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ザ・リアルエステート・ラプソディ
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不動産屋に張り出されている間取りを見るのが好きだ。特に用もないのに日がな一日眺めていたいくらい。
でもあまり長く眺めていると時折、店員が声をかけてくる。それが煩わしくて自由に眺めていられる時間は限られている。
最近は間取りなんてネット上でいくらでも見られるけれど。でもなぜだろう。不動産屋の店先に張り出されている多くても三十にも満たないあの間取りたちは、ネットで見る万を越える間取りたちの魅力を遥かに凌ぐ。
「お部屋をお探しですか? それとも戸建てでしょうか? 投資用もございますよ」
制服を着た若い女性に声をかけられて、しまった、と内心舌打ちをする。いつも人の動きに気をつけているはずなのに、その日は声をかけられるまでまったく気づけなかった。
「あ、いや、べつに……」
そう言って立ち去ればよかったのに。そこで立ち尽くしてしまったのが運の尽き。気づいたら店員に誘導されて店内に足を踏み入れていた。
いつもは通らない家の近所の裏通り。聞いたこともない不動産屋。きっと地域に根付いた個人店。
「急いで探していなくても、気分転換で見ていかれる方もいるので」
声をかけてきた女性店員の口車に乗せられて、知らぬうちに目の前には若い営業マンらしきパリッとしたスーツ姿の男性の姿。
「弊社、さまざま良い物件を取り揃えております。何なりとご希望をおっしゃってください」
にこやかな男性店員は、年季の入った革張りのファイルを机上に広げる。
「え、この場所に一軒家でこの値段?」
「あ、この部屋は動線良さそう」
「うわ、これってもしかして隠し通路ですか?」
目の前に次々広げられるのは、単身向け、家族向け、賃貸、戸建て、分譲など、てんでカテゴリー分けバラバラのまとまりのない魅力的な間取りの数々。
「まあ、今日決めていただなくても、じっくり考えて決めてください。気が向いたら内見も可能ですので」
あっという間に過ぎた時間はえも言われぬ幸福感に満たされて、帰り道はどこをどう通ったのか。いつの間にか自室のベッドの上で習慣になっているSNSチェックをしていた。
別段、今の部屋に不満があるわけではないけれど。
それでもあの魅惑の間取りたちをまた見たい。間取りの描かれた紙面を指でなぞりながら、実際の扉や壁の感触や動線を、そしてその先にある生活の様子を想像しながら貪るようにあの革張りのファイルのページをめくりたい。
また明日、あの不動産屋へ足を運ぼうか。
考えながらSNSのタイムライン上に広がるくだらない世界を眺める。
『弊社の物件は他では出ないオーナーさんがこだわり抜いた極秘中の極秘。決して弊社の取り扱う物件に関わるようなことは他言なきようお願いします』
にこやかだった営業マンが最後に真剣な表情で店先で放った言葉を思い浮かべる。
まあ特定できることは何も書かないし。
SNSの書き込みボタンをタップし、今の感情を赴くままに綴る。
「お部屋をお探しですか? それとも戸建てでしょうか? 投資用もございますよ」
制服を着た年配の女性に声をかけられ、しまった、と内心舌打ちをする。いつも人の動きに気をつけているはずなのに、声をかけられるまでまったく気づけなかった。
気づけなかった理由は、店先に張り出されていた間取りたちを夢中になって見ていたから。でも決して前向きな意味ではない。
昨日張り出されていた魅惑的な間取りとは打って変わって、今日の間取りはまるで平々凡々。中の中。いや、下の上がいいところ。
「あ、いや、べつに……」
そそくさとその場を立ち去りながらガラスの向こうの店内へ目をやる。
カウンターの向こうで、サイズの合わないよれたスーツ姿の中年男性が、だらしなく椅子に腰掛けたまま天井に向かって欠伸した。
でもあまり長く眺めていると時折、店員が声をかけてくる。それが煩わしくて自由に眺めていられる時間は限られている。
最近は間取りなんてネット上でいくらでも見られるけれど。でもなぜだろう。不動産屋の店先に張り出されている多くても三十にも満たないあの間取りたちは、ネットで見る万を越える間取りたちの魅力を遥かに凌ぐ。
「お部屋をお探しですか? それとも戸建てでしょうか? 投資用もございますよ」
制服を着た若い女性に声をかけられて、しまった、と内心舌打ちをする。いつも人の動きに気をつけているはずなのに、その日は声をかけられるまでまったく気づけなかった。
「あ、いや、べつに……」
そう言って立ち去ればよかったのに。そこで立ち尽くしてしまったのが運の尽き。気づいたら店員に誘導されて店内に足を踏み入れていた。
いつもは通らない家の近所の裏通り。聞いたこともない不動産屋。きっと地域に根付いた個人店。
「急いで探していなくても、気分転換で見ていかれる方もいるので」
声をかけてきた女性店員の口車に乗せられて、知らぬうちに目の前には若い営業マンらしきパリッとしたスーツ姿の男性の姿。
「弊社、さまざま良い物件を取り揃えております。何なりとご希望をおっしゃってください」
にこやかな男性店員は、年季の入った革張りのファイルを机上に広げる。
「え、この場所に一軒家でこの値段?」
「あ、この部屋は動線良さそう」
「うわ、これってもしかして隠し通路ですか?」
目の前に次々広げられるのは、単身向け、家族向け、賃貸、戸建て、分譲など、てんでカテゴリー分けバラバラのまとまりのない魅力的な間取りの数々。
「まあ、今日決めていただなくても、じっくり考えて決めてください。気が向いたら内見も可能ですので」
あっという間に過ぎた時間はえも言われぬ幸福感に満たされて、帰り道はどこをどう通ったのか。いつの間にか自室のベッドの上で習慣になっているSNSチェックをしていた。
別段、今の部屋に不満があるわけではないけれど。
それでもあの魅惑の間取りたちをまた見たい。間取りの描かれた紙面を指でなぞりながら、実際の扉や壁の感触や動線を、そしてその先にある生活の様子を想像しながら貪るようにあの革張りのファイルのページをめくりたい。
また明日、あの不動産屋へ足を運ぼうか。
考えながらSNSのタイムライン上に広がるくだらない世界を眺める。
『弊社の物件は他では出ないオーナーさんがこだわり抜いた極秘中の極秘。決して弊社の取り扱う物件に関わるようなことは他言なきようお願いします』
にこやかだった営業マンが最後に真剣な表情で店先で放った言葉を思い浮かべる。
まあ特定できることは何も書かないし。
SNSの書き込みボタンをタップし、今の感情を赴くままに綴る。
「お部屋をお探しですか? それとも戸建てでしょうか? 投資用もございますよ」
制服を着た年配の女性に声をかけられ、しまった、と内心舌打ちをする。いつも人の動きに気をつけているはずなのに、声をかけられるまでまったく気づけなかった。
気づけなかった理由は、店先に張り出されていた間取りたちを夢中になって見ていたから。でも決して前向きな意味ではない。
昨日張り出されていた魅惑的な間取りとは打って変わって、今日の間取りはまるで平々凡々。中の中。いや、下の上がいいところ。
「あ、いや、べつに……」
そそくさとその場を立ち去りながらガラスの向こうの店内へ目をやる。
カウンターの向こうで、サイズの合わないよれたスーツ姿の中年男性が、だらしなく椅子に腰掛けたまま天井に向かって欠伸した。
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