不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

囚われたティアラ

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 私はリンの家の奥の納戸に閉じ込められていた。

 納戸から叫び続けたが結局リンは姿を表すことは無かった。

 しばらくすると数人の人物が家の中にズカズカと入ってくる音とともにデミタスとロイの罵声が聞こえてきた。

「ロイ、お前達家族を拘束する」

「拘束だと? 一体何の罪だよ?」

「お前たちはカイト隊長と共に聖女と思しき女を通報もせずに匿った。よって重大な反逆罪として拘束させてもらう」

「あの子は危険な人間ではない。私達家族やこの国を疫病から救ってくれたんだ。あの子が居なかったら今頃この国は滅亡していたかもしれないんだぞ!」

「うるさい! これ以上ここで貴様と議論をするつもりはない。連れて行け!!」

 ギルティー達はロイとリンの夫婦を強引に取り押さえた。

「ママーーーー!! パパーーーー!!」

 二人の幼い子どもたちは両親が強引に連れて行かれる光景を見て泣き叫んだ。

「ええい!! うるさい! このガキも連れて行け!」

 デミタスの命令でギルティーは幼い子どもを取り押さえた。二人の幼子は捕まって泣き叫んだ。

「うぁーーーん!! 怖いよーーー!!」

 その光景を納戸の隙間から見ていた私はもう自分を抑えることが出来なかった。親友の子どもたちの叫びで私の何かが切れた。

「待ちなさい!!! 私はここにいるわ!!!」

 納戸の鍵を壊して飛び出すと急いで男達から子供を引き剥がした。

「お……お前がティアラか?」

「ええ。そうよ!!」

 子どもたちをかばいながら叫ぶとリンが私を見て怒った。

「な……なんで!! 出てくるのよ!! 隠れていればやり過ごせたのに!!」

「そんな事できるわけ無いでしょ!!」

 私は泣きながら叫んだ。

「リン! あなたはこの国で一人ボッチで行き場のなかった私を助けてくれた。そんな恩人の家族を見捨てることなんて……私には出来ない……」

「な……なんで? そんなことで……」

 リンは涙を浮かべた。

「そんなことじゃないわ。リン。あなたのおかげでこの国を嫌いにならずに済んだの。私はあなたのおかげで救われたのよ」

「ひっ捕らえろ!!」

「うっ……!」

 私はギルティーたちに取り押さえられた。

「こいつらはどうしますか?」

「ん……、ロイは連れて行け、リンと子供は離してやれ」

 デミタスはそう言うと私とロイを拘束して家の外に連れ出した。私達が外に出た時、デミタスたちの行く手を遮るように一際大きな男が家の前に立っていた。

「デミタス副隊長、その二人をどこに連れて行く気なんだ?」

「お前は? セナか? お前は人間を恨んでいたな。喜べ! 我がギルティアに密入国した人間を捕まえたぞ」

「そうか?」

 セナはそう言うと私達を睨んだ。鋭い目つきにその場の誰もが凍りついた。

「悪いがその女を離してもらおう」

「は? セナ、お前何を言ってるか分かっているのか?」

「俺は本気だ!」

 セナはそう言うと近くに居たギルティーの一人を殴り飛ばした。

『ドゴォーーーン』

 不意打ちを食らって吹き飛ばされたギルティーは家の壁にめり込んだ。

「この女をどうするつもりだ!!」

 デミタス達はすぐに戦闘態勢になって叫んだ。

「決まっているだろ! ここから逃してやるんだ!」

「何だと? 正気か? この女は人間だぞ! 我々高等なエルフと違って、卑しき存在なんだぞ?」

「その卑しき存在に俺たちは救われたんだ。俺だけじゃない、この国のすべてのエルフはそいつに救われたんだ」

「本気で言ってるのか? 貴様にこの不浄な人間を助けて何の得がある!」

「そいつが不浄と言うなら俺も不浄だな」

「どういうことだ?」

「ティアラの血が俺の中にも流れている。捕まえるというなら俺も捕まえろ」

「貴様! 周りをよく見ろ! いかにお前が強くてもこれだけの人数を相手に勝てないのはお前が一番分かっているだろ!!」

「ああ。俺はお前たちにはかなわないだろう。だが、カイト隊長がここに来るまでの時間稼ぎにはなるかもしれんだろ」

「何だと! 貴様~~!! お前達こいつを全力で叩け!!」

 デミタスの合図で手下のギルティー達は一斉にセナに襲いかかった。

 セナは最初に飛びかかってきた一人の頭を掴むとそのまま勢いよく地面に叩きつけた。セナの怪力によって叩きつけられたギルティーの頭は豆腐に突っ込んだかのように地面にめり込んだ。

 次に飛び込んできたギルティーの顔面を蹴り飛ばした。しかし人数の前では力及ばず後ろから大男の拳がセナの後頭部に直撃するとセナは沈黙した。

 それからは数人でセナを取り囲んでボロボロになるまで殴られた。攻撃はセナの戦意が完全に無くなるまで続けられた。

「もうやめてーーー!! お願いやめてーーー!!」

 私はたまらず泣き叫んだ。セナは痛めつけられて血だらけの顔で私に微笑みかけた。

「テ……ティアラ……、すまなかった……こんなことで……お前を傷つけた代償になるとは思ってないが……許してくれ……」

「いいのよ、セナさん。私はなんとも思ってないわ。私なんかのために命をかけてくれてありがとう」

「お……俺には……こんなことしかできない……お前を逃してやれなくて……すまない……」

 セナはすでに戦意を喪失していたが、デミタスの部下たちは執拗に攻撃した。

「デミタスもうやめろ! 俺もティアラもおとなしく従うからセナをこれ以上痛めつけるのはよせ!!」

 ロイは叫ぶとデミタスたちを睨んだ。

「もう良い! やめろ! ロイとティアラをルドラの丘に連れて行け」

「ル……ルドラの丘だと?!! うっ……グゥ……」

 ロイとティアラはそのまま連れて行かれた。

 セナは全身を痛めつけられて指の一本も動かせられず、ただ黙って見ていることしか出来ない自分を呪った。

 ◇

 カイトは必死で走った。ロイの家の前に来るとリンがいるのが見えた。近くに男が倒れている。男は殴られて瀕死の重症を負っていた。急いで近づいて男の顔をよく見るとセナだった。

「リン、ティアラはどうした? そいつは? セナなのか?」

「カイト隊長! ティアラとロイがデミタスに連れて行かれました」

「どうして……」

「セナは必死で夫とティアラを取り戻そうとデミタスたちに立ち向かっていってくれたんです」

「二人はどこに連れて行かれたんだ?」

「うぅ……、カイト隊長……」

 セナが気がついたようでカイトを見た。

「大丈夫か? セナ?」

「め……面目ない、二人を助けられなかった」

「良いから! もう喋るな!」

「二人はどこに連れて行かれた?」

「ルドラの丘だ……、彼奴等そこで……ティアラを始末しようとしている」

「なんだと!!!」

 カイトは絶句した。ルドラの丘はローゼンブルグの西の林にある丘で罪人の処刑地として使用されていた。そこに連れていくということはどういうことか容易に想像がついた。

「二人を助けなければ……」

 カイトはリンにセナを預けるとすぐにルドラの丘に向かった。 

 ◇

 ローゼンブルグの北の林の中でマチルダは震えていた。木々の間からロイの家を見ていた。 

 自分も戦いに参戦しようと何度も思ったが、彼らを救うには自分の作戦を実行に移すしか無いと必死で思いとどまった。ロイとティアラが連行されていく姿をもどかしく思いながら見届けるしか出来ない自分を呪った。

(待ってろ! ロイ! ティアラ! 絶対に助けてやるからな!)

 マチルダは強い覚悟でグラナダ戦線に向かって走り出した。

 必死で走ってグラナダ戦線に着くと一直線にヒロタ川に向かった。ヒロタ川は先日降った雨で水嵩が増していた。かなり流れは早かったが、自分の身体能力であれば難なく泳いで渡れる自身があった。川に飛び込もうと川岸に近づいた時、誰かに呼び止められた。

「マチルダか?」

 その声に驚いて振り返るとメルーサが立って心配そうに見ていた。

「メ……メルーサさん?」

「こんなところで何してんだ?」

「それは……」

「どうした?」

 メルーサは訝しそうに聞いてきたので、事実を伝えた。

「ティアラがデミタスに捕まりました」

「なに? どうして?」

「わかりません。このままではティアラが殺されてしまう」

「それでここで何をする気だ?…………!! まさか……お前……!」

「ええ。川の向こうのルーン大国に行ってティアラを助けてもらえるように向こうに兵隊を動かしてもらいます」

「馬鹿なことはよせ! ルーン大国に渡った瞬間に問答無用で殺されるぞ!」

「そうかも知れません! でも、ティアラを助ける方法はそれしか無いんです。いくらカイト隊長でも一人でティアラを救うことは出来ないでしょう」

「しかし……、危険すぎる……」

「聖女はルーン大国にとっても有益な存在です。もしかしたら助けに向かってくれるかもしれない」

「彼奴等がこちらの言うことを聞いてくれるとは思えんが……」

「ティアラを救うにはもうこれしか無いんです。お願いです私を見逃してください」

 マチルダの必死の説得にメルーサもしばらく考えた後に口を開いた。

「分かった。その代わり私も一緒に行こう」

「そ……そんな……メルーサ隊長にもしものことがあったら私は……」

「良いんだ。一人で乗り込むよりは、もしものことが有った時に二人の方が逃げやすくなるだろう」

「でも……」

「これは決定事項だ。そうと決まれば急ぐぞ! 私に着いて来い!」

 メルーサはそう言うと川とは反対の方向に走り出すとそのまま森の中に消えていった。マチルダもメルーサに着いて森の中に入った。

 しばらくメルーサについていっていたが、どんどん川から遠ざかっているのを心配に思ったマチルダはメルーサに聞いてみた。

「メ……メルーサさん川を渡らなければルーン大国にいけませんよ」

 メルーサは問いかけに笑顔でこっちで良いんだ、と言って笑った。

 しばらく森の中を進むと古びた小屋が見えてきた。

(こんな所に小屋が?)

 不思議に思ったが、メルーサはそのまま小屋の中に入って行った。

 古小屋の中には何も無かったが、壁に暖炉があった。メルーサは暖炉に近づくと中にあった薪を外に取り出し始めた。マチルダはわけが分からなかったが、薪を取り出すのを手伝った。

 薪を全部暖炉から取り出すと次に暖炉の中にあったレンガの壁の一部を外した。外した壁の中を覗くとポッカリとなにもない空間が現れた。メルーサは構わずレンガの壁をすべて取り除くと一畳ほどの広さの空間があった。薄暗い空間の地面には直径50cmほどの穴が空いていた。

「これは?」

「この穴の先に進むとルーン大国に繋がっている」

「え? この穴の先が? ルーン大国に行ける?」

 マチルダは突然のメルーサの告白に絶句した。固まっているマチルダを尻目にメルーサは穴の中へ入って行った。マチルダはどうして良いかわからず狼狽えたが、とりあえずメルーサに続いて穴の中に入っていった。
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