全てを奪う妹はわらしべ長者な姉の手のひらで踊る

ともき

文字の大きさ
13 / 18

13.

しおりを挟む
「えっ」

振り向く。
粗末な宿屋には似つかわしくないほど煌びやかな姿がそこにはあった。
さらさらの金髪に碧い眼が陽の光を受けて輝いている。

「一度開けたドアはちゃんと閉めないと危ないよ」

「……お気遣い痛み入ります……?」

そういうとまた第三王子はくつくつと笑った。
私としては大混乱の末に脳内から導き出された言葉だったのだけれど、なんだかツボに入ってしまったらしい。

「っふふ、ねえお姉さんはどこの家の人?」

それでも笑いをこらえるようにして彼が聞いた。
私はきゅっと口をつぐむ。
言えるはずがない。これで褒賞がだのお礼だのとなればまた妹が騒ぐだろう。
ただでさえ勝手に家を出ていった身だ。
一件良好な親子関係と見せかけて私を確保して―ー後のことは考えたくないレベル。
私は全力でとぼけることにした。

「家……っていうほどのものじゃないですねえ。のんびりした農家で……麦やら、ミルクやら、貧乏農家だったものでなんでもやってまして……」
「どの地方の?」
「えーーーと」

即興の人間にあまりいろいろなことを求めないでほしい。
ううぬ、と困りながらも適当な地方を答えるか、それとも村ごと亡くなったことにでもしようかと考える。
すると王子がいっそう楽しそうな顔をして続けた。

「もちろん僕を助けてくれたお礼をしたいと思っているんだけど」
「……痛み入ります」

王子の言葉を無視するわけにもいかずそう言うと、なぜか王子の笑みが深くなった。

「ずいぶんと素敵な『農家』だったみたいだね。貴族みたいなカーテシーが綺麗にできている」

「えっ、あっ!?」

片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ―ー王子の言うとおりの格好を自分がしていることにようやく気が付いた。
冷汗が止まらない。
家庭内でも『お姫様扱い』を求める妹のためにやらされていたカーテシーがこんなところで響くなんて。
お遊びでやっていたから、なんて通らないだろう。
ちらりと王子を見つめるとまたもや軽い笑い声が返ってきた。

「何か事情があるんだろう」

「その通りでございます、はい……」

わけあって家名は言えないです、と今度こそ素直に言うと王子は意外にも寛容に頷いてくれた。

「まあ僕も王城から許可をもらってここまで来ているわけじゃないからお相子だ」

「そうなんですか」

「昨日暗殺されかけた人間がすぐに家を出られるはずがないだろう」

「そ、そうでした……」

幼く麗しい見た目の王子の口から『暗殺』という物騒な言葉がさらっと吐き出されたことに驚きながらも、彼にとってはそれが日常だったのだろうという殺伐とした気配を感じて私は黙り込む。
さすがの私も殺されるほどの身の危険は家で感じたことがない。
もしもそんな風に殺されるかもしれない心配を家でしなくてはならないとしたらそれはどんなに大変なことだろう。

私が肩を落としていると王子はまあそれは置いといて、と言いながら私に向かって手を差し出した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

あなたはダンジョン出禁ですからッ! と言われた最強冒険者 おこちゃまに戻ってシェルパから出直します

サカナタシト
ファンタジー
ダンジョン専門に、魔物を狩って生計を立てる古参のソロ冒険者ジーン。本人はロートルの二流の冒険者だと思っているが、実はダンジョン最強と評価される凄腕だ。だがジーンはある日、同業の若手冒険者から妬まれ、その恋人のギルド受付嬢から嫌がらせを受けダンジョンを出入り禁止にされてしまう。路頭に迷うジーンだったが、そこに現れた魔女に「1年間、別人の姿に変身する薬」をもらう。だが、実際には「1歳の姿に変身する薬」だった。子供の姿になったジーンは仕方なくシェルパとなってダンジョンに潜り込むのだが、そんな時ダンジョンい異変が起こり始めた。

領主になったので女を殴って何が悪いってやつには出て行ってもらいます

富士とまと
ファンタジー
男尊女子が激しい国で、嫌がらせで辺境の村の領主魔法爵エリザ。虐げられる女性のために立ち上がり、村を発展させ改革し、独立しちゃおうかな。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...