた。
……ここは、ダルフェリアの街。
空気が澄んでいる。淡い聖なる香気すら感じさせる、整然とした街並み。
俺の視界には、威圧感すらある白亜の壁がそびえていた。
陽光を跳ね返すような大理石の壁。その上部には、金色の十字架。そして七芒星の紋章――
――聖印庁の支部だ。
まるで城塞のようだった。街の中心に、揺るぎない意志と共に聳え立っている。
「見よ、我こそが正義なり」とでも言いたげな、静かで強い存在感。
ここに来た理由は、はっきりしている。
俺は神聖騎士――〈聖光の戦士〉の称号を持つ者なのだ。
魔族・黒刺狼の王に襲われていた少女――美里愛。
あのとき助けた彼女のことが、今も胸に引っかかっている。
放っておけるはずがない。
ミリア……記録の守人と同じ名前。なにか関係があるのだろうか?
……さて、どうするか。彼女の足取りを追うとして……まず聖印庁の支部で聞くしかないな。
彼女が言っていたこと――あれが現実なら、これから始まるのは、大陸全土を揺るがす問題だ。
美里愛の口から語られた、あの言葉が耳に残っている。
「この大陸には七つの災厄が封じられていた。瘴気に満ちた古代の神殿に。あの王は、その一つ。……私の故郷は、その封印の地を守っていた一族だったの」
「封印が……破られたのか? 理由はまだわかりません。けれど、何かが起きているのでしょう。瘴気が強くなり、霧があちこちに現れて、封印の獣たちが……目を覚まし始めています」
「王国中央教会……《聖印庁》に伝えれば、何か分かるかもしれません。封印の知識も、彼らが最も多く持っています」
試案にふけっていた顔を上げて聖印庁の支部を見上げる。
あれから何日もたっている。美里愛はもう王都の王国中央教会・《聖印庁》本部に向かって旅だったかもしれない。けれど、まずはここ――ダルフェリア支部で、彼女の足取りを探るしかない。
「……行ってみるか。会えるかどうかは、わからないけど」
俺はゆっくりと支部の門へと歩き出した。
入り口の守衛がこちらに気づく。身なりを観察するような鋭い視線が飛んでくる。
けれど臆する必要はない。俺は〈聖光の戦士〉の称号を持つ者。胸には神聖騎士勲章が輝いている。
重々しい鉄の門が静かに開いた。
俺は神聖騎士として名を告げ、胸の〈聖光の戦士〉勲章を見せる。守衛たちはそれを認め、軽く頭を下げて通してくれた。
聖印庁ダルフェリア支部――整然としたその内部には、静謐な空気が流れている。
石畳の回廊、壁に刻まれた聖句、香の微かな香り。すれ違う修道士たちが無言で歩む姿は、まるで聖域の儀式の一部のようだった。
受付に立つのは、黒衣の神官――若い女性だ。眼鏡越しのまなざしがこちらをとらえ、すぐに丁寧な声で応じてきた。
「ご来訪、感謝いたします。お見かけしたことがありますね……〈聖光の戦士〉殿」
「はい。商隊と一緒に七日前、ここまで一人の少女を連れてきました。名は――美里愛。魔族、〈黒刺狼の王〉に襲われていたところを保護しました。その件が封印獣に関係している可能性があったので、ここで報告してもらうようにしたんです。その後の彼女の足取りを知りたくて、今日はここに来たんです」
神官の目がわずかに見開かれる。記憶に残っていたのだろう。
彼女はうなずくと、背後の棚から魔導記録端末を取り出し、静かに詠唱しながら情報を検索し始めた。
数秒後、手が止まり、端末を閉じる。
「――確かに、七日前。美里愛と名乗る少女を受け入れました。体に外傷はありませんでしたが、状況は緊急性が高いと判断し、翌日には王都《聖印庁》本部への紹介状を発行しております」
「じゃあ……今は、もう王都に?」
「はい。記録によれば、美里愛殿は翌朝には出発しています。ただし――」
「ただし?」
神官は少し迷うように視線を落とし、それでも答えた。
「本部からは、まだ正式な報告が戻っておりません。無事に到着したかどうか、こちらでは確認できていない状況です」
ここから王都までは、馬車なら二日の距離。もうとっくに王都についている頃である。無事に着いていれば、もうそろそろ本部から連絡があるはず――そうは言わないが、言外にそういう意味がにじんでいた。何かの事件に巻き込まれていなければよいのだが。
「ありがとうございます。情報、助かりました。……もう王都に着いていたとしても、報告するだけで済むとは思えないですよね。もしかすると、封印の件で本部が動き出してるかもしれない」
「その可能性はあります。特に〈黒刺狼の王〉という存在が、封印獣の一角であるならば――本部も黙ってはいないでしょう」
俺は短くうなずいた。
道は決まった。次に目指すべき場所――それは、王都・グランティア。《聖印庁》本部。
「途中で何かあったとは、思いたくはないですが……急いで王都の《聖印庁》本部に行ってみます」
神官が静かに微笑む。
俺は踵を返し、王都の《聖印庁》本部に向かった。
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