全てを奪う妹はわらしべ長者な姉の手のひらで踊る

ともき

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11.sideリュカ

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『――――というか、私王城に行くためのドレスなんて持ってないよ?』


「ああ、やっぱり彼女は貴族だったんだね」
王城の自室内、どこかざらざらとした音声が響く。
彼女の能天気な声や鳩に話しかける声がおかしくてつい笑ってしまっていたが、
今の部分は聞き逃せなかった。

侍女風の格好をして、粗末なスカーフをかぶっていたが彼女は庶民ではないらしい。
『王城に呼ばれる』時にドレスを着ることに思い当たるのはある程度の貴族教育が行き届いている家庭で育ったものだ。
そうでなければ平然と普通の格好で王城に訪れるか、そもそも王城に行くことを辞退するだろう。
彼女は少なくとも『王城にふさわしい恰好』を理解し、もしかするとその恰好をしたことがある人間だ。

黒髪の貴族令嬢などがいたらすぐに耳に入ってきそうなものだけど、と僕は脳内でざっとこの国の貴族たちの顔を思い浮かべた。
夜会などの噂でもそんな令嬢がいることは聞き及んでいない。
しかも魔法が使えるなんて。

黒髪は忌み嫌われているものだけれど、魔力がある人間であればそちらの方を優先する家庭も多いはずだ。
けれど、彼女はそうして認められてきた人間というよりは――。

悪魔、と罵られた瞬間の彼女の表情を思い出す。
それはそのような罵詈雑言を言われ慣れ、言われることをあきらめてしまったような表情だったように思う。
慌てた表情がごっそりと抜け落ちていた。

同時にふよふよと蛍のような光を漂わせ、息を切らせてこちらへ走ってきた彼女の姿を思い出して再び笑ってしまう。
きっと、きっと彼女はそんな風に扱われていても、僕が王子であることを知らなくても、誰かが襲われていたら助けてしまうぐらいにお人好しでちょっとおバカな人間だ。

「さて、じゃあドレスのない姫君を迎えに行くとするか」

僕の声は幾分と弾んでいた。
彼女から奪うように「交換」した銀の王冠を指先で弄ぶ。

明日にはこれの話も聞けるといいのだけれど。
明日の朝王城を抜け出す算段をして、僕はゆっくりと眠りに落ちた。

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