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第03章 コルマベイント王国

03 こんなところ……

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 道中に戦闘音を聞いた俺たちは、誰かが盗賊と戦っているのではと思い、その場に行ってみることにした。
 そこでは、思った通り盗賊に襲われている馬車を引いた商人とその護衛の冒険者がいた。
 見た限りどう考えても冒険者が不利、そこで助けがいるか彼らに尋ねたところ1人を除いて必要だという。
 それなら、助けようというわけだが、ちょうどよく盗賊と冒険者で乱戦状態となっている。
 そこで、以前から考えて練習していたことをしようと思いついた。
 それは、”マップ”と”範囲指定”を利用し、選択した人物だけに魔法を作用させるというものだ。
 この技術は通常の魔法使いには不可能なものとなっている。まぁ、不可能といってもやろうと思えばできないことはないだろう。だが、これをやるにはただ呪文を詠唱するだけでは当然できないために、不可能といわざるを得ないというわけだ。

 さて、その効果はというと……ちょっとやばい光景になってしまった。
 さすがにこれは人にはお見せできない。
 ということで、早々に魔法を解除する。

「おいっ、誰だ! 今、魔法を使いやがったのは?!」

 助けはいらないとほざいていた少年が、そう言ってこっちに向かって怒鳴りこんできた。

「ほんと、だれ? かなり危なかったんだけど」
「ちょ、ちょっと待って、今の、範囲指定だよね。信じられない、誰?」

 少年だけでなくほかのメンバーも今の魔法に関する犯人探しが始まったわけだが、あたりを見渡しても見つからずきょろきょろしている。
 まさか、俺がやったとは思うまい、なにせ、見た目が明らかに幼児だしな。

「おい、あんたがさっきのやったのか?」

 気の強い少年が怖いもの知らずなのか、ダンクスに詰め寄った。

「いや、俺じゃねぇ。こいつだ」

 ダンクスはそう言って隣にいた俺を親指で指さした。
 まぁ、特に隠すことではないために全く問題ない、しかし、注目されるのは勘弁してほしいんだけどな。

「あ゛っ、ふざけてんのか、こんなガキが、魔法なんて使えるわけねぇだろ!」

 ダンクスが嘘を言っていると思ったようで、なおもダンクスに詰め寄った。
 ほんと怖いもの知らずだな。ていうか、ダンクスが見た目に反して善人だからよかったものの、もし見た目通りだったら、大変なことになっているよなぁ。
 まぁ、見た目通りだったらそもそも助けねぇから、ある意味で人を見る目があるってことなのか。

「ちょっ、レントやめなさいって」

 そんな少年レントを見た格闘少女が、青い顔をしてようやく止めに入った。

「うるせぇ、エリー」

 本当にこいつやばいよなぁ。仲間相手にもこれじゃ、害悪以外の何物でもないよな。

「レント、いい加減にしろ、俺たちは助けられたんだぞ。すまない、こいつ、昔からこの調子で」
「そんなかんじがするわ。気を付けたほうがいいわよ。その子が原因でメンバーが危険な目にあうことだってあるんだから」
「場合によっちゃぁ、早めに切ったほうがよさそうだな」

 戦闘中リックと呼ばれていたリーダーの青年がレントの代わりに謝罪をしてきたところに、シュンナとダンクスがレントの危険性を忠告した。

「ははっ、よく言われるよ。でも、レントは弟みたいなものでね」

 切ることなんて考えたこともないと、リックは苦笑いしつつそういった。

「もちろん、だからといってメンバーの安全が第一優先だからね。レントにはちゃんと教えていくつもりだよ」
「まぁ、あんたらがそれでいいならいいけどよ」

 俺もダンクスの意見に同意、こいつらがそれでいいなら俺も何も言うことはないが、このパーティーはこういった護衛依頼は向いてないな。
 一見するとレントだけが問題のようにも思えるが、このリックもあまり依頼主のことを考えているようには見えないんだよなぁ。
 こりゃぁ、商人が依頼する相手を間違えたってことか。

「そんなことより、さっきの話は本当ですか?」

 今度は魔法使いの女がダンクスに詰め寄った。
 魔法使いとして、先ほどの魔法がいかに高度なものか理解できたんだろう。

「そうよ。この子はこんな見た目だけど、魔法に関しては天才だからね」
「で、でも、こんな小さな子が、どれだけ天才なの!」

 俺が幼児にしか見えないために、魔法使いの女は信じられないようだ。

「こう見えても、一応12歳なんだけどね」

 そこで、シュンナが俺の代わりに年齢を教えてくれた。
 本当なら俺が答えるべきなんだろうが、やはり俺は人見知り、シュンナやダンクス以外の人間だと話すことができない。
 これもいつかは治さないと、いろいろ問題がありそうだな。

「12歳? そうなの! あっ、ごめんなさい」

 俺を小さな子供と思っていたことに対しての謝罪だ。

「いや、いい。よくある」
「そう、ごめんね」

 さすがにこれには俺が答えるしかないために、そう答えたら魔法使いの女は笑顔でそういった。
 やっぱり、子ども扱いのままだな、まぁ、いいけど。

 その後、いろいろ質問されたが、シュンナが間に立ったことで何とか答えることができた。
 もちろん、その際メティスルに関しては話さないほうがいいということがあるので、かなりごまかした。
 すると、女は何か納得したようで、それ以上の質問はなかった。
 これは、あとでシュンナたちに聞いたことだが、おそらく俺が賢者スキル持ちだと思ったんだろうということ。
 どういうことかというと、賢者スキルというのはメティスルの下位互換スキルなわけだがこれもまたかなり珍しく、もし国のそれなりの機関に見つかるとかなり面倒なことになるとのことだった。
 そのため、よほどな奴じゃない限り自分から公表することはないそうだ。

「それで、こいつらの宝と報奨金はどうするんだ」

 いつまでも話していてもしかたないということで、ダンクスがそう言ってリックに尋ねた。

「ああ、それはそっちでもらってもらって構わないよ。俺たちは結局何もしていないからね」

 リックがそう言った。

「おい、リックふざけるなよ。こいつらは俺たちの得物だぞ。勝手にしゃしゃり出てきて横取りさせてんじゃねぇよ」

 例のよってレントが文句を言い出した。

「どうなるんだ?」

 俺はよくわからないので、近くにいたシュンナに聞いた。

「この場合は話し合うんだけど、まぁ通常は折半よね。そのほうがあとくされがないから」

 ただし、今回は俺が盗賊を魔法で全滅させたから、リックのいう通り俺たちが総取りでも問題はないそうだ。
 といっても、俺たちはこの間の盗賊討伐でかなりのもうけを出したから、カリブリンで出した出費のほとんどを回収できてんだよなぁ。
 だから、これ以上金があっても使いきれない。
 なにせ、今後カリブリンでやったように一度に大金を使うことなんてそうそうないからな。

「そんなに、いらないだろ」
「そうね。あたしたち今、かなり持ってるしこれ以上あってもねぇ。だからといって全部向こうにってのもあれだし、やっぱり折半がいいんじゃない。もともとあっちが戦っていたわけだしね。どう?」

 それから、幾度の問答はあったが結局折半ということとなった。

「これで決まりだな。んで、そうと決まればこいつらのアジトはどうすんだ。スニル、一応1人は生かしているんだろ」
「ああ、一応ね」

 実は先ほどの魔法で赤表示した盗賊を1人、気絶させるだけの衝撃が当たるようにした。
 ダンクスはそれを見抜いていたというわけだ。
 それから、冒険者たちが驚く中ダンクスが生きているやつを見つけ、アジトの場所を聞き出した。

「おう、わかったぜ。誰が行く? 何なら俺1人で行ってくるが」
「いや、1人はさすがに無理なんじゃ」
「私たちも行きますよ」
「盗賊のアジトですか。それなら問題ありませんよ。何でしたら、いいものがあればその場で買い取らせていただきますよ」

 さすがは商人目ざとく盗賊の宝に興味を示したようだ。
 そんなわけで、俺たちは全員で盗賊のアジトへ向かうこととなった。


 そうして、アジトにたどり着き残っていた盗賊をさっさと討伐、いよいよお宝とご対面である。

「へぇ、結構あるな」
「ええ、ええ、なかなかいいものがございます」

 盗賊の宝物庫には大量のお宝があり、商人はほくほく顔をしていた。
 そんなわけで、それならと商人にここにあるお宝を鑑定してもらい、その総額を半分に分けることにした。
 尤も、宝を全部馬車に詰め込むことになったために、冒険者たちが乗るスペースがなくなってしまい、歩く羽目となり、またもやレントが文句を言っていた。
 ほんとこいつなんなんだろうな。

 とまぁ、そんな連中と出会ったのも縁というわけで、俺たちは連れ立って次の街まで行くことになった。


 街道に戻って来てしばらく歩いていると、俺の体力が尽きてきたために、いつものようにダンクスの肩に乗った。

「スニル君、どうしたの?」

 俺が急にダンクスの肩に乗ったものだから、魔法使いの女ことカリンが聞いてきた。

「スニルの体力は見た目通り、あんまりないからね」
「なんだ、なさけねぇ」
「へぇ、そうなんだ。でも、そこ楽そうだよね」
「見晴らしもよさそう」
「ああ、確かに、あたしも一度乗ったことあるけど、結構いいわよ」
「へぇ、いいなぁ」

 俺の体力のなさに、悪態をつくレントを無視するようにカリンとエリーがうらやましそうにして、それに俺ではなくシュンナが答えた。
 確かにシュンナのいう通り、見晴らしはかなりいいんだよな。まぁ、だからといってテンションが上がるわけでもないけどな。

 とまぁ、道中はこんな感じで和気あいあいと進んでいった。

 そして、街につき例のごとくのもめ事を通過したのち、ようやく街に入ることができたのだった。

「それじゃな」
「さよなら」
「名残惜しいけど」
「また会いましょう」
「ふんっ」

 街に入ったところで冒険者たちとは別れることになったので、彼らは口々に別れの言葉を述べたが、やはりレントだけは鼻を鳴らすだけだった。

「ええ、また」
「おう、じゃぁな」
「それじゃ」

 そんなわけで、俺たちも別れの言葉を述べ、彼らと別れたのだった。

「いやぁ、ありがとうございました、お三方のおかげで無事生き残ることができた上に、このようなものを手に入れることができて、本当にありがとうございました」

 今度は商人との別れなわけだが、彼にとって俺たちとの出会いはまさに幸運だったようで、道中何度も専属の護衛にならないかと誘われた。
 もちろん、俺たちは旅を目的にしているためにこれを断った。

 こうして、一時的に行動を共にした者たちと別れ、俺たちも宿を探して歩き出す。

「コロントさんが、言ってた宿に行ってみる?」
「そうするか」
「それがいいだろうな」

 コロントというのは商人の名前で彼はこの街で商売をしているらしく、宿を聞いたら教えてくれた。
 尤も、最初は自分のところに泊まってくれと言われたんだけど、これについては断らせてもらった。
 というのも、これを受けてしまったらあれよあれよと護衛を受けざるを得ない状況になってしまいそうだからだ。

 そんなわけで、コロントから聞いた宿に向かってみる。

「ここだな。ウミリーカ亭か、どういう意味だ」
「さぁ、聞いてみようか」

 ウミリーカという言葉はこの国には存在しないから、俺もにもどんな意味の言葉から全くわからない。

「あらっ、いらっしゃい」
「こんにちは、お部屋開いてます。あたしたちコロントさんからの紹介で来たんですけど」
「あらっ、コロントからの。ちょっと待ってね。えっと、お部屋は3つでいいかしら」
「開いてるなら、それで、なかったら1つでもいいですけど」
「大丈夫よ。ちゃんとお部屋3つ開いているわよ」

 大きな街だけあって宿の数も部屋数も多いために個別に部屋をとることができた。

「それはよかった。それじゃ頼む」
「はいな」
「ところで、宿の名前ってどういう意味なんですか?」

 シュンナが宿の名前を尋ねた。

「ああ、これはね。よく聞かれるんだけどね。そんなたいそうな理由はないのよ。宿を作った夫の祖父が思い付きでつけた名前だそうよ」

 ただの思い付きだった。そりゃぁ、意味のない名前になるよな。
 それにしても、何を考えたらこの名前になるのか、おかみさんによるともはやだれにもわからないそうだ。
 とまぁそのあと、部屋にそれぞれ案内されてその日は休むことになった。


 翌日、俺たちは街の中を見て回っていた。

「この街はどのくらいいる予定だ」
「そうだな、3日か4日は居たいところだな」
「それじゃ、今日は別行動ってことでいい」
「だな」
「ああ、そうだな」

 というわけで、俺たちは別行動をとることになった。

 俺がまず向かったのは雑貨屋、カリブリンで雑貨屋を営むシエリルとワイエノの店で世話になっていたからか、ちょっと気になったので行ってみることにした。

 俺がやってきたのは大通りに面した雑貨屋だが、大きな街だけあって商品も多いな。
 まぁ、2人の店と比べるほうがおかしいんだけどな。
 なにせ、あの店は冒険者向けの小さな店だからな。
 まぁ、今ではかなりの利益を上げたことで、そこらの商会よりも資産はでかいんだけどな。

「あっ、これは!」

 店内をざっと見て回っていると、見つけてしまった。

「フリーズドライ」

 隣街だし、あるだろうとは思っていたけど本当にあるとは、驚きとともになんだかうれしいような気がする。
 値段はちょっと割高になっているな。
 でも、そうなるとあんまり売れないんじゃって思うんだけどな。
 というのも、冒険者ギルドでもこのフリーズドライは販売されており、その値段は確かにカリブリンからの輸送費分少しだけ高く設定されるが、それでもせいぜいが10トラムほどに設定されているはずだ。
 それに対して、この店のフリーズドライは50トラム上がっている。
 つまり、ギルドで買ったほうが40トラムも安くなる計算だ。

「おやっ、お気に召しましたかな。こちらは先ごろカリブリンで発売された商品でして、多くの方からご愛好頂いてますよ」

 俺が見ていると、背後からそんなことを言いながら1人のおっさんが現れた。

「……ギルドでも売ってる」

 俺はこの言葉にギルドのほうが安いんじゃないかと告げてみた。

「ええ、確かにギルドでも販売されておりますが、こちらのほうが良い物を仕入れていますよ」

 おっさんはこともなげにそう言いだしたわけだが、残念だがそれはない。
 そもそもフリーズドライはシエリルとワイエノの店でしか作っていないし、何よりその魔道具は俺自身が作ったもので、確かに多少工場や調理担当によっては違いがあるかもしれないが、品質は同じだ。
 つまり、このおっさんはうそを言っていることになる。

「そうか」

 俺は一言そう言ってから店を出た。
 店を出るとき背後では、おっさんが舌打ちとともに冷やかしかとつぶやいていたが俺は気にせずに外に出ていった。

 そんな風にあちこちの店を回りながら、1人のんびりと街を散策していた。

「ねぇ、これもう少し安くならない?」
「いいじゃない、サービスしてよ」
「こっちも生活があるんでね。これ以上は安くできないんですよ」
「ええっ、いいじゃない」

 通りを歩いているとふとそんな声が聞こえてきた。
 見たところ少女が3人、おそらく冒険者だろうが屋台の料理を値切っていた。
 値切ること自体はよくある光景なんだか、なんとも妙に気になる3人だな。
 まぁ、たしかに3人とも前世で見た大人数グループにいてもおかしくない容姿だとは思うが、シュンナのそばにいる身としては、それほど大したことないように見えてしまう。

 まぁ、それ以上は特に気にすることもなくその日の探索を終えて宿に戻った。
 そして、その翌日のことだった。

 朝、シュンナとダンクスを連れ立って街に繰り出していた。
 昨日は、大通りの散策だったために俺1人でも問題なかったが、今日は子供1人では入れそうにない店などを中心に回ってみるつもりだ。
 というわけで、3人で歩いていると、ふいにシュンナがダンクスの陰に逃げるように隠れた。

「? どうしたんだ?」
「シュンナ?」

 突然の行動に俺もダンクスも訝しみ尋ねた。

「うん、あそこ」

 俺たちが尋ねると、シュンナが恐る恐るといった感じにある場所を指さした。
 なんだろうと思い、その場所を見てみるとそこには昨日見かけた3人組の少女が、わいわい騒ぎながら門に向かっている最中だった。

「あの3人がどうかしたのか?」
「知り合いか?」
「う、うん、こんなところにいたんだ」

 シュンナがそうつぶやいたとき、おれの中である情報と一致した。
 それは、シュンナがかつて冒険者だったころ一緒にパーティーを組んでいた者たち、つまりシュンナに借金を押し付けて借金奴隷にした連中のことだ。

「なるほどな。あいつらか」
「人は見かけによらないってこのことだよな。まぁ、ダンクスを見ればわかることではあるが」
「うん、あれからどこに行ったのかと思っていたけど、この街にいたんだ」
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