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後のお話
1.囲い込む
俺達の最上級生になった日々も、ついに終わりを迎えようとしている。
そう、俺達。
今や下級生から『お姉様』と慕われ、微笑んで手を振れば黄色い声が上がる大人気令嬢となった、ニアさん。
と。
何でか昨日、由緒有る伯爵家に養子入りした俺、ルイ・フォーゲン。
「………ニアさん」
「んー?」
実は、下級生から慕われるのは嬉しいが、妙な姿を見られないよう気を遣わなくてはならなくなった事で、ニアさんはとても緊張する日々を強いられている。なので、昼食を食べる場所を変更した。王太子の婚約者という立場を最大限に有効活用して、学園内でも極めて限られた人間しか立ち入れない花園への立ち入り許可を得たのだ。
そんな訳で、冬が終わる頃とはいえまだ肌寒い初春でも、目を楽しませるほど花が咲いている温かい花園で、コッペサンドを食べている。
「俺がフォーゲン伯の養子になる件って、アデル様から聞いてました?」
「全っ然。昨日ルイ君と一緒になって聞いたのが初めてだよ」
「ですか…」
卒業まであと十日。そんな差し迫った状況で、俺はボイル・フォーゲンという老紳士の養子になった。
フォーゲン家がどれくらい由緒有る家かというと。一言では説明できないくらいには由緒有る家だ。
王国創始からずっと続く伯爵家で、初代の奥方は当時の王妹。伯爵というのも、伴侶に王妹を得た身で爵位まで望む訳にはいかないと、初代が侯爵を固辞したかららしい。その後もいくらでも侯爵に引き立てる話はあったが、王家に尽くす事に足る身分としては伯爵で十分だとそのままになっているだけだとか。
ちなみに、領地支配だけではなく、代々白蓉城という王家の後宮みたいな城の管理を任されている。
何が言いたいかというと、伯爵は伯爵でも、名門中の名門で、つまり、伯爵でも、アランカ家とは全く格が違うって事だ。
「何で俺が…」
「さぁ…アデルに聞いてくれないと」
「ですよねー…」
成績平凡。品行やや悪し。家柄格下。客観的に判断して、微塵も選ばれた理由が解らない。
というか、そんな俺が選ばれたせいで酷い噂が流れている。
『ルイは王太子公認のニアの愛人だ』
この噂の酷いところは、信憑性が高過ぎるところだ。
俺とニアさんがしょっちゅう一緒に居る友人なのは誰でも知っている事実。
ニアさんが王太子の婚約者で、卒業後は白蓉城を居城にする予定だという事も、比較的広く知られた事実。
人品骨柄に於いて、俺がフォーゲン伯を継ぐ事が役者不足な不相応人事なのも、誰でも判断できる事実。
そんな俺が、しょっちゅうアデル様の元に入り浸っているのも事実。
あえてはっきり言ってしまえば、俺の唯一とも言うべき長所が容姿しかないというのも残念ながら事実。
「はぁ…もっとちゃんと優等生しとけば良かったかぁ」
こうした事実だけを積み上げて、今回起きた結果の裏に何かあると仮定すると、先の噂のような裏があると皆が思うのだ。
下世話な連中になると、俺がニアさんとアデル様、どっちのベットにも潜り込んでるとか言い回っているらしい。全く失礼な話だ。アデル様はともかくニアさんは意外と貞操観念は堅いし、俺はアクス一筋だ。ここ二年一切会えてないが、仲良く文通している。
「就職先を見つけなくてはならない不安から解放されたと喜ぶべきですかね」
卒業後の就職先は決まっていなかった。とはいえ、アルカリ・ジャック三世として、ニアさんのアシスタントをしている分だけで、生活は十分できるほどもらっている。ただ、水物の商売だから、仕事が失くなった時のために基本となる仕事に就くべきかな、と思っていたのだ。だから、焦っていた訳ではない。
「どうかなぁー。あの腹黒王太子、多分骨の髄まで我々を利用する気だと思うし」
俺をフォーゲン伯にする事で、いったいアデル様に何の利益があるのだろうか。
結構な額を生むアルカリ・ジャック三世として、俺とニアさんをニコイチにしておきたいのだとすれば、わざわざ俺を伯の後継者にする理由はない。どうせ悪い噂は勝手に立つのだから、本当に公認の愛人、あるいはニアさんの召使にでもすれば良いのだ。
「はぁ…」
あーあ、癒されたい。アクスに会いたい。最近手紙も来ないし…何かあったかなぁ。そういえば、俺って意外と背が伸びたんだけど、アクスも伸びてるだろうか。伸びてなかったら拳一つ分くらいに身長差が縮んだはずなんだよな。ニアさんからアクスとクルスの話聞いてからちょっと思ってるんだけど、ここらで一つリバってのはどうだろうって。
そう、俺達。
今や下級生から『お姉様』と慕われ、微笑んで手を振れば黄色い声が上がる大人気令嬢となった、ニアさん。
と。
何でか昨日、由緒有る伯爵家に養子入りした俺、ルイ・フォーゲン。
「………ニアさん」
「んー?」
実は、下級生から慕われるのは嬉しいが、妙な姿を見られないよう気を遣わなくてはならなくなった事で、ニアさんはとても緊張する日々を強いられている。なので、昼食を食べる場所を変更した。王太子の婚約者という立場を最大限に有効活用して、学園内でも極めて限られた人間しか立ち入れない花園への立ち入り許可を得たのだ。
そんな訳で、冬が終わる頃とはいえまだ肌寒い初春でも、目を楽しませるほど花が咲いている温かい花園で、コッペサンドを食べている。
「俺がフォーゲン伯の養子になる件って、アデル様から聞いてました?」
「全っ然。昨日ルイ君と一緒になって聞いたのが初めてだよ」
「ですか…」
卒業まであと十日。そんな差し迫った状況で、俺はボイル・フォーゲンという老紳士の養子になった。
フォーゲン家がどれくらい由緒有る家かというと。一言では説明できないくらいには由緒有る家だ。
王国創始からずっと続く伯爵家で、初代の奥方は当時の王妹。伯爵というのも、伴侶に王妹を得た身で爵位まで望む訳にはいかないと、初代が侯爵を固辞したかららしい。その後もいくらでも侯爵に引き立てる話はあったが、王家に尽くす事に足る身分としては伯爵で十分だとそのままになっているだけだとか。
ちなみに、領地支配だけではなく、代々白蓉城という王家の後宮みたいな城の管理を任されている。
何が言いたいかというと、伯爵は伯爵でも、名門中の名門で、つまり、伯爵でも、アランカ家とは全く格が違うって事だ。
「何で俺が…」
「さぁ…アデルに聞いてくれないと」
「ですよねー…」
成績平凡。品行やや悪し。家柄格下。客観的に判断して、微塵も選ばれた理由が解らない。
というか、そんな俺が選ばれたせいで酷い噂が流れている。
『ルイは王太子公認のニアの愛人だ』
この噂の酷いところは、信憑性が高過ぎるところだ。
俺とニアさんがしょっちゅう一緒に居る友人なのは誰でも知っている事実。
ニアさんが王太子の婚約者で、卒業後は白蓉城を居城にする予定だという事も、比較的広く知られた事実。
人品骨柄に於いて、俺がフォーゲン伯を継ぐ事が役者不足な不相応人事なのも、誰でも判断できる事実。
そんな俺が、しょっちゅうアデル様の元に入り浸っているのも事実。
あえてはっきり言ってしまえば、俺の唯一とも言うべき長所が容姿しかないというのも残念ながら事実。
「はぁ…もっとちゃんと優等生しとけば良かったかぁ」
こうした事実だけを積み上げて、今回起きた結果の裏に何かあると仮定すると、先の噂のような裏があると皆が思うのだ。
下世話な連中になると、俺がニアさんとアデル様、どっちのベットにも潜り込んでるとか言い回っているらしい。全く失礼な話だ。アデル様はともかくニアさんは意外と貞操観念は堅いし、俺はアクス一筋だ。ここ二年一切会えてないが、仲良く文通している。
「就職先を見つけなくてはならない不安から解放されたと喜ぶべきですかね」
卒業後の就職先は決まっていなかった。とはいえ、アルカリ・ジャック三世として、ニアさんのアシスタントをしている分だけで、生活は十分できるほどもらっている。ただ、水物の商売だから、仕事が失くなった時のために基本となる仕事に就くべきかな、と思っていたのだ。だから、焦っていた訳ではない。
「どうかなぁー。あの腹黒王太子、多分骨の髄まで我々を利用する気だと思うし」
俺をフォーゲン伯にする事で、いったいアデル様に何の利益があるのだろうか。
結構な額を生むアルカリ・ジャック三世として、俺とニアさんをニコイチにしておきたいのだとすれば、わざわざ俺を伯の後継者にする理由はない。どうせ悪い噂は勝手に立つのだから、本当に公認の愛人、あるいはニアさんの召使にでもすれば良いのだ。
「はぁ…」
あーあ、癒されたい。アクスに会いたい。最近手紙も来ないし…何かあったかなぁ。そういえば、俺って意外と背が伸びたんだけど、アクスも伸びてるだろうか。伸びてなかったら拳一つ分くらいに身長差が縮んだはずなんだよな。ニアさんからアクスとクルスの話聞いてからちょっと思ってるんだけど、ここらで一つリバってのはどうだろうって。
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