不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

誘拐犯の正体

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私を誘拐したエルフの二人組は町から離れた丘の上まで来ると周囲に誰もいないことを確認して私を袋から出した。

「こいつが聖女? まだ幼いガキじゃないか?」

「ああ。でも可愛そうだがここで始末するしか無い」

「できるだけ苦しまないようにするんだ」

「わ……分かったよ」

「よしやれ!」

 エルフの男たちはそう言うと刀を振り上げた。

「待て!」

 いきなり後ろから声をかけられてびっくりして後ろを振り返ると黄色い髪のエルフが立っていた。

「カイト隊長?」

「俺がそいつを始末するからお前たちはもう下がっていいぞ」

「え? 隊長自らですか?」

「ああ。俺に任せろ、痛み無く始末してやる」

「そ……そうですね。わ……我々も困っていたところなので正直助かります」

「ありがとうございます。それじゃお願いします」

 そう言うとエルフの男たちはカイトを残して居なくなった。

「気がついているんだろう? 起きろよ」

 私はエルフの男たちが話している時に起きていた。空きをついて逃げ出そうと寝たふりをしていたが気づかれてしまった。私はゆっくりと目を開けた。

 起き上がろうと手を動かそうとしたが、両手は後ろ手に縛られていて身動きができなかった。

 私は上半身をなんとか起こしてカイトと呼ばれたエルフを見ると、黄色い髪の嫌味なエルフが立っていた。

「貴方はだれ? 私をどうするの?」

「フン! 俺の名前はカイト。ギルティーの隊長だ」

「ギルティー?」

「なんだギルティーも知らないのか? 無知な奴め、ギルディアの戦士の呼び名だ、よく覚えておけ!」

「そ……そのギルティーの隊長が私に何のようですか?」

「お前に生きていられては困るんだ」

「え? な……何で? 私が貴方に何かした?」

「俺じゃない。ギルディアの民にとってお前の存在は脅威なんだ」

「なにそれ? 私はギルディアの人達になにかするっていうこと?」

「まあ、そういうことになるな」

「え? どういうこと?」

「うるさい! とにかくお前はここで俺に処分される」

 そう言うとカイトは私にゆっくり近づいてきた。

「ち……ちょっと! ま……まってーー!!」

 誰もいない丘の上で私の声だけが虚しく響き渡った。

 ◇

『グォーーーン・グォーーーン』

 ギルディアの飛行艇は低いエンジン音を響かせながら、エルフたちを載せてグランフォレストの上空を飛んでいた。

 カイトは眼下に広がる広大な森を眺めていた。

(この飛空艇でなければこの森を抜けることは不可能だろうな)

 カイトが広大な森を眺めながら考えに耽っていると後ろから声をかけられた。

「何を考えている」

 デミタスに聞かれカイトは森を眺めたまま答えた。

「この飛行艇でなければギルティアに行くことは不可能だな」

「そうでも無いぞ」

 カイトはデミタスから思いがけない答えが帰ってきたので振り返った。

「古いギルティアの者はこの森の抜け方を知っていると聞いたことがある」

「本当か? この森を抜けることが可能なのか?」

「ああ。でも知っている者も殆ど死んでいるからほぼ不可能と言えるだろうがな」

「そうか」

 カイトは再びどこまでも続く広大な森を見た。

「気をつけろ。この辺りで頻繁にルーン大国の奴らに襲撃されている」

「俺がいるから大丈夫だろ」

「奴らには誰が乗っているかはわからない」

「まあ。それもそうか」

 二人で冗談を言っていると船体が大きく揺れた。すぐにエルフの兵隊が二人に近づいてきた。

「どうした?」

「大変です、ルーンの奴らに襲撃されました!」

「なんだと!」

「この船は間もなく不時着します」

 その言葉どおり船の高度が下がっているのを実感した。

『ドーーーーン!!!」

 大きな音とともに船全体が揺れた。どうやら飛行艇が地面に不時着したようだった。

 カイトは体制を立て直すと急いで船首に向かった。

「なにをする気だ?」

 デミタスはカイトに声をかけた。

「ルーンの奴らに思い知らせてやるんだよ! ギルティークラウンの乗った船に手を出したことを後悔させてやる」

 そう言うと走り去っていった。

 ◇

「やったか?」

「ああ。奴らグランフォレストに落ちたぞ!」

「よし、全員で総攻撃をかけるぞ!」

「でも、気をつけろ」

「? 何か言ったか?」

「ギルティーの隊長。通称ギルティークラウンがいるかもしれんぞ」

「ギルティークラウンだと? 奴は居なくなったんじゃないのか?」

「それが半年くらい前からギルティークラウンだった奴の弟が代わりを務めているらしい」

「何? そいつは強いのか?」

「ああ。兄よりも魔法の実力は上らしい」

「何だと? 前者の兄は一人で一個小隊を全滅させたと聞いたことがあるぞ。そいつよりも強いのか?」

「ああ。信じられないのもわかるが、事実だ。本部が言うには十名以下の小隊はそいつを見つけたら戦わず逃げろとの命令だ」

「そ……そのギルティークラウンの特徴は?」

「兄と同じハイエルフでひまわりのような黄色い髪をしているということだ」

「ハイエルフなのか? 名前は?」

「エルフ仲間からは、カイトと呼ばれているらしい」

 ルーン大国の兵士たちはそう言いながらギルティアの飛行船に攻撃を仕掛けるため近づいて行った。

 ◇

「おい! 嘘だろ!」

「あいつは、まさか?」

 ルーン大国の兵士たちは、地上に不時着した飛行船から出てきたエルフを見て動揺していた。

 そのエルフはひまわりイエローの髪を風になびかせて堂々と飛行船の船首に立っていた。

「あいつは! ギルティークラウン!」

「だめだ! 攻撃は中止して直ちに撤退するぞ!」

 兵士たちはすぐに撤退の準備を始めたが、一人の兵士は動こうとしなかった。

「何をしている? 早く撤退するぞ」

 上官の兵士は早く撤退するように言ったが、その兵士は動こうとしなかった。

「あいつを倒せば昇進できるかもしれない」

「な……何を言っているんだ! 本部から十名以下では戦うなとの命令だ! 我々は八名しかいないんだ、勝てない戦いは避けるんだ!」

「うるせー! あのエルフの体を見てみろよガリガリのやせ細っていかにも弱そうだぞ、俺が始末してやる」

「バカ! やめろ! 弱そうに見えるが、魔法の手練だぞ。あいつに近づくだけで魔法で瞬殺されるぞ」

「大丈夫だ。魔法の届く距離はどんな達人でもせいぜい20メートルだが、俺の弓矢は50メートルから殺傷能力がある。少し奴に近づいて弓矢が当たらなければすぐに撤退する」

 兵士はそう言うと上官の制止命令を聞かずにカイトに近づいて行った。

 ◇

(フン! バカな人間が一人こっちに向かって来ているな)

「おい、カイト。奴ら撤退しているぞ。殺らないのか?」

「魔力の無駄遣いだ、腰抜けの兵士は殺してもしょうがない」

「そうか。まあいい」

「ところで、後どれぐらいで修理が終わる?」

「んーー? 大した傷じゃないから、あと10分もあれば直るだろ」

「そうか」

 カイトは船を修復しているデミタス副隊長と話しながら、近づいてくる兵を確認していた。

(隠れているつもりだろうが、透視魔法で丸見えだぞ。少し脅してみるか)

 カイトは大岩の後ろでこちらの様子を伺っている人間の兵士に小さい雷魔法を使用した。

 カイトが指を空に向けると兵士の隠れている大岩に電撃が走った。

『ドーーーーーーーーーン!!』

 大岩に落ちた雷によって兵士は吹き飛ばされた。そのまま黒焦げの髪の毛を振り乱しながら逃げて行った。

(フン! そうだ。早く俺の前から消えろ!)

 カイトは急いで逃げていく兵士の背中を見ていた。

「直ったぞ」

 後ろでデミタスが言った。

「ああ。思ったより早かったな」

「ん? なぜ殺さない?」

 デミタスはカイトに近づくと鋭い目で睨みながら聞いた。

「ああ。あんな腰抜けを殺してもしょうがないだろ」

「思ったより優しいな」

「…………。」

 カイトが無言でいると睨みながらデミタスは続けた。

「兵士から聞いたが、聖女を殺すのを変わってやったそうだな」

「あ……ああ。おかげで苦しまずに殺してやったよ」

「そうか? それは良かった」

「なんだ? 何か言いたいことがあるのか?」

「いや。本当に殺したのかと思ってな?」

「俺が嘘をついてると思っているのか?」

「いや。少し気になっただけだ悪く思うな」

「ふん! 俺が人間ごとき下等な種族に情けをかけるはずがないだろ」

「ああ、そうだったな。若干15歳にしてギルティーの試験に合格したエリートに失礼だったな。許してくれ」

「分かったらいい、早く支度してギルディアに帰ろう」

 飛行艇はゆっくりと浮上するとギルティアに向けて出発した。  
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