不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

ダンテの危機

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 ダンテの剣技の前に男たちは次々と倒れていった。ダンテの姉を連れ去った男たちは、倒される瞬間にダンテに喧嘩けんかを売ったことを後悔した。

 ダンテはものすごいスピードでリュウの部下たちを倒していった。

(やはり俺は強い)

 グラナダ戦ではイスリの悪魔と呼ばれたエルフ一人に怖気づいた自分を悔やんだ。

(あの時戦っていれば、あいつを倒せていたかもしれない。いや、確実に俺はやつを倒せたはずだ!)

 ダンテはリュの部下を倒している中で、いつの間にか世界一強いのではないかと自分に酔っていた。

「ウリャーーー!!」

 ダンテの剣はそのスピードをますます高めていった。次々と男たちは血まみれになってその場に倒れた。やがて屋敷の周りにいた警備兵は一人も居なくなった。ダンテは屋敷の門から誰にも邪魔されること無く堂々と中に入った。

 門から中を見ると20メートルほどの小道の両端にさくがあり、正面に武家屋敷風の玄関が見えた。小道には等間隔とうかんかくに飛び石が配置されていて飛び石の間には玉砂利が敷き詰められている、ものすごく立派な屋敷だった、これだけの屋敷を建てるためにどれだけの数、周りの村や通りすがりの旅人から略奪行為をしてきたのだろう、ダンテは多くの人々の悲しみの上で悠々ゆうゆうと暮らす男たちを思うと怒りが沸々ふつふつと込み上げた。

 ダンテは小道の両端にある柵を見た。

(あの柵の向こう側に敵が隠れているかもしれない)

 門の中に入ると両脇の柵を警戒しながら小道を進んだ。ダンテの感は当たっているが少し違うのは柵の向こう側にいるのは男たちが切り札にしている床弩しょうどという巨大な弓矢で、個人を倒すには不相応の殺戮兵器さつりくへいきが設置されていた。

 小道を半分ほど進んだところで正面の玄関が突然開いた。そこに居たのは姉を連れ去った黒幕のリュウだった。リュウは不敵な笑みを浮かべると叫んだ。

「ダンテ!! そこを動くな!!」

「リュウ!! 貴様! 殺してやる!」

「まあ待て、これを見ろよ」

 リュウが言うと屋敷の奥から姉のミラが男に羽交い締めにされながら出てきた。

「姉さん!!」

「ダンテ、早く逃げて、ん……」

 ミラは何かを叫ぼうとしたが、男に強引に口を塞がれた。ミラのつややかな黒髪がむなしく風になびいた。

「貴様ら絶対に許さねえ!!」

 ダンテが動こうとしたところで、男がナイフを取り出してミラの首に押し当てた。ナイフの刃がミラの細くて白い首に当たると薄っすらと切れ目が入り血が流れた。

「や、やめろ!!!」

「愛しい姉を助けたければそこから動かないことだ」

「く、クソ!」

「ふん! いい子だな。よし! お前達今だ! やれーーー!」

 リュウが叫んだ。ダンテは両脇の柵から敵が飛び出してくると思い最大限の警戒をしたが、しばらく経っても何も起きなかった。

「ん? ど、どうした。おい! 早くやれーー!!」

 リュウは再び叫んだが、やはり何も起こらなかった。それもそのはず、両脇の柵の向こう側に設置されていた床弩はマルクスとルディーによって操作する男たちを倒されて、すでに無力化されていた。

「く、くそ! 折角用意したのに使えない奴らだ。まあ良い、この奥にも床弩があるからそれを使え! 今だ! やれ!」

 ダンテは何かわからないが、うろたえるリュウを見た。どうやら用意していた作戦が失敗したらしいことはわかった。用意していた切り札が使えなくなって困っているリュウを見てホッとした時、何かが目の前から飛んできたと思った瞬間、腕に鋭い痛みが走った。

 床弩から放たれた2メートルもの大きい矢はダンテの腕をかすめるとものすごいスピードでそのまま門から飛び出て前にあった大木に突き刺さったかと思うとそのまま幹を貫通した。

「うぅうううーーー!!」

 矢はかすめただけで腕の三分の一を持って行った。傷口から鮮血が吹き出し骨まで見えるほど傷は深かった。ダンテは腕の傷を抑えるとその場で崩れ落ちた。

「ハッハッハ~~~!! さすがのダンテでもこの矢は避けられないだろう。心配しなくても次は確実に当ててやる。おい! 早く殺れ!」

 男たちは二人がかりで床弩のげんを引いて次の矢を設置した。

「や、やめてーーー!!!!!」

 ミラは弟が血まみれで倒れているのを見かねて、男の腕に噛みついた。男はたまらずミラを掴んでいた腕を離すとそのスキに床弩を止めようとしたがすぐに羽交い締めにされた。抵抗したときに男が持っていたナイフがミラのほほをかすめた。

「うぅうう……」

 ミラは頬から血を流しながら無力な自分を呪った。ミラの涙と血が混り床に落ちた。

「馬鹿野郎! 商品に傷をつけるんじゃねえ! どいつもこいつも使えない奴らばかりだな! 早くアイツを始末しろ!」

 ダンテは腕の傷を抑えるとゆっくりと立ち上がった。

(あの弓は避けられない)

 直感でそれだけは分かった。避けられないにしても、倒れたままやられるのは武人ぶじんとしてのプライドが許さない。半ば死を覚悟した時

「ウァーーーー!!」

 突然フードを目深まぶかに被った男が二人、床弩を操作していた男たちと、ミラを押さえていた男を投げ飛ばした。ダンテは一瞬何が起こったのかわからなかった。

「お……お前たちは? 誰だ? うぅ……!」

 フードの男はリュウの首を掴むと腕一本で軽々と持ち上げた。

卑怯者ひきょうものに名乗る名は持ち合わせていない」

 リュウは息ができず必死で抵抗したが、フードの男はびくともしなかった。やがてリュウの顔は苦しそうに真っ赤に腫れ上がった。

「ほら、好きにしていいぞ」

 フードの男はそう言うとリュウをダンテの目の前に放り投げた。リュウはダンテの剣が届く位置まで転がった。

「ま、待て、ダンテ。これは何かの間違いだ。お、俺が悪かった許してくれ」

 リュウはすぐに土下座をしてダンテに謝った。

「俺がお前を許すとでも思うのか?」

「そ、それは……、ち、違うんだ、話せば長くなるが……」

 そこまで言った時、リュウは土下座の体制から腰にぶら下げた剣を引き抜くとダンテに切り掛かった。

『ザシュ!!』

 リュウが剣を抜くよりも早くダンテの剣が肩口から入っていた。リュウはダンテに袈裟斬けさぎりにされ絶命した。

 ダンテはフラフラになりながらフードの男たちを警戒した。この者たちが敵ではないことを祈りながら話しかけた。

「あ、あんたたちは何者だ? なぜ俺たちを助けた?」

「人を助けるのに理由がいるのか?」

 フードの男はミラの頬についた傷口を優しく拭きながら答えた。ダンテはこの者たちが敵でないことが分って顔には出さないがホッとしていた。

「ありがとうございます。助けてくれて、なんとお礼を言ったらいいのか」

 フードの男は、礼はいらないと言ってミラを介抱かいほうしていた。その男の横顔を見てダンテは凍りついた。ブロンドの長い髪に青い目をしたその男を、ダンテは片時も忘れることはなかった。グラナダの川の中でバケモノを操っていた男が今、ダンテの目の前にいた。

 ダンテは無意識に男に剣を向けていた。その瞬間もう一人の男が剣を抜いてダンテのゆく手をさえぎった。

「何のつもりだ?」

「あ、あんた。イスリの悪魔だろ?」

「だったらどうする?」

 イスリの悪魔はそういうとゆっくりとミラから手を離して立ち上がった。ダンテは剣を持つ手に力を入れた時、ミラが叫んだ。

「ダンテ! やめて! この人たちは私たちを助けてくれたのよ」

 ダンテはミラに言われて剣を持つ手をゆっくりと緩めていった。

「ルディー! お前も剣を下ろせ」

「マルクス、こいつの剣技を見ただろ。この場で倒しておかないと、こいつは俺たちにとって脅威きょういになるぞ」

「やめろと言ってるんだ! これ以上無駄な争いはしたくない」

「わ、分ったよ」

 ルディーはそういうと渋々剣を収めた。

「あ、あの……、あなた方はどうしてここに来たんですか?」

 ミラに言われて二人は任務を思い出した。

「え? あ、ああ、そうか、それが……」

『ぐぅ~~~~』

 マルクスが喋ろうとした時に腹の虫が盛大に鳴った。マルクスは恥ずかしそうに頭をかいた。

「ふふふ……」

 ミラはそれが可笑しくて笑った。マルクスはそんなミラの笑顔がすごく綺麗きれいに見えた。

「そ、その村にある食料を売って欲しいんだが?」

「え? お腹が空いてるんですか?」

「そ、それが……、まあ、恥ずかしい話だが……」

 マルクスがそこまで話した時、ルディーが慌て始めた。

「まずい、大勢の人の声が聞こえてくるぞ。早くここから逃げるぞ」

「え? まだ俺たちは任務を果たしていないぞ」

「いいから、人がくれば流石に目立ちすぎる。俺は変身しているから良いが、あんたはすぐにエルフということがバレちまう。早くここから出よう」

「くそ。仕方がない……、じゃ、そういうことで……」

「あ、待ってまだお礼をしていないのに……」

 ミラが喋り終わる前に二人はあっという間に居なくなった。ダンテと二人っきりになったところでミラはダンテに聞いた。

「あの人たちはどこに住んでいるのかしら?」

「ん? ああ、おそらくボルダーにいる奴らだろう。そこにギルティアの基地がある」

「ふ~ん、そうなんだ~~」

「どうしてそんなことを聞くんだよ」

「んん。なんでもないわ」

 それからしばらくして村人たちが集まってきて、リュウたち一味は村人に捉えられて町の憲兵隊に連れて行かれた。その後、ダンテは腕の治療、ミラは頬の傷の治療を行なった。

 その日の夜、ダンテはガタガタという音で目が覚めた。不思議に思って音のする方へ向かうと台所でミラが袋いっぱいに食べ物を詰めていた。

「姉さん何をする気だよ? ん? まさか?」

「あら、ダンテ。起こしてごめんね」

「姉さんそれをどうする気だよ。まさかボルダーに持って行く気じゃ無いよな」

「まだあの人たちにお礼していないのよ」

「何言ってんだよ。敵の基地だぞ! すぐに奴らに捕まって捕虜ほりょにされるのがオチだ!」

「大丈夫よ。あの人たちはそんな人じゃないわ」

「そんなことわかるもんか! 今は戦争中だぞ!」

「そんなに心配なら一緒に来てよ」

「バカ言うな。そんなことできるわけないだろ!」

「じゃいいわ。私一人で行くから」

 ダンテは途方に暮れた。昔からミラは言い出したら聞かないことを思い出した。

「わ、分ったよ! 一緒に行くからちょっと待ってて!」

 ダンテとミラは食料をいっぱいに積んだ台車を引いてボルダーに向かった。
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