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しおりを挟む「リーナの《錬金術師グレン》との専属契約を祝ってかんぱーい。おめでとうー!」
「ありがとうございます。これも卓郎さんのポータルシフトのおかげですね」
居酒屋「金狼亭」は、冒険者たちに人気の酒場だ。木造の落ち着いた店内には、今日もあちこちで武勇伝と笑い声が飛び交っている。
冒険者ギルドを出た俺とリーナは後夕食を兼ねて奥の小さなテーブル席に座り、専属契約締結のお祝いの乾杯をしたところだ。
「いやー、まさか専属契約まで話がいくとはな。しかもグレンさん、結構気に入ってたぞ?」
「えへへ……でも本当に緊張しましたよ~。錬金術師ってもっと無愛想な人かと思ってました」
「まあ、ああいうタイプが一番怖いんだけどな。意外と優しかったな、あの人」
「……でも、卓郎さんがいてくれたからです。私、一人だったら絶対あの契約、うまくやれてなかったと思います」
「それはないな。ちゃんと交渉もしてたし、俺より落ち着いてたじゃないか」
「そ、そんなことないですよーっ。私、内心ずっとドキドキでしたもん!」
リーナはほっぺを少し赤くして、ジョッキのノンアルカクテルをちゅっとすすった。
「……でも、今日の報酬、本当にすごかったですよね。三十本で480万ゴルドって……」
「なにか欲しいものでもあるのか?」
「え? あっ、うーん……魔法覚えたいな。瞬間転移は無理でも、高速飛行ができたら移動に便利。もう一度、王都の魔術師ギルドで、魔法を教わろうかなぁ……でも、せっかくだから思い切って……」
リーナはちらりと、こちらを見た後、目をそらす。
「思い切って?」
「……その、ちょっと、いい旅館で温泉とか……行ってみたいなーって……」
「お、いいじゃないの。ついでに美味い飯も食って、部屋から星空でも見て……」
「え、え、ほんとに行くんですか!? ふたりで!?」
「そりゃあ、祝勝旅行的な……ってことでな。何日か休み取って、のんびりしようぜ。その後は、王都の魔術師ギルドで魔法の訓練。高速飛行が覚えられたらいいなぁ」
「終わったら、試練が待ってるんですね。でも、まあいいや。も、もうっ、卓郎さんってばそういうとこ、ほんとズルいです!」
顔を真っ赤にしてぷいっとそっぽを向くリーナ。でも耳まで赤い。わかりやすいにも程がある。
「ズルいってなんだよ」
「だって、ふたりで温泉旅行……そーいうの、ちゃんと言ってくれたら……心の準備とか……!」
「ん? ふたりって、いつものことだろ。準備って、何の?」
「う、うるさいっ! からかわないでくださいっ! 女はいろいろあるんです!」
そう言いながら、リーナは俺の腕に軽く肘鉄を打ち込んできた。結構痛い。一瞬息が止まったぜ。
「……でも、温泉旅行、いいな。俺もたまには広い温泉に入りたい。行こっか、ほんとに」
「う、うん……! 卓郎さんとなら……どこでも、ですけどねっ」
「えっ、今なんか言った?」
「言ってませんっ! 聞き逃しててください!」
どうせこいつは夜這いもかけられない『へたれ』だよ……と思いながら、ジョッキを持ち上げるリーナの目元は、どこか恥ずかしそうで、でも幸せそうだった。
「じゃあ、温泉……どこに行きます?」
リーナが少し声を弾ませて訊いてくる。
「うーん、どうせなら魔力の泉が湧いてる《精霊峡温泉郷》とかどうだ? 温泉に入るだけで疲労回復と魔力回復の効果があるらしい。ちょっと山奥だけど、静かで評判いいぞ」
「え、そんな贅沢な場所あるんですか? なんかもう……貴族の人たちが行くような所じゃないです?」
「まあ、ちょっとお高めだけど、今回の報酬で余裕あるしな。それに、リーナの祝勝旅行だし、奮発するってことで」
「……ん。じゃあ……行きたい、かも」
リーナが顔を赤らめながら、コクンとうなずいた。その仕草がなんというか……かわいい。
「じゃあ、宿の予約と移動の準備は俺がしておくよ。荷物はそんなにいらないし、2泊くらいでいいか?」
「2泊……!」
なぜかリーナの顔がさらに真っ赤になる。おい、おい、勝手に想像を膨らませてないか?
「そ、そっか……2泊……! えっと、じゃあ、私、明日ちょっと服とか買いに行ってもいいですか?」
「服? 今ので充分かわいいけど?」
「かわっ……!? な、なに急にそんなこと言うんですかーっ!」
椅子ごとガタッと後ろにのけぞるリーナ。顔真っ赤。店内の視線がちょっとこちらに集まる。やばいやばい。
「ごめん。いや、まあ、旅行って言ったら、ちょっとおしゃれしたいよね? いいと思うよ。分かった、明日、買い物つきあうよ」
「えっ、い、いいんですか? じゃあっ、じゃあ、朝から付き合ってくださいね! 王都の中央商区の通り、すごくおしゃれなお店並んでるんですよ!」
「うん、任せて。俺はストレージ持ちだから、荷物くらいいくらでも持てるよ」
「……あ、あの、じゃあ、旅行用の部屋着も……見ていいですか?」
「ん? 部屋着? ああ、いいけど……って、なんで目をそらして言うんだよ」
「べっ、別に意味はありませんっ!」
「そ、そっか。……まあ、でも、楽しみだな。温泉も、買い物も」
「……うん、わたしも。なんか、夢みたい……ふふっ」
リーナがふわりと笑った。ジョッキのグラス越しに見えるその笑顔に、こっちの心拍数もちょっと上がる。
「じゃ、明日は朝十時くらいに商区前に瞬間移動ってことでいいか?」
「はいっ! 寝坊したら怒りますからね、卓郎さん!」
「了解了解、気をつけるよ。じゃあ、明日はデートってことで――」
「デ、デデデデートぉ!?」
またジョッキを落としかけて、慌てて受け止めるリーナ。隣の席の冒険者がニヤニヤしてるのに気づいて、俺たちは同時に目をそらした。
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