不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

再会

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 グランボルケーノでゴブリンの大群に襲われた、エナジー、クリス、レン、アルフレッド、エリカ、ロザリアの六人はエルフの秘密の洞窟を通って、ティアラが連れ去られたギルディアに向かっていた。

 洞窟の中は程よく乾燥していたので、思ったより快適だった。しばらく進んだところで、アルフレッドが急に立ち止まった。

 何事かと全員でアルフレッドの様子を見た。何かが聞こえているのか、しきりに手を耳に当ててじっとしていと思ったら急に叫び始めた。

「あっちからティアラの声が聞こえてくる!」

「何? 本当か? おい! どこに行く!」

 エナジーの問いかけを無視するとアルフレッドは脱兎だっとのごとく駆け出した。

 アルフレッドは銀髪の青年でアークガルドの第一王子だ。少し天然なところがあるかわりに身体能力が化け物のように高く、走り出すと追いつくのは用意ではない。今回も急に走り出した彼には誰もついていけないだろう。

「あのバカ! また走り出しやがった!」

 レンはうんざりした顔でアルフレッドが走って消えた方向をにらんだ。

 このレンという黒髪の大柄な青年はティアラの住んでいたイーストエンドという町のガキ大将で、ペスト菌に侵されて死にかけていた妹をティアラに救われた事により彼女に思いを寄せることになった男性の一人で、腕っぷしが強かった彼は、自力で剣聖のスキルを習得した剣士だ。

「あいつどこに向かってるんだ? あっちはギルディアじゃなくてルーン大国だぞ?」

 剣聖エナジーはアルフレッドの消えた洞窟の先を見ながら言った。

 このエナジーというピンク色の髪をした小柄な青年は、ギルディア出身のエルフでこの中で一番若く見えるが、はるか昔から生きているハイエルフという種族でレンと同じく剣聖のスキルを開眼した伝説級の英雄だ。

「アルフレッド王子の後を追いかけましょう」

 クリスはエナジーとレンにそう言った。

 このクリスという青年は、金髪に高価な衣装を身に纏った人物で、パープル商会というアークガルド王国の物流をすべて牛耳っている大会社の御曹司で、物腰は柔らかく誰に対しても紳士的に接する反面、かなり情熱的な一面もある青年だ。

「本当にルーン大国へ行くのか?」

 エナジーはクリスを睨んだ。

「アルフレッド王子はティアラの声を聞いたと言っていました」

「なにかの間違いだろ? ここからルーン大国までどれだけの距離があると思うんだ?」

「いいえ。王子の耳は確かです」

「本気で言っているのか?」

 エナジーはそう言うとアルフレッドのこれまでの行動を思い浮かべた。確かにあの男は信じがたい身体能力をしていたことを思い出した。長年いろんな人間を見てきたが、あんな奴は初めて見た。おそらく耳も尋常じゃないほどよく聞こえるかもしれない。

「ルーン大国へ向かいましょう! アルフレッド王子を信じましょう!」

 クリスの真剣な表情にエナジーとレンも渋々納得した。

「とりあえず俺はあのバカを追いかける、エナジーとクリスはエリカとロザリアさんと一緒に後からついて来てくれ」

「ああ、分かった。そうしてくれレン」

「頼んだぞ」

 エナジーとクリスが返事をするのを見届けるとレンは急いでアルフレッドを追いかけて、ルーン大国の方向へ向かって走った。

 エリカとロザリアは遅れてようやくクリスたちに追いついた。

 エリカという小柄な少女はティアラの住んでいたイーストエンドにある武器屋の娘で、ドワーフという種族でティアラと同じ年齢の少女だった。

 ロザリアは聖女のスキルを持った年配の女性で、信じられないことにティアラが前世で咲子さきこと呼ばれていた時に母親だった人物だ。

 エナジーとクリスとエリカとロザリアは四人でアルフレッドを追いかけるために、彼が勝手に向かったルーン大国へ急いだ。

 ◇

 長いトンネルを抜けるとそこは森の中だった。空は青空が広がり暗がりに慣れた目に陽の光が容赦なく照りつけるため、目から少し涙が出た。

 レンはトンネルを出てもアルフレッドの向かった先が分からなかったらどうしようと思っていたが、鬱蒼うっそうと茂った雑草が無惨になぎ倒されていてすぐにアルフレッドの向かった先がわかった。

 自分の向かった先を知らせるためにわざとアルフレッドが雑草をなぎ倒したわけでは無いだろう、そんな気遣いができる人間ではないことは百も承知していたので、これは不可抗力だろうと思った。レンは後からくるクリスたちにわかりやすいように行く先々の木々の幹に印を付けながらアルフレッドを追いかけた。

 そのまましばらく進んでいると、急に空が厚い雲に覆い始めたかと思うと先程まで晴れていた空が急に真っ暗になった。随分と天気が変わるものだと不思議に思っていると

『ドガーーーーン!!!』

 ものすごい轟音が辺りに響いた。森の木々が揺れると鳥たちが一斉に空に向かって飛んでいった。

 少し怖くなったレンは近くにあった大木の影に隠れた。すると少し前方に木の陰に隠れているアルフレッドを発見した。

(あのやろーーー、あんなところで何をしてるんだ?)

 レンはすぐにアルフレッドに近づいていった。

「おい! アルフレッド!」

 アルフレッドはレンに気づくと口に人差し指を当てて静かにしろというジェスチャーをした。レンはいぶかしげにアルフレッドに近づくと彼は小声で話してきた。

「あれを見ろ」

 アルフレッドはそう言うと指を指したので、レンは視線を移すと黒い大きな塊のようなものが見えた。その塊は段々と人間の形を形成すると阿修羅像あしゅらぞうのように立ち上がった。

「何だ? あれは?」

「俺にもわからんが、子供のときに本で見た邪神の姿のように見える」

「邪神だと? そんな物騒なやつがこんなところに何をしてるんだ?」

「そんなこと俺が知るかよ! ん? 何だあれは?」

 大きくなった邪神のようなものを見ると、その邪神の体から黒い人間のような物がポロポロと出てくるのが見えた。

「何だあれは? 気味悪い!」

 レンはその気味の悪い光景に不快な表情を見せていると、再びアルフレッドが指を指した。

「あ、あれは? ティアラ?」

「なんだと!!」

 アルフレッドの指を指した方向に確かに小さな少女のような人影が見えた。レンはなぜかその瞬間に気づくと必死で走り出していた。かなり遠くから一瞬少女のような人影が見えただけだったが、それだけでレンにはその少女がティアラであることがわかった。その時は必死でアルフレッドよりも早く走っている自分に気づいては居なかった。先程まで感じていた気味の悪い気持ちはすでに無くなっていた。それほどに必死になったのはこの時が初めてだった。

 少女との距離が近くになるに連れて、姿がはっきりわかった。その少女はアルフレッドの言った通りティアラで間違いない。レンがずっと心の奥底で思っていたあどけない姿がそこにあった。やっとティアラに会える、そう思っただけで目頭が熱くなるのを感じていた。

 すると邪神から出てきた気味の悪い者たちが奇声を発しながらティアラに向かって襲いかかろうとしているのが見えた。

 レンはすぐに背中の大剣を引き抜くとものすごいスピードで不気味な者たちに斬り掛かった。
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